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14 ルーク、決断する

『ルーク避けて!』


 突如出現した深紅の魔導機の腕から、次々と火球が放たれる。

 その一発一発が、常人なら即死級の威力だ。


「来たなゴラン! いいタイミングだぜ!」


 バドラスの言葉に応じるように、深紅の魔導機が姿勢を低くする。

 魔導機の胸部ハッチが開き、バドラスが中へと乗り込んでいく。


「あの魔導機は搭乗型なのか!?」


 俺はバックステップで魔導機から距離を取り、体勢を立て直すと巨大な魔導機を睨みつける。


「がはは、驚いたか! これが俺様の『魔導機兵ゴラン』だ。エイパーどもと一緒にするんじゃねえぞ!」


 バドラスの魔導機兵『ゴラン』が繰り出す、その圧倒的な質量を乗せた拳の一撃は大地に大穴を開け、四本の巨腕から放たれる火球は大地を灼熱へと変える。


『どうするルーク? さすがにこのまま戦うのは危険だよ』


 幸い巨体ゆえに一つ一つの動作は鈍く、回避は十分に可能だ。しかし、あの装甲と火力が厄介極まりない。


「ナイト。ビットのビーム兵器は効果ありそうか?」


『無理だよ。宇宙空間と違って、惑星の大気中では減衰が激しすぎて使い物にならないよ』


「そうか。……あの装甲は、実弾も通さないだろうな」


『そうだね、アサルトライフルよりは強力だけど、おそらくあの装甲は貫通できないと思う』


 どう考えても今の兵装では、攻め手に欠ける。八方塞がりだな……。


(さて、どうする)


『ルーク。ラグナを呼び寄せたらどう?』


(ラグナは統合体の試作機(トップシークレット)だぞ? 本部への通信リンクが不可能な現状、承認なしにラグナをここの住人に見られるリスクは侵したくない)


 ラグナの件については、不時着した時点から検討は続けている。しかし、この惑星の情報がまだ少ない現状、余計な混乱を招く恐れがあるラグナを見られるのは出来れば避けたい。


『でも、それは平時の話でしょ。今は明らかに戦時だよ。統合体の規則にも違反しないよ』


(しかし……)


『それなら、三人にはここから退避してもらったら? 幸いエイパーの掃討は終わってるから』


 確かに現状、打開策はそれしか無いか……。

 俺にとって、現状なにが一番優先かを考える。


 ――そうだな。彼女たちの護衛。それが、今俺の受けている最優先依頼(ミッション)だ。


(わかった、許可する。ラグナを呼び寄せてくれ)


『了解だよ。ラグナの今の出力だと、到着まで約十五分だよ』


 よし、そうと決まればノアたち三人には、ここから退避してもらう必要がある。

 俺はノアたちに聞こえるように大声で叫ぶ。


「ノア! 依頼は一旦中止だ。お前たち三人は今すぐここから退避だ!」


「ルークはどうするの?」


「こいつは俺が抑える!」


 しかし、三人は撤退するべきか決めかねているようで、動かないでいる。


「でも、ルーク一人じゃ……」


「今は議論している暇はない! 早く行け!」


 ノアたちには申し訳ないが、ラグナを見られるわけにはいかないからな。

 それに本格的な戦闘になった場合、身の安全が保証できない。


「……わかったわ。でも、絶対無事で戻ってきてね」


「ああ、約束する!」


 当然、三人の撤退をバドラスが見逃すわけもなく、移動を開始した三人を阻止すべく、ゴランが巨体の向きを変える。


「おいおい、見逃すわけがねぇだろ! その三人はこの後の楽しみなんだからよお!」


 まったく、いちいち癇に障るやつだ。

 言葉が通じない分、ガルムの方が幾分マシに見えてくる。


 ゴランが俺を無視して三人に向かおうとするのを、俺は見逃さない。


(ナイト。ビットに右脚の関節部分を集中攻撃させろ)


 即座にビットが攻撃を開始する。

 ほとんどダメージは無いとは言え、弱点部分への攻撃は嫌だろう。

 案の定、ゴランは攻撃を嫌って動きを止めた。


「どうしたゴラン。言うことを聞け!」


「相棒は、お前の言うことを聞きたくないみたいだな、バドラス!」


 三人の退避とラグナ到着までの時間を稼ぐために、機動力を生かしゴランを翻弄する。

 予想通り防御と攻撃力は相当なものだが、小回りはその図体の大きさもあり隙が大きい。


「なんだぁ、この空飛ぶ魔導機は! ちょこまかと動きやがって!」


 俺は二機のビットと連携して攻撃を続ける。

 流石に俺一人にターゲットを集中されるのはリスクがあるからな。


 ゴランの装甲は関節部分といえど、その巨体を支えるだけあって出力の弱まった単分子カッターでは僅かな傷をつけるのがやっとだった。


「やはり、無理か」


 装甲の半分にも届かない所で刃が止められてしまう。


『ルーク。ラグナ到着まであと十分』


 しかし、ナイトの報告が届いた瞬間。

 急にゴランが姿勢を低くする。


「どうした?」


『マナが急速にゴランへ集まっていくよ!』


 これは嫌な予感がする!


