13 ルーク、キレる
「おい、そこに隠れてるお前ら。大人しく出てきな!」
(さて、どうしたものか)
隣のノアたちを見ると、明らかに怯えた様子を見せている。
状況からして、味方の可能性は限りなく低いか……。
俺は頭の中で、いくつものプランを考える。
(ナイト。至急ビットを呼び寄せてくれ)
『じゃあ、二機を呼び寄せるね。到着までは、およそ十分だよ』
(了解だ、時間を稼ぐ。……あの大男バドラス、嫌な予感がする)
「おい、こら! 出てこいって言ってんだよ! 出てこねぇつもりなら、出てこさせるしかねえっ……なぁ!」
次の瞬間、バドラスが突然崖下に降下してきたと思うと、両手の拳を地面に叩きつけた。
そこから爆音と共に火柱が立ち上り、俺たちの方へと迫ってくる。
(まじか、何だよそれ!)
俺は咄嗟に三人の前に出ると、白兵戦用の『リアクティブ・シールド』を作動させる。
バドラスが発生させた火の柱が当たる瞬間、俺の全身に薄い半透明のエネルギー障壁が展開された。
障壁表面に青白い幾何学的な光が浮かび、火柱を周囲へ拡散していく。
「みんな大丈夫か?」
「え? う、うん。私は大丈夫……だけど、ルークは怪我はないの?」
「ああ、問題ない」
三人の無事を確認し、内心で小さく息をつく。
本当は統合体の技術をあまり見せたくなかったが、緊急事態だ、仕方がない。
俺はバドラスを睨みつけた。
「おい! いきなり攻撃してくるとは、どういうつもりだ」
バドラスは、自分の攻撃が効かなかったことに、驚きを隠せないでいるようだ。
「なんだぁ!? そりゃ魔導器か?」
「聞いているのはこっちだ! なぜ、いきなり攻撃してきた!」
だが、バドラスは俺の問いを意に介した様子もなく、豪快に笑い飛ばす。
「がはははっ、こりゃおもしれぇ! 俺の魔導器『ボルケーノ』の攻撃を受けて怪我ひとつ無いとはな!」
(なるほど、やはりあれは魔導器ってわけか)
『ルーク。あの攻撃、何度も耐えられないから気をつけてね』
(ああ、わかってる。だが、当たらなければどうということはないさ)
「それでだ、お前らはここに何しに来やがった? まさかとは思うけどよ、俺の獲物を横取りしに来たなんて言わねえよなぁ?」
「それはこっちのセリフだ! こっちはファミリーの依頼でシーカー族を調べていただけだ」
「ファミリーだぁ? ん? その印……」
身につけていたファミリーの腕章を見たバドラスの口角がゆっくりと釣り上がる。
「そうか、お前らシルフィードってわけか」
「……あのね、ルーク。エクス・マキナは、国から第一級犯罪集団として認定されてるのよ」
ノアが背後から小さな声でささやく。
なるほど、予想はしていたが犯罪集団ってわけか。
「しかもシルフィードが今の地位にいるのは、エクス・マキナを多く討伐してきた結果なの」
なるほど。
どう転んでも、見逃してはもらえそうにないな。
「それで? 俺たちがシルフィードだったらどうだって言うんだ?」
俺がそう返すと、バドラスは獰猛な笑みを浮かべた。
「そりゃぁ。生かして帰す理由はねぇよなぁ」
そして、右腕をゆっくりと振り上げる。
「殺れ! エイパーども」
その号令を受け、バドラスがエイパーと呼んだ、銀色の猿に似た魔導機が一斉に姿勢を低くした。
「お前たちは自分の身を守れ!」
俺は三人を背中に庇いながら、俺たちに向かって飛びかかってくる敵を視界に捉えると、単分子カッターを刀型に変形させて斬り伏せる。
しかし、切った時の感触にガリガリという抵抗を感じた。
(なぜだ、ナイト。抵抗を感じるぞ?)
『多分この物質は、分子と分子の結合力が強いんだよ。単分子カッターのエネルギー消耗が激しいから気をつけてね』
(了解だ)
その後も、襲い来るエイパーを一体、二体と斬り伏せていく。
「凄い……」
「……うわ、すっご」
「な、なんですのこの強さ!?」
「一度体勢を立て直す。このまま、少しずつ後退するぞ」
三人を庇いながらの戦闘は、不測の事態に対処しづらい。
本気の反撃は、ビットが到着してからだ。
(ナイト。ビットはどうなってる?)
『あと五分で到着するよ!』
(よし。到着したら、一機は三人の護衛に当たらせろ、もう一機は俺のサポートだ)
『了解だよ』
俺はエイパーに対応しつつ、バドラスの動きにも注意を払う。
バドラスは指示を出した後は、腕を組んだままその場を動かず、まるで見世物でも眺めるかのように薄ら笑いを浮かべている。
なぜ向かってこない。手駒を消耗させるだけだとわかっているだろう?
