15 ルーク、無双する
「ビットがやられたか……」
『ルーク。ラグナ到着まであと五分を切ったよ! もう少しだよ!』
そこへゴランのスピーカーから、バドラスの悪意のある嘲笑が響き渡る。
「これでお前の魔導機も残り一機だ。ほらどうした、逃げなくていいのか? まあ、逃がしゃしないがなぁ。がははは!」
「なら、そこら中に転がっているお前のエイパーも、邪魔だから片付けてくれないか?」
(まあ、ビットは魔導機じゃないけどな)
「はん。エイパーなんぞ、いくらでも補充できる。ただの使い捨てだ」
なるほど、あれだけの機体を失っても動じないか。エクス・マキナってのは思った以上に大きな組織らしいな。
(しかし、あの攻撃を連発されたら、正直厳しいな)
捕まえられないなら全てを破壊してしまえばいいという考えは、一見無駄が多く見えてもされる側にとってはかなりの脅威だ。
「お前と遊ぶのも終わりだ! 逃げた奴らをさっさと捕まえねぇとなぁ!」
それと同時にゴランが姿勢を低くする。
『ルーク。またあの攻撃が来るよ!』
「ああ、わかってる」
「じゃあ行くぜ。今度こそ、くたばりやがれぇ!!」
――大地が揺れる。
ゴランを中心に地割れが起き、放射状に火柱が上がる。
確かにこの攻撃は脅威だが、連続攻撃が来るとわかっていれば対策ができないわけじゃない。
迫りくる火柱をビットのシールドで防ぐと、俺は後ろからの攻撃に警戒する。
案の定、ゴランは俺の後ろに回り込み、強烈な拳を繰り出そうとする。
「それは、さっき見させてもらった!」
攻撃を見越していた俺は、余裕を持ってその拳を避けて距離を取る。
しかし、そこで違和感を覚えた。
おかしい。今の攻撃は、先程に比べて明らかに威力が弱く思える。
実際、残った一機のビットも攻撃に反応して、シールドによって防ぎきれている。
違和感を覚えて、動きが止まる。
だが、戦場におけるその一瞬が、致命的な隙となった。
『ルーク。上!』
ナイトの切迫した警告で上に視線を向けると、上空から無数の大岩が降り注いでくるのが目に入る。
――まさかの三段構えか!
(まずい、この量は避けきれない!)
そう判断した俺は避けるのを諦め、その場でリアクティブ・シールドを展開する。
リアクティブ・シールドでは、あの圧倒的な質量は防ぎきれないだろう。
だが最悪、致命傷だけでも避けられれば――そう願いながら防御姿勢を取り、衝撃に備える。
しかし、そんな俺の目の前で不思議な現象が起こる。
大岩がリアクティブ・シールドに当たる寸前で、淡い透明な障壁に阻まれたのだ。
「何が起こった?」
『ルーク大丈夫? あそこを見て!』
ナイトに促されるように、その方向を見るとそこには彼女がいた。
ノアが心配そうな顔でこちらを見ていて、その手には短杖が握られている。
もしかして、今のはノアが?
「なぜ、戻ってきた!」
「……ごめんなさい。でも、これは私の意地なの!」
俺を見つめるノアのその瞳には、何ごとにも揺るがない固い決意が宿っていた。
「しかし……いや、わかった。助かったよ」
「うん! それで私は何をすればいい? 一緒に戦うわ!」
「ありがとう。だけど、もう大丈夫だ――相棒が間に合った」
「相棒?」
俺はノアの瞳を見つめ、安心させるように微笑む。
そして、ゆっくりと空を見上げた。
太古の森の遥か上空――大気の壁を切り裂くように、一筋の「閃光」が凄まじい速度で降下してくるのが見える。
超音速の金属摩擦音が遅れて鼓膜を震わせる。
聞き慣れたジェネレーターが出す駆動音だ。
『ルーク。ラグナが到着したよ』
凄まじい地響きを立てて地面に降り立ったダークグレーの機体。
俺はその圧倒的な威容を見上げ、呆然と立ち尽くすノアに「下がっていろ」と短く伝えると、開かれた胸部ハッチへと跳躍し、コックピットへ滑り込んだ。
ハッチが閉鎖され、全天周囲モニターが一斉にオンラインになる。
体内の『ドットギア』がラグナと完全に同期し、まるで己の肉体が巨大化したかのようなあの全能感が、脳内を駆け巡った。
ラグナの状態は万全とはお世辞にも言えないが、先程までゴランと戦っていた感覚から、今の状態でも十分すぎる戦力だと感じる。
「――よし、反撃の時間だ!」