「そんな攻撃はこのゴランには通用しないと、まだわかんねえのか! だが、これで終わりだ。くたばりやがれぇ!!」


 ――バドラスの咆哮と共に、大地が揺れた。


 次の瞬間。ゴランを中心に地割れが起き、放射状に火柱が上がる。


「まずい!」


 すかさず、ビットが俺の前に滑り込みシールドを展開する。

 ビットの前面に半透明な光が浮かび上がり、青い幾何学模様の光が走る。


 ゴランの攻撃は確かに強力だが、ビットのシールドを貫通するほどの威力はない。

 この攻撃が収まったら、引き続き攻撃を仕掛けよう。


 ――そう思った瞬間。背後から声が聞こえた。


「おらぁ! 後ろががら空きだぜ!」


 バドラスの声に後ろを振り向いた俺の目に映ったのは、迫りくるゴランの巨大な拳。


(紅蓮の火柱で視界を遮り、その隙に背後へ回り込んだか!)


 俺は咄嗟に身体強化を最大に上げ躱そうと試みる。

 何とか直撃は免れたものの、風圧を孕んだ質量が身体をかすめただけで、俺は十数メートルも吹き飛ばされ、激しく木の幹に叩きつけられた。


『ルーク!』


「くっ……。大丈夫だ」


 肺の空気を強制的に吐き出され、軋む骨に鞭打って立ち上がる。

 だが、その目に入ってきたのは無惨にも半壊して機能を停止したビットの姿だった。




 ◇




 ――私は必死で森を走る。


 エイパーを圧倒していた、あのルークが苦戦を強いられていた。

 それも当然だ。あの真紅の魔導機兵は圧倒的な強さだった。

 あれは、おそらくエクス・マキナの隊長クラスが乗ると噂の特殊な魔導機兵だ。


「あのルークが手も足も出ないなんて……」


「いくらルークさんでも、生身で魔導機兵には勝てるはずありませんわ……」


「ルーク、大丈夫かな……?」


 走りながら、私は激しく迷っていた。


 ……本当に私たちだけで、逃げてもいいの?

 一緒に戦う? でも、私に何ができるっていうんだろう?


 ルークは圧倒的な強さのバドラスの魔導機兵『ゴラン』を前にしても、まったく諦めた様子はなかった。

 それに比べ、私は……。絶望的な光景を見た時から、半分諦めの気分になっていた。

 自分の無力さが悔しくて、涙が溢れてくる。


「こいつは俺が抑える!」


 あのときのルークの言葉には、有無を言わせない強い決意があった。


「……わかったわ。でも、絶対無事で戻ってきてね」


「ああ、約束する!」


 ここで私たちにできることは、ルークの邪魔にならないことだけ。

 悔しいけど、今の私たちじゃ何の役にも立てない。


 そう自分に言い聞かせ、私はルークの指示に従って全力でアルヴェイルへと走る。



 ――でも、本当は怖くて逃げ出しただけじゃないの?


 違う! そんなことない!


 早くこのことをファミリーに知らせる。そして救援を出してもらう。

 それが、今私がやるべきことなのだと必死に思い込もうとする。

 でも……ルークから離れれば離れるほど、私の心は重くなっていった。


 さすがのルークでも、あの巨大な魔導機兵は倒せないだろう。

 それでも私たちを逃がすために、たった一人で戦ってくれている。



 ――本当に、このままでいいの?


 ルークをファミリーに誘うように、お父さんに紹介したのは私だ。

 それなのに、そのルークを犠牲にして私たちだけ生き延びて……私はこれから、胸を張って『シルフィードファミリー』を名乗れるの?


「……ねえ、やっぱり私は残るわ! 二人は急いで戻って、このことをみんなに知らせて!」


「え? ノアさんはどうするのですか!」


「私はルークを手伝うわ。私の魔導器は後衛型だから、少しでもサポート出来ると思うの!」


「えっ!? でも!」


「お願い! 二人は少しでも早く救援を呼んできて!」


 そう言って私は、踵を返して今来た道を全力で戻る。


 これは、ファミリーにルークを誘った私の責任。

 そして――シルフィードファミリーとしての、私の意地よ!

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