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10 ルーク、護衛を引き受ける

「みんな準備はいい? 忘れ物はない?」


「大丈夫ですわ」


「ノアちゃん。お母さんみた〜い」


「もう、ファルったら」


 三人とも、自分たちだけでの初依頼で緊張しているかとも思ったが、この調子なら大丈夫そうだな。


「ルークも大丈夫? その腕章、似合ってるわよ」


 依頼を受ける際は、かならずファミリーに所属していることを示す腕章をつけることが義務付けられている。これは、他のファミリーへの牽制と無用な衝突を避けるためらしい。


「ああ、問題ない。それで、太古の森には例の乗り物で行くのか?」


「うん。『アルヴェイル』ね」


 あのトンボのような飛行機は、アルヴェイルというのか。

 そう言えば以前、魔導機に乗るには『マナを充填したエーテル結晶』と『魔導機との契約』が必要だと言っていたな。


「なあ、俺はエーテル結晶も持ってないし、契約もしていないが大丈夫なのか?」


「それは大丈夫。今回使うのはファミリーで管理するアルヴェイルだから。エーテル結晶は貸してもらえるし、契約はファミリーと交わしてるわ」


 なるほど。契約は個人だけじゃなく、組織ともできるわけか。


「でも、ルークはアルヴェイルの乗り方を知らないでしょ? だから、操縦は私に任せてね」


「よろしく頼む。見れば次からは大丈夫だと思うからな」


「ほんとに? 普通は結構練習が必要なんだけど……」


「まあ、覚えたら今度試してみるさ」


 ノアは驚いたような、呆れたような表情をしているが、俺にはドットギアがあるからな。おそらくは大丈夫だろう。


 四人で並んでアルヴェイル乗り場まで移動する。

 今回は二人乗りの機体を二機使って向かうようだ。


「じゃあ、ルークは私の後ろね」


 全員が二機に分乗して出発する。

 ノアが右のペダルを踏み込むと、機体はゆっくり上昇を開始した。


「右のペダルが上昇、左が下降よ。そして右のハンドルを捻ると前進、左が後進ね」


「なるほど、わかりやすいな」


「あと小型は曲がるときの体重移動が必要だから、ちょっと慣れが必要ね」


(統合体でいう『エア・バイク』に似ているな)


『文明が違っても、人体の構造的に、最終的な操作形態は似た感じに落ち着くんだよね』


(なるほどな)


 ノアにアルヴェイルのレクチャーを受けながら、太古の森へと向かう。

 眼前には、どこまでも続く一面の緑が広がっている。


「なあノア、太古の森に人は住んでいないのか?」


「住んでいないことはないけど、ごく少数ね。普通の人にとって魔物は脅威だから」


『ノア。そろそろ、目的地に着きますわよ』


 アルヴェイルのコンソールからリリーナの声が聞こえてくる。


「了解。ついていくわね」


 しばらくすると、森が少し開けた場所にゆっくり着陸する。


「ここから少し進んだ場所が目的地ですわ」


「じゃあ、ここからは歩きね」


 俺たちはアルヴェイルを降り、森の中を進む。

 草木が生い茂り、小動物が茂みの陰からこちらを窺っている気配を感じる。


 今回のターゲットであるシーカー族の身体は、白黒の斑模様(まだらもよう)の体毛に覆われていて、頭が大きく手足は細くて長いらしい。その長い手足を器用に使い、縦横無尽に木々の間を駆け回るのだという。

 動きは俊敏だが力は弱いため、新人の初依頼によく選ばれるそうだ。


「この辺りです。私たちの調査隊が、ここで次の探査場所を相談していたときに、私とファルが目撃したんですわ」


 リリーナが奥の茂みを指差しながら言う。


 辺りを調べると、何かが移動して草木が折れている箇所があった。

 三人に見えないよう、さりげなくマルチスキャナーで調べてみると、何かを擦ったように傷ついた木の幹に、艦隊で使用されているコーティング剤の痕跡を発見した。


(ナイト、間違いないな)


