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12 ルーク、料理を振る舞う

『ルーク。そろそろ血抜きが終わったんじゃない?』


 不安の渦に引きずり込まれそうになっていた俺を、ナイトの声が現実へと引き上げる。


「……ああ、そうだな」


『どうしたの?』


「不時着時のことをちょっとな」


『そっか。みんなも早く見つけてあげないとね』

「ああ」


 不安を打ち払うかのように頭を振る。

 血抜きが終わったウサギモドキを掴み上げ内臓を取り出すと、三人の元へスプリントモードで急いで戻る。


「あ、ルーク! 戻ったのね。用意はできてるわよ」


 ノアが俺を見つけて声を掛けてくる。

 それに気づいたファルとリリーナも駆け寄ってきた。


「あっ、『ミルクラビット』だ〜!」


 俺が手に持つ獲物を見ると、ファルが飛び跳ねて喜ぶ。


「ミルクラビットはジューシーで凄く美味しいんですけど、警戒心が強くてすばしっこいので、捕まえるのが難しいのですわ」


 リリーナも目を細め、期待のこもった表情を見せる。


 なるほど、こいつはミルクラビットって言うのか。

 確かに前に食べた時も、程よく脂身があり柔らかくて美味かった事を思い出す。


「凄く人気で高級品なのよ」と、ノアも嬉しそうだ。


「血抜きと内臓の処理は済ませてきたから、すぐに料理を始めるよ」


「じゃあ、これも使って」


 そう言ってノアが取り出したのは黒い粒。


 もしかしてと思い、一粒摘んでかじってみる。

 舌に伝わるピリッとした痺れ。これは胡椒だ!


 調理器具なども無いし、簡単にできる焼肉にしよう。

 近くにあった大きな石を単分子カッターで真っ二つにする。


 それを見ていた三人が驚きの声を上げるが、実家の家宝だと笑って誤魔化しておいた。


 焚き火の上に平らな面を上にして乗せる。

 その際、リリーナが短杖で薪に火を付けていた。

 あれは以前ノアに聞いた『魔導器』というアイテムだ。


『魔導器』は『魔導機』とは違い、契約の必要が無い便利アイテムだという。


 石を熱しているうちに、調理を始める。

 以前採取しておいた数種類のハーブ、ニンニクモドキ、塩、酸味のある果実を取り出すと、ノアにもらった胡椒を混ぜ合わせてタレを作る。


 肉はすぐに焼けるように、小さく切り分ける。

 すると、それを見た三人から小さな悲鳴が上がる。


「……ええ、そんなに小さく切っちゃうの〜!?」


「せっかくの、ミルクラビットが……」


 などと言っているが、どうやらこの世界ではミルクラビットは丸焼きが常識なのだという。


(丸焼きも豪快で食べてみたいが、焼肉も美味しいと思うぞ)


 あとは石が温まるのを待つだけだ。

 簡単だが、調理器具が無く調味料も少ない現状ではこのくらいしか出来ない。


 石が十分に温まったのを確認すると、三人に食べ方を実践して見せる。


 小さく切った肉をタレにつけて、石の上に置く。

「ジューッ」という音とともに、肉とタレが焼ける香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。


「そろそろいいな」


 肉が焼けるのを確認して、口に放り込む。

 口に入れた瞬間、食欲をそそるニンニクとハーブの香りがスパイシーな胡椒の風味と共に広がり、噛むと程よい脂と肉汁の旨味が口の中を満たす。


「……うまい! この酸味のある果実を入れたのは正解だな」


 俺が肉の旨味を噛み締めていると、服の裾をクイ、と引っ張られる。


「あの、ルーク……」


 三人がじっと俺を見つめている。

 ファルにいたっては、よだれを垂らしていた。


「ああ、ごめん。凄く美味しいからみんなも食べてみろ」


 俺が肉とタレを差し出すと、三人が一斉に肉を焼き始める。


「……っ!? 美味しい!!」


「なにこれ、すごく柔らかい! 僕これ好きかも〜」


「この一緒に焼くタレが肉に合いますわ!」


 三人が思い思いの感想を言いながら、ものすごい勢いで食べ進める。

 みるみる減っていく肉を見て、俺も慌てて焼き始める。


(四人分には十分だと思ったが、……食べきってしまったな)


