表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/41

第7話:第三農村区画襲撃 ――「魔法が消えた」夜

 ――転移2年目・夏/県境農業地帯自治区 第三農村区画


 夜は、いつもより静かだった。

 虫の声が途切れ、風が止まり、畑の向こうの闇が――重く沈んでいた。


「……父さん?」


 ドゥルガンがそう呼びかけた瞬間。

 村の外れで、火が上がった。


 赤ではない。青白く、揺らめく炎。

 それはこの一年で何度も聞かされた言葉――“魔法”だった。


 鐘が鳴る。誰かの悲鳴が重なる。


「逃げろ!!」


 母メルザがドゥルガンの腕を掴み、妹リーナを抱き寄せた。

 その背後で、黒い外套の影が村へ流れ込んでくる。


 目が、狂っていた。

 祈りを呟きながら、笑っている。


 ――浄化部隊。


 ドゥルガンは、足が震えた。

 だがそれ以上に――父が動かなかったことが怖かった。


(……来たか)


 グラウスは心の中で呟いた。

 剣は、納屋の奥に置いたままだ。もう一年、握っていない。


 この世界に来てから、戦士であることを捨てたつもりだった。


「グラウス!」


 妻メルザの叫び。子供たちの背中。迫る狂信者の刃。

 理性が告げる。


 ――剣を取るな。

 ――戦えば、戻れなくなる。


 だが、その時。

 リーナが転んだ。


 夜の闇の中、白い小さな手が宙を掻き、その先に、祝福された刃が振り下ろされる。


「――――ッ!!」


 考える前に、体が動いていた。


 納屋の扉が砕け散る。

 埃の中から、かつての相棒が現れる。


 剣を握った瞬間、胸の奥で、何かが吠えた。


「来い……」


 声が低く、獣じみていた。


「俺の家族に――触れるなァァァッ!!」


 グラウスは、跳んだ。


 鎧を着た浄化兵の盾が歪み、骨が砕け、人が吹き飛ぶ。

 魔法強化のはずの身体が、純粋な筋力だけで押し潰されていく。


 ドゥルガンは、父を見ていた。

 それは、畑を耕す父ではない。静かに笑う父でもない。


 ――狂戦士(バーサーカー)だった頃の父。


 咆哮が夜を裂き、浄化部隊の列が一瞬、止まった。


 だが――。


「詠唱開始!」


 巡察司祭、アルノー・ヴァルケリウスの声が響く。

 左右に立つ魔術師たちが陣を組み、神への祈りを唱え始める。


 ――そのはずだった。


 次の瞬間。

 何も起きなかった。


 詠唱は、宙に溶け。

 光陣は描かれず。

 祝福も、加護も、降りない。


「……な?」


 騎士であるレオニス・アルヴァンが、呆然と呟いた。

 魔術師が叫ぶ。


「再詠唱だ! 儀礼を――」


 だが、何度繰り返しても、世界は沈黙したままだった。


 その時。

 村の外れで、低い駆動音が鳴った。


 ――AMDI試作機、起動。


 不可視の波が広がり、この場を覆っていた“神秘”が、まるで霧が晴れるように消えていく。


 アルノーは、初めて恐怖を覚えた。


「……神が……沈黙、している……?」


 レオニスは、剣を握りしめたまま、ただ立ち尽くしていた。

(魔法が……ない? これは……世界が、違う……)


 その直後。

 遠くから赤い軌道を描きながら、銃弾の雨が降り注いだ。


「浄化部隊」が次々に殲滅されていく。

 襲撃に備えていた自衛隊警備班が駆けつけてきたのだ。


 乾いた銃声が夜空に鳴り響き、逃げ惑う浄化部隊を背後から一人ひとり、撃ち抜く。


 既に襲撃の顛末は、決まっていた。


 * * *


 > ■自衛隊 警備隊員 三浦 和也・後日日誌(抜粋)

 >

 > 正直に書く。魔法は、本当に存在した。

 > そして――消えた。

 >

 > AMDI起動後、敵の詠唱は完全に無効化。

 > こちらの被害は最小限で済んだが、相手の“絶望”は、正直、忘れられない。

 >

 > 剣と信仰だけで戦ってきた連中が、何もできなくなる顔を、俺は初めて見た。

 >

 > あの夜、世界のルールが一つ、壊れた気がする。


 * * *


 夜明け前、第三農村区画は、かろうじて守られた。


 だが、アルノー・ヴァルケリウスとレオニス・アルヴァンの胸には、消えない疑問が残った。


 ――神は、絶対ではないのか。

 ――信仰は、武器にならないのか。


 この夜の出来事は、後に「些細な農村襲撃」と記録される。


 だが転移史家は記す。

『この事件こそが、一年後に勃発する「第一次西糸島事変」への静かな導火線であった』と。


 ――まだ、誰もその意味を知らなかった。



本日も『福岡異世界転移史』をお読みいただき、ありがとうございます!

第一次西糸島事変――福岡の存亡を懸けた戦いは、小説家になろうに初転載になります。ファンタジーの不条理バグに対し、最後まで見届けていただければ嬉しいです。


順次、公開予定です! 面白かった! 続きが気になる! と思っていただけましたら、ページ下部より☆☆☆☆☆の評価とブックマークをよろしくお願いいたします。作者の執筆スピードが(魔法ではなく物理的に)加速します!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