第25話:正門崩壊と不可視の狙撃手
――砦・正門内側/狂信の突撃
砦の正門内。鬨の声が、すでに内部から沸騰していた。
聖ラグニア侯国・重騎士団総長、グラルド=ヴァーレン。
馬上に在りながら、彼はもはや騎士というより――暴走する狂信そのものだった。血走った眼。泡立つ唇。鎧の隙間から滲む汗が、馬の首を濡らす。
「――門を開けろッ!!」
怒号が、石造りの回廊を震わせる。
「忌々しき花火ごときで、我ら聖ラグニアが怯むと思うたか!! この大剣で叩き潰し、肉塊にしてくれようぞ!!」
大剣を天へ掲げる。
「ベルドの修道士ども! 我が身と! 我が二百余騎に!! 神の加護を授けよ!!」
命令に応じ、数名の修道士が膝をつき、声を揃える。
祈りの言葉と詠唱が重なり、次の瞬間――黄金の光が、爆ぜた。一騎、また一騎。重装鎧の輪郭が、まるで溶けるように光に包まれる。
「……感じるぞ。これぞ……神의恩寵よ……」
グラルドが、うっとりと呟く。
その声に呼応するように、二百余の騎士たちが、剣や槍を打ち鳴らす。
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
金属音が、鼓動のように揃っていく。
「我に続けぇぇぇ!! 忌まわしき福岡の愚兵どもに!! 神罰を!! 鉄と血で刻み込めぇぇぇ!!」
「「「おおおおおおおおおおッ!!!」」」
二百余騎の咆哮が、砦を揺らした。それは歓声ではない。獣の群れの吠え声だった。
轟音とともに、砦の正門が一斉に開く。グラルドは、馬腹を蹴った。
「突撃だぁぁぁ!! 聖ラグニアの名の下に!!」
ドドドドド――!!
大地が震え、空気が裂ける。二百余の重騎士が、一斉に正門から飛び出した。
* * *
――正門前/三浦班(嵐の前の平穏)
その少し前。
砦正門前で待機していた三浦、遠山、時田、後藤の四人。
「……なぁ、これ言っていい?」
三浦慎吾が、ぼそりと呟く。
「こちとら、ほぼ素人だよな?」
「まぁ……最強の盾と最強の矛が揃ってるのは、事実だけどね……」
三浦は、ちらりと背後を見る。中腰で並ぶ、三人。
「正門開いたらさ、渚ちゃん。ちゃっちゃと、やっちゃって」
「な、なんか……きんちょーするー」
時田渚が、肩を揺らす。
「えー? 時田姉ぇ、ビビってんの?」
後藤零が、にやつく。
「はぁ? あんた、舐めてんの? リアル中二病のくせに!」
「なんだと!? もっかい言ってみろ!このゴリラ女!」
取っ組み合いが始まり、砂埃が舞う。
「……はぁ……」
三浦が深いため息をつく中、遠山えりこが完全に母親の声で割って入る。
「ほら、やめなさい。三浦さん困ってるでしょ?」
「なんで俺、子守り役なんだよ……」
――その時。砦の堀に、急造の架橋が掛けられる。
「……来るぞ」
三浦が言った、次の瞬間。正門が開いた。
と同時に――。
「行くわよ!! よく見てなさい! リアル中二病!!」
時田渚が、仁王立ちで飛び出した。正門の向こうから、時田の倍はあろうかという重装騎兵が、輪郭を黄金の光に包み突進してくる。
「さぁ!! お仕置きの時間よ!! みーんな、ぶっとびなさい!!」
時田が、右腕を横に振る。
その瞬間。空気が、歪んだ。見えない衝撃が、突進する重騎士へと一直線に放たれた。
三浦は、思わず目頭を押さえた。
(……なんかもう……ハチャメチャだな……)
だが、時田の放った一撃は、これから起こる地獄の前兆に過ぎなかった。
* * *
――糸島市上空/不可視の狙撃手
高度:海抜約六〇〇メートル。距離:約十・四キロ。
UH‐60JA多用途ヘリコプターの機内は、低い振動音に満たされていた。
「高木班より、目標の現在地データ。入電しました」
