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第24話:21時00分 ――陽動の迫撃と見えない降下

――糸島市上空・夜間侵入


 ヘリは、音を殺していた。

 正確には、音がしているはずなのに、耳がそれを拒否している――そう錯覚するほどの静穏だった。


 使用されたのは、陸上自衛隊・夜間奇襲侵入用のUH‐60JA改修型(低騒音ブレード仕様)。夜目に溶ける機体色、排気を抑えたローター、そして、低高度で地形に貼りつくような飛行。

 糸島の夜は、静まり返っていた。街灯の少ない郊外。山と海の境界線をなぞるように、ヘリは低く進む。


 機内中央。高木弘は、膝に手を置き、目を閉じている。呼吸は、剣道の構えと同じ。深く、一定。

 ドア脇。三浦慎吾は、無精ひげの奥で、目だけが静かに動く。


(……派手だな。静かなのに)


 遠山えりこは、シートに腰掛け、手を太腿の上に揃えている。子どもたちの顔が、ふと脳裏をよぎる。だが、振り払う。


(今は……やるしかない)


 時田渚は、窓の外を、じっと見ている。何もない暗闇を見つめている。


(……なんか、やな感じ)


 後藤零は、足をぶらぶらさせながら、ヘルメットの中で小さく笑っている。英雄願望。怖さは、まだ現実になっていない。

 柳美緒は、目を閉じ、機体の振動、風圧、地面の起伏を“感じて”いる。


(……集まってる)


 百田遊里は、無意識に、床に足を踏ん張っている。筋肉が、勝手に準備を始めていた。

 金山健一郎は、汗を拭きながら、工具袋をぎゅっと握りしめる。影が、足元で微かに蠢いたことには、本人は気づいていない。


 そして別ヘリの後部ハッチ近く。倉田隆俊は、大型ケースに収められた試作狙撃装置を前に、軽く口笛を吹く。


「ま、当たるっしょ」


 高度が下がる。ヘリは、三つに分かれた。

 一方は、砦の正門から距離を取った外周へ。もう一方は、砦の裏手門、影の濃い地点へ。最後は、更なる上空へ。


 着地は、衝撃すら感じさせない。

 高木は、短く言った。


「――行くぞ」


 それだけ。

 迫撃開始は、二十一時ちょうど。

 夜は、これから血を知る。


 * * *


――21:00 迫撃開始


 陸上自衛隊・迫撃砲指揮所(前進配置)。

 赤色灯だけが灯るテント内。地図盤とデジタル表示器、その前に並ぶ通信員。


「――時刻、二十一時〇〇分」


 静かな声だった。誰も叫ばない。誰も昂らない。それが、実戦の開始だった。


「各分隊、射撃用意」

「諸元確認、誤差修正なし」

「――撃て」


 次の瞬間。

 地を叩き割るような重低音が、夜を引き裂いた。


 砦の外壁、その上空で半透明の歪みが発生する。防御結界。

 砲弾は、見えない壁に叩きつけられ、爆ぜ、衝撃波だけが側面へと流される。地面が揺れる。砂と破片が舞う。

 だが、砦は――耐えている。


「……効いてない!」


 時田が叫ぶ。彼女の頭上を、砲弾の破片が唸りを上げて通過する。

 遠山は歯を食いしばる。


「結界……相当、強い!」


 三浦は即座に理解する。


(最初から分かってたな……向こうは)


 * * *


――空 ―― ヘリ編隊


 その時。低空を切り裂く音が、重なった。

 複数の自衛隊ヘリ。

 UH‐60、AH系統、混成の低空侵入編隊。砲撃の煙を割り、三浦、遠山、時田、後藤の真上を飛び越える。


「来た……!」


 後藤の声が、震えと興奮を含む。

 ヘリは、結界の“上”へと一気に高度を取る。防御壁を、越える。

 次の瞬間――ロープが投下される。


 影が、落ちる。

 三浦は走りながら思う。


(これが……狙いか)


 砲撃。ヘリ。正面突破。だが、本命ではない。これは――注意を引き裂くための刃。


 * * *


――異界方面防衛本部・指令室


 巨大なスクリーン。砦の俯瞰図。部隊配置。迫撃弾着弾点。

 谷川、辻、黒沢が、無言で立つ。


「――開始しました」


 黒沢の声は、低い。

 谷川は、画面を見つめたまま言う。


「迫撃で突破など考えてはない。砦は、最初から結界前提だ」


 辻が、静かに補足する。


「敵は“生贄儀式の防衛”に意識を集中している。前面火力と空中突入で、“総攻撃”と誤認させる」


 画面の端。影のように表示された、別の小隊群。

 谷川は、そこに視線を向けた。


「……彼らが、この局面のカギだ」


 これは――戦争の“顔”をした、欺瞞。

 本当の刃は、まだ、抜かれていない。


 * * *


――砦内部 ―― 祈りと爆音、そして狂気


 爆音が、石壁を叩く。いや――砦そのものが、悲鳴を上げていた。


「防御術式、交代せよ! 次、第三環――急げ!」


 ベルド修道連合より派兵された六十名の聖魔術士たちは、汗と恐怖に濡れながら詠唱を繋ぐ。

 だが――削られている。連続する異様な火力。今まで彼らが経験したことのない、暴力的な圧。


「こんな……こんな攻撃……聞いておらぬぞ……!」


 ベルド修道連合・修道司祭長フランシス=マリウスが、血走った目で叫ぶ。


「ヴァーレンは何をしておる!! さっさと打って出よ! あの忌まわしき業火を放つ異教徒どもに、神罰を与えてこい!!」


 砦中央では、怪しく輝く《原初大奇蹟魔法陣》が、低く、荘厳な詠唱と共に青い光を噴き上げている。

 爆音が鳴るたび、外壁の方向が赤く染まる。

 その光を――司祭長補佐エルンスト=カイゼンは、怯えた目で見つめていた。


「……これは……救いではない……これは……人で非ざる所業だ……」


 その背後で――幼い子どもが、引きずられていく。


「おかーさーん!! いやだぁぁぁぁ!!」


 エルンストは、両耳を塞いだ。


 ――その時。

 空から、ロープが垂れた。

 次の瞬間。黒い影が、次々と降り立つ。


「……あ……ああ……神の……使徒……?」


 一瞬、そう思った。だが、違う。

 空を飛ぶ異形から、規律正しく降下する兵士たち。


「ち、違う……! あれは……福岡の兵士だ!! 空から……降りてくる!!」


 魔法防御の上から。

 兵士たちは着地と同時に散開し、無言のまま、砦の奥へと消えていく。


 次の瞬間――。

 パン、パン、パン。

 乾いた音。断続的に、正確に。

 明らかな――奇襲だった。


本日も『福岡異世界転移史』をお読みいただき、ありがとうございます!

第一次西糸島事変――福岡の存亡を懸けた戦いは、小説家になろうに初転載になります。ファンタジーの不条理バグに対し、最後まで見届けていただければ嬉しいです。


順次、公開予定です! 面白かった! 続きが気になる! と思っていただけましたら、ページ下部より☆☆☆☆☆の評価とブックマークをよろしくお願いいたします。作者の執筆スピードが(魔法ではなく物理的に)加速します!

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