表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/41

第6話:生存のための突貫と、九州大学地下の「AMDI」

 ――転移2年・夏/資源回廊建設域


 転移から、まだ一年も経っていなかった。

 福岡県は、まだ生き延びているに過ぎなかった。

 都市は動いていた。工場も、病院も、信号も止まってはいない。

 だがそれは、玄海原発という「偶然の同伴者」によって、かろうじて延命されている状態だった。


 備蓄燃料は減り続け、計画停電は日常となり、県庁の危機管理会議では、「一年もたない」という言葉が、誰の口からも否定されなくなっていた。


 そんな中――航空自衛隊の早期警戒機が拾った、異常な地層反応。

 県境から西南二百キロ。油田、そして石炭鉱脈。


 それは、福岡が“国家”として生き残れるかどうかの分水嶺だった。

 決断は、異様なほど早かった。

 資源探査。即、派遣。

 確認。即、開発。

 福岡県庁は、経団連と主要企業、各市町村自治体を一堂に集め、非常事態宣言に準じた緊急動員を要請した。


 誰も、採算の話をしなかった。


「生きるか、死ぬか」


 その一言で、全てが動いた。


 土木企業連合。県土整備部。各自治体の開発課。


 一か月半。

 通常なら数年を要する輸送ルートが、採算度外視で切り開かれていく。

 山を削り、森を割り、未踏の土地に、重機の轟音が響いた。

 後に、この時代はこう記される。

『生存の危機が掛かったとき、人間は、理屈を捨てて奇跡を起こす』と。


 * * *


 その動きを、最も不快に思っていた者たちがいた。

 西方の宗教国家「法皇国(ほうおうこく)」。

 数か国を宗教的思想で束ねる大国。


 彼らにとって、福岡は理解不能な存在だった。

 魔法を使わない。奇蹟を祈らない。それでいて、土地を切り拓き、秩序を築き、亜人種を含めた難民を受け入れている。


「……神を通さずに、世界を動かしている」


 法皇国法王庁の会議で、その言葉が吐き捨てられた。

 交渉要請は、すべて黙殺された。


 代わりに――動いたのは、法皇国の影響下にある小国と、その狂信的な教徒たちだった。


 最初は、事故に見えた。

 輸送路での落盤。資材置き場の焼失。夜間の奇襲。

 だが、次第に、共通点が見え始める。

 魔法による遠距離攻撃。身体強化を伴う高速接近。そして、撤退。

 目的は、殲滅ではない。

 停滞だ。


 自衛隊警備部隊の指揮官は、前線の惨状に歯噛みした。

「……連中、試してきてるな」


 近代装備は優位だった。銃火器も、装甲も、統制も。

 だが――魔法は、理屈を壊す。


 弾道を歪め、身体能力を逸脱させ、地形を一時的に変える。


「このままじゃ、いつか致命的な穴を突かれる」


 現場では、そんな声が上がり始めていた。


 * * *


 同じ頃――九州大学。


 研究棟の、外部には表示のない地下区画で。

 となし あゆむは、白衣の袖をまくり、制御盤を見つめていた。


「……安定しないな」


 隣には、民間企業の技術者。

 社名は、西海未来工学株式会社。

 転移後、福岡県と密接に協力することになった、新興の技術集団だった。


「理論値では、確実に阻害できるはずなんです」


 十歩は、ディスプレイの数値を追いながら、静かに言う。


「“魔法”じゃない。マジック粒子だ」


「なら、遮断できる」


 それが、AMDI(アムディ)――マジック粒子阻害装置(Anti-Magic Deployment Interdiction)。


 まだ、正式配備どころか、存在自体が極秘だった。

 だが――県庁と自衛隊は、この装置に賭け始めていた。


 * * *


 その頃。

 県境農業地帯自治区。第三農村区画。


 畑の端で、グラウスは鍬を置いた。

 夕暮れの空が、妙に赤い。


「……また、向こうか」


 噂は届いていた。

 焼かれた村。消えた家族。

 息子のドゥルガンが、父の背中を見上げていた。

 まだ、何も起きていない。

 だが、風が、確かに変わっている。

 その夜――遠くで、祈りの詠唱が聞こえた。

 それは、救済を謳う言葉だった。

 だが、グラウスには分かった。

 これは、刃だ。


 法皇国巡察司祭、アルノー・ヴァルケリウス。

 彼は、「浄化部隊」の先頭に立っていた。

 隣には、若い騎士――レオニス・アルヴァン。

 互いに、顔見知り程度。

 だが、同じ疑問を抱え始めていた。


「……本当に、これが救済なのか?」


 その答えが出る前に――命令は下る。


「第三農村区画を、清めよ」


 火が、灯される。


 そして――その炎は、やがて福岡全土を巻き込む『第一次西糸島事変』へと、連なっていく。


 まだ、誰も、それを戦争とは呼んでいなかった。

 だが――引き金は、確かに引かれた。


本日も『福岡異世界転移史』をお読みいただき、ありがとうございます!

第一次西糸島事変――福岡の存亡を懸けた戦いは、小説家になろうに初転載になります。ファンタジーの不条理バグに対し、最後まで見届けていただければ嬉しいです。


順次、公開予定です! 面白かった! 続きが気になる! と思っていただけましたら、ページ下部より☆☆☆☆☆の評価とブックマークをよろしくお願いいたします。作者の執筆スピードが(魔法ではなく物理的に)加速します!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