南里技官が、ヘリ側面に設置されたモニターを見ながら告げる。
「……来ましたか」
倉田隆俊は射撃座へ腰を下ろす。機体中央に固定された異様に細長い砲身。九大臨時開発――超長距離狙撃用レールガン。
「レールガン、主電源安定。蓄電率百%。倉田二等陸士、射撃可能です」
「行きます」
倉田にスコープは不要だった。意識を集中させた瞬間――結果が先に見える。
「……一射で、五体いきます」
グリップを握る。筋肉の緊張が、最適な均衡へと収束する。
――引き金。
高圧電流が解放される、甲高い放電音。
音より先に、一直線の光が地表を貫いた。
「二射目、行きます」
再び引き金。光線が先行し、直後に雷鳴のような衝撃音が空気を叩き潰す。
上空一万メートル。闇を切り裂く、電子の閃光が描かれた。
* * *
――正門崩壊
「……な?」
法皇国浄化部隊の副隊長セイル=グラーフは、正門前の詰所塔からその光景を目撃し、言葉を失っていた。
わずか数秒前まで、正門から打って出たはずの重騎士団二百余騎が――まるで存在そのものが削り取られたかのように、忽然と消失したのだ。
逃走でも、転移でもない。消滅。そう表現するほかない。
「副隊長! 騎士団が……いません!」
「分かっている、叫ぶな!」
その直後だった。
正門の正面、何もないはずの空間が、熱に揺らぐ陽炎のように波打ち始める。
次の瞬間。
――轟音。
正門が、内側から爆散した。
鉄と石で組まれた巨大な門扉が、粉砕され、吹き飛び、破片となって宙を舞う。
外部からの攻撃ではない。中を何かが通過した結果、耐え切れず壊れた――そんな壊れ方だった。
「正門が……!? 敵襲だ! 配置につけ!」
叫びながらも、セイルの視線はその“何か”から離れなかった。
破壊の中心には、依然として歪んだ空間が存在している。人影はない。足音もない。なのに――確実に、何かが進んでいる。
弓兵が矢を放つ。魔導士が探知術式を展開する。
だが、矢は途中で逸れ、術式は反応不能を示したまま沈黙した。
それは、法皇国が絶対と信じてきた「防衛」の概念が崩れ去った瞬間だった。
* * *
――砦内部/裏手門
正門が爆発的な混乱に陥っている頃。
潜入要員・島本の誘導で、高木、柳、百田、金山の四人は裏手門から砦内部へ侵入していた。
正門側が慌ただしくなっているのは、怒号と爆音ではっきり分かる。そのおかげで裏手は驚くほど手薄だった。
「柳三曹」
「はい」
「砦内なら、あの魔法防壁の内側だ。防壁を維持している魔術師の位置、特定できるか?」
正門側で歪み揺れる光を指しながら、高木が問う。
「可能です。……倉田ですね」
「だな」
柳は胸ポケットから端末を取り出し、座標データを送信する。
「目標は、正門付近の簡易監視塔です」
島本が指差す。高木は一度だけ頷いた。
「金山さん。予定通り動いてください。魔法陣の一時的機能停止を狙います」
金山は額に冷や汗を滲ませながら、二度、強く頷いた。
「百田二等陸士」
「は、はい」
「私とお前で、奴を狩る」
冷え切った高木の声音に、百田は無意識に唾を飲んだ。
その時――正門近くを、光の線が走った。一瞬遅れて、乾いた破裂音が夜空を切り裂いた。
倉田の狙撃が、砦内部の魔術師たちを的確に削り始めていた。
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第一次西糸島事変――福岡の存亡を懸けた戦いは、小説家になろうに初転載になります。ファンタジーの不条理バグに対し、最後まで見届けていただければ嬉しいです。
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