俺は残りのビットにノアの護衛を任せ、ゴランを見据えた。
「まさか、お前も魔導機兵を持ってやがるとはな。だが、何だその貧弱な機体は」
ラグナの登場で、最初は驚いていたバドラスだったが、ラグナのサイズが自分の魔導機兵に比べて小型だとわかると、明らかな侮蔑を込めて嘲笑してきた。
確かにバドラスの乗るゴランは、ラグナの一・五倍ほどもある巨体だが、その内に秘める実力には雲泥の差がある。
「なら、試してみるか?」
「はん! いい度胸だ! 軽く捻り潰してやるぜ!」
そう言うと、ゴランがラグナに向かって猛スピードで突進してくる。
別にそれに付き合ってやる必要も無いのだが、これまでのバドラスの言動に、俺も頭にきていたらしい。
襲い来るゴランの拳を、俺は片手で受け止める。
そして、そのままの勢いで投げ飛ばすと、ゴランの巨体が地面をバウンドしながら吹き飛んでいく。
「ふん、少し足が滑っただけだ!」
馬鹿の一つ覚えのように、何度も突進を繰り返すゴランを、ラグナの調子を確かめるようにあしらう。
(なるほど、今の出力だとこの程度なのか)
俺が冷静にラグナの現状を分析していると、自分の攻撃が当たらないバドラスは、何が起こっているのか理解できずに動きを止めた。だが、次の瞬間には激しい咆哮を上げる。
「馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ゴランから聞こえるバドラスの叫びと同時に、ゴランが姿勢を低くする。
「次は火柱攻撃か。だが、させるわけがないだろ。隙だらけだぞ」
俺は抜き放った『マテリアブレード』を正眼に構える。
「ミズキ流・壱の形〈流旋〉!」
次の瞬間――。
俺と同期したラグナが完全に俺の動きをトレースする。
――踏み込みと同時に、川の流れのように剣が走る。
斬撃が弧を描き、ゴランの頭を切断。同時に四本の腕を切り落とした。
「なっ……そ、そんな馬鹿な!? 貴様何をしやがった!」
「隙だらけだったんでな、遠慮なく斬らせてもらった」
「ふざけるな! 俺様のゴランがこんな貧弱な奴に負けるわけがねぇ!」
なおも抵抗を試みようとするゴランの胸部を掴み、ハッチをこじ開ける。
そこには驚愕と怒りが入り混じった表情のバドラスが、こちらを見上げていた。
「大人しく投降しろ」
「ふざけんな!」
「はぁ、仕方ない。……ナイト。ビットでスタングレネードを打ち込んでくれ。強めのをな」
「なっ、やめ……ぐがガガァ……」
ビットから至近距離で放たれたスタングレネードにより、バドラスはぐったりと意識を失った。
俺はラグナから降りると、気絶したバドラスの身体から危険な魔導装備をすべて剥ぎ取り、その身を縛り上げた。
「ふぅ、終わったな」
すると、俺に近づいてくる気配を感じる。
「あ、あの。ルーク?」
(そうだな、こっちの問題が残っていた。さて、見られてしまった以上さすがにごまかせないか……)
「ルークも魔導機兵を持ってたんだ! ものすごく強いんだね!」
(魔導機兵……。まあ、確かにここの住民からしたら、ラグナは魔導機兵に見えるのか)
『ねえルーク。丁度いいから、その設定を使わせてもらったら?』
(なるほど。確かに、それなら今後の行動に都合がいいか)
「この魔導機兵は、何ていう名前なの?」
「こいつは『ラグナ』だ」
「へぇ、ラグナって言うんだ。格好いい名前だね!」
ノアはそう言って微笑む。
――その後、しばらくしてファルとリリーナから連絡を受けたジェトスたち、シルフィードファミリーの部隊が駆けつけてきた。
バドラスを引き渡し、これで一件落着……とはいかなかった。
「……ルーク。後で詳しく聞かせてもらうからな」
ジェトスからは「逃げるなよ」と言わんばかりの鋭い視線で睨まれてしまった。
「はぁ……。まあ、そうなるよな……」
俺はこれから始まるであろう質問攻めのことを思い、深くため息をついた。
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これで第一章終了です。
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