『うん、おそらく艦隊の外壁パネルか何かだろうね』


「ルーク、何かあったの?」


 そこへノアが近づいてきて尋ねてくる。俺は傷ついた木の幹を指さした。


「ああ、これを見てみろ」


「これは……何かが擦れた跡かな?」


「それによく見ると、この辺りの草木には細かい白黒の体毛が付着しているぞ」


 ノアはその体毛をつまみ、まじまじと観察する。


「二人とも、ちょっと来て」


「これなんだけど、シーカー族の体毛よね?」


「ええ、間違いないですわ」


「うん、この辺りで白黒の体毛なんてシーカー族くらいだし〜」


 その体毛を見て、リリーナとファルの二人も同意する。


「じゃあ、計画通りこの辺に囮を仕掛けましょ」


 ノアは今朝購入した廃品の魔導器を取り出すと、近くの岩の上に置いた。


「それで、これから待つんだよな?」


「小型発信機もセットしたから、一度アルヴェイルまで戻って、そこを拠点にして待つつもりよ」


「じゃあ、その間に俺は食事の食材を調達してきてもいいか? それほど時間は掛からないと思うから」


「いいけど、携帯食は持ってきているわよ?」


「どうせなら、美味いものを食べたいだろ」


 それを少し離れた所で聞いていたファルとリリーナが、目を輝かせて近寄ってくる。


「ボクは賛成! 美味しいご飯の方がやる気が出るよね〜」


 俺の提案に、ファルが嬉しそうに同意する。


「もしかして、ルークさんがご飯を作ってくださるのですか?」


「そうだな。料理は結構得意なんだ。まあ、趣味の範囲だけどな」


「本当ですか! それは楽しみですわ!」


 リリーナも期待の籠もった視線を向けてくる。


「ノアもそれでいいか?」


「まぁ、良いけど……。私も手伝うわよ?」


「大丈夫だ。三人は拠点の支度をしておいてくれ」


 俺はそう言って、一人で森の中へ入っていく。


「ナイト、場所は把握しているか」


『うん。痕跡を辿ったら崖に洞窟があったよ。中から反応があるから間違いないね』


「よし、誘導してくれ」


 俺はスプリントモードで森の中を疾走する。

 網膜に映し出された矢印に従いしばらく走っていると、崖の下に、ぽっかりと大きな洞窟が口を開けていた。


「あれだな」


『中に熱源多数。どうする? 片付ける?』


「いや、気絶させよう。ノアたちの計画に支障が出ないようにな」


『了解だよ』


 俺はバッグからスタングレネードを取り出すと、一時間程度で目覚めるように威力を調整して、サイレントモード設定で洞窟の中へと投げ込んだ。


 洞窟の内部で「ボンッ」という低い音が響き、同時に出口から光が漏れる。

 異変に気づいたシーカー族が入口に向かってくるのに合わせて、さらに数回グレネードを投げ込む。


『上手くいったよ、ルーク。全ての熱源の動きが止まったよ』


 俺はアサルトライフルを構え、慎重に洞窟の内部に侵入した。

 洞窟内はジメジメと湿気を帯び、強烈な獣臭が充満している。


 入口付近に白黒の体毛をした獣が、何匹も倒れているのが目に入る。


「なるほど、これがシーカー族か。聞いていた通りの姿だな」


『そうだね。ルーク、マルチスキャナーをかざしてみて』


 シーカー族に近づき、スキャナーをかざす。

 スキャナーの先から扇状に光が広がり、スキャンを開始した。


『遺伝子に地球の生物と類似する部分は無いね。完全に別の生物だよ』


「そうか、これが『魔物』なんだな」


『この惑星には地球と似た環境があって、人類に類する人もいるのに、この『魔物』だっけ? には、地球の生物と全く類似点がないのは不思議だね』


「そうだな。その辺りも後々調べたほうが良さそうだ」


 洞窟の幅は結構広く、かなり大きな物でも運び込めそうだ。

 シーカー族は全て気絶して倒れているため、それらをまたぎながら奥へと進む。

 奥行きはあまりないようで、すぐに最奥へ辿り着いた。


 そこには、山のように積まれた魔導機の数々。

 そしてその中に、周囲から異彩を放つ残骸を発見する。


「間違いない、艦隊の外壁だ。それに……あれはコンテナか?」


『そうだね。中身が金属類だといいんだけど』


「よし、とりあえずビットを呼んで運び出そう。あまり時間を掛けると、三人が心配して探しに来ないとも限らないからな」


『了解だよ。運搬はビットに任せて、ルークは食事の獲物を仕留めに行ったら? 約束したんでしょ?』


「ああ、そうだな。じゃあ後は頼むぞ、ナイト」


『任せておいて!』


 洞窟を出てしばらく進んだところでウサギモドキを見つける。

 アサルトライフルを殺傷モードに切り替えて仕留めると、すぐにその場で血抜きを始める。


 血抜きを待つ間、俺はふと、この惑星に不時着した時のことを思い出していた。

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