「急ごしらえにしては美味かったな。タレはまだまだ研究の余地ありだ」


「え? もっと美味しくなるの?」


「楽しみ〜。その時は絶対呼んでよね〜」


「私も呼んでいただけると嬉しいですわ」


 三人が期待のこもった瞳を向けてくる。


「あ、ああ。……その時は呼ぶよ」


 まあ、今後も趣味で料理を作る機会はあるだろうし、三人には味見係として活躍してもらおう。


「それで、あとは待つだけだよな?」


「うん。仕掛けた発信機に反応があったら、それを頼りにシーカー族の巣を見つけるだけね」


 それなら、暇だし日課のトレーニングでもしていよう。


 みんなから少し離れた所で、食後の腹ごなしも兼ねて軽くトレーニングを始める。

 しばらく、トレーニングに集中していると、いつのまにかノアが近寄ってきて、俺の動きをじっと見つめていることに気づいた。


「どうした、興味があるのか?」


「ルークってあんなに強いのに、まだ練習するんだと思って」


「まあ、これは小さい頃からの習慣だしな」


「ねえ、ルークの国ってどんなところなの?」


 俺はどう答えるべきか考える。

 さすがに、銀河統合体のことを話すわけにもいかない。


「そうだな、ここみたいに自然は豊かじゃないかな。野生動物も、基本的には自然保護区でしか見られないし」


「え? じゃあ狩りとかはしないの?」


「ああ、狩りはしないな。まあ、する必要がないとも言えるけど」


 実際、狩りなどの体験はあるが、それも結局はバーチャル体験だ。

 俺の生まれ故郷の地球では、人口の増加で地上は人間だらけだからな。


「じゃあ、畜産が進んでるのね」


「まあ、そんなところだ。だから、ここに来てから見るもの全てが興味深いよ」


「……そうなんだ。なら、この依頼が無事終わったら、今度ゆっくり聞かせてね。練習の邪魔をしてごめんなさい」


 そう言って、ノアは二人のもとに帰っていく。




 ――トレーニングを終えてみんなの元へ戻ると、ノアがこちらに駆けてくる。


「発信器に動きがあったわ」


 どうやら、ちょうどタイミングが良かったらしい。


 三人が追跡の準備を始めているのを見ながら、ナイトに確認する。


(ナイト。統合体関連の残骸は、全て運び出しは終わってるな?)


『もちろん。今はラグナの拠点に運び込んでるところ。あと、コンテナの中身だけど汎用ボットだったよ』


(そうか、運がいいな。汎用ボットに戦闘力は無いが、やれることの範囲がだいぶ広がるからな)


 少しして、三人の準備が終わると移動を開始する。

 リリーナが探知用の魔導器を見ながら、みんなに指示を出して森を進む。


 相手にバレないように一定の距離を置いて追跡すること一時間。

 さきほど俺が見つけたシーカー族の洞窟まで、あと少しの所まで辿り着いた。


「発信機の動きが止まりましたわ」


 どうやら追跡中のシーカー族が巣に到着したらしい。


『ルーク! 様子がおかしいよ!』


(どうしたナイト?)


『ビットが近くにいないから詳しくは分からないけど、戦闘が始まってるみたい』


(なにっ!?)


 周囲の音に集中すると確かに戦闘らしき音が聞こえる。

 俺は三人にそれとなく忠告することにした。


「なあ、何か聞こえないか?」

「え? ボクは聞こえないけど〜」


 ファルは頭を傾げて、耳に手を当てたりしている。


「ちょっと待ってください。確かに何か騒いでいるような音が聞こえますわ」


 先頭を進んでいたリリーナが、最初に気づいたようだ。


「リリーナほんと? 何が起こっているかわかる?」


「もう少し近くにいかないとわかりませんわ」


「じゃあ、慎重にもう少し近づいてみましょう」


 ノアの判断にみんな頷き、慎重に音のする方へと進む。

 しばらくすると、全員が音に気づいたようだ。


「確かに聞こえるわ。なにかシーカー族が騒いでるわね」


「それに、これは恐らく何かと争ってますわね」


「どうする? 引き返すか?」


 俺は三人の様子を見ながら慎重に言葉を選んだ。

 敵の詳細が判明しない以上、深追いは危険だ。


「そうね、どうしよう……」


「ノアさん。ここまで来て確認もしないというのは、どうかと思いますわ」


「そうだよ、ノアちゃん」


 しばらく考えた末、ノアが決断する。


「うん。やっぱり確認だけでもするわ。このまま引き返したら、なんて報告したらいいかわからないし」


『ねえルーク。止めなくていいの?』


(そうだな、何かあれば助けに入るさ)


 俺は即座に動けるよう周囲を警戒しながら、みんなの後を追う。

 そして、巣まであと少しという所で急に辺りが静まり返った。


 木の陰から巣の様子を確認する。

 そこで目にしたものは、シーカー族が無惨にも息絶えている光景だった。


「なに、これ……」


 その光景を見た三人が絶句する。


「これは一方的だな。相手の死体が見当たらない」


 ここは強引にでも引き返させた方がいいかもしれない、と考える。

 しかし、その一瞬の迷いが最悪の結果を招いた。



『まだ、生き残りがいたか。……いや、シーカー族じゃねえのか?』



 そこへ、突然崖の上から男の声が響く。


 ――そこにいたのは。

 赤い逆立った髪に、赤い瞳。全身に魔導器を身にまとった、二メートルを超える大男だった。


「魔導機至上主義集団。……エクス・マキナ」


 ノアがぽつりとつぶやく。


「そうだ、俺様はエクス・マキナのバドラス。覚えておけ」


(エクス・マキナのバドラスだと?)


『ルーク。囲まれてるよ』


 ナイトの警告と同時に、周囲の茂みが激しく揺れた。

 ガサガサと音を立て現れたのは、銀色の不気味な輝きを放つ、未知の魔導機――その数、およそ数十。


「……うそ、囲まれて……!?」


(……数十か。厄介だな)


 退路が完全に塞がれたことに気づいたノアたちが、恐怖で息を呑むのが分かった。

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