(やはり、嫌な予感がする)
その不安がますます強くなる。
いや、何かがあったとしても三人を守りながら、敵の戦力を削るのが最優先だ。
ビットを待ちながら、深追いせず向かってくる敵だけを屠っていく。
「ふぅ……。だいぶ減らしたな」
攻められっぱなしってのは、戦いにおいて精神力を極端に削られる。
包囲されての戦闘に、三人の精神状態も限界だろう。
そこへ、今まで黙っていたバドラスが声を上げる。
「どうした、エイパーどもはまだまだいるぞ。多少やるようだが、お前一人で全部を相手にするつもりか?」
「お前は来ないのか? 指図するだけか!」
「ふん、俺様が直々に手を下すまでもないってだけだ」
じわじわと、体力を削られてはいるがビットが到着すれば問題ない。
「そっちの小娘どもなら話は別だがなぁ。大人しくしてりゃあ、俺様が後で直々に相手してやるぞ? がはは!」
それを聞いた三人の気配が強張るのを感じる。
(……下品なやつだ)
『ルーク。もうすぐ到着するよ』
(よし、来たか!)
待ちに待った援軍の到着だ。
「いいかみんな、これから俺は攻勢に出る。少しの間、三人で協力して身を守ってくれ」
「ルーク一人で大丈夫?」
「問題ない。すぐに終わらせる」
そう言って、三人を安心させるように微笑んで見せる。
「さあ、ここから反撃開始だ!」
視界の端にビットが到着した事を知らせる、通知が表示される。
(ナイト。手筈通り一機は三人の護衛に付けろ)
『了解だよ』
俺はビットから送られてくる敵の位置情報を確認する。
エイパーの数は残り二十七体。
(バトルモードだ)
ドットギアにより、筋力の他、瞬発力及び動体視力が強化される。
一番近い敵へ瞬時に接敵し、強化されたパワーで叩き切る。
今まで抵抗を感じていた装甲を、紙くずのように両断する。
「なにっ! なんじゃそりゃ!?」
今まで、余裕の態度を見せていたバドラスが初めて動揺の色を見せる。
俺はそれに構わず次々とエイパーを葬っていく。
俺が離れた事で三人に向かうエイパーもいたが、護衛に付けたビットが上空から狙撃し始末する。
次々に倒されていくエイパーを見て、バドラスだけでなくノアたち三人も唖然とした表情を見せている。
(あとで、質問攻めに遭いそうだがしかたない)
危険を察知していながら見過ごした——今の状態は完全に俺の判断ミスだ。ガルムという脅威から離れ、新しい環境に気が緩んでいたと認めるしかない。
「ここで、ミスを帳消しにさせてもらう」
エイパーが俺の動きに反応できず、棒立ちになっている所を容赦なく斬り伏せていく。
「――残り十体」
「なめやがって、今までは様子見だってか! ……まあ、いい。それなら俺が相手になってやるぜ!」
そう言うと、バドラスは俺に向かって例のボルケーノという攻撃を放ってくる。
「それはさっき見させてもらった! 隙だらけだ!」
バドラスのボルケーノを躱し、懐に入ると胴を薙ぎ払う。
――ガキンッ!
「なっ!」
今までどんな敵でも一撃で葬ってきた単分子カッターが――止められた。
その瞬間、バドラスの拳がこちらへ迫ってくる。
間に合わず、腕でブロックするが、まるで岩に殴られたような衝撃が走る。
数メートル吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられた。
(ぐっ……馬鹿力め。シールド越しでこの威力か)
『ルーク。その装甲、今までのとは違い分子構造が歪なんだよ。それに単分子カッターの出力も下がってるよ!』
ここまでに葬ってきた敵の数は三十五体。さすがの単分子カッターもエネルギーが持たないか。
……仕方ない、あまり見せたくなかったが。
俺は背中からアサルトライフルを引き抜き、バックステップで距離を取る。
「そりゃ、何の魔導器だ? 俺様にチンケな魔導器は効かないぜ? がはは!」
俺の攻撃を防いだことに、調子に乗っているバドラスに銃口を向ける。
「ナイト。バドラスの各部位にロックオン」
『了解だよ』
バドラスの頭、両手、胸、両足。全てにロックオンマーカーが表示される。
それを確認し躊躇無くトリガーを引く。
六筋の光条がバドラスに向かって放たれる。
「なっ!」
バドラスは危険を察知したのか、攻撃を避けようとするが、ロックオンされた時点で、避けるのは不可能だ。
エイパーを盾にしようとしたバドラスへ、光条が直撃する——そう思った瞬間、バドラスを庇うように突然大きな影が空から降ってきた。
――地響きと共に現れたのは、深紅の魔導機。
その姿をあえて形容するなら『アーマーを纏った鋼鉄のゴリラ』。
異様に太い四本の腕、大きな顎からは二本の禍々しく長い牙が突き出ていた。




