第19話:奇蹟壊しの童と、使わない能力者
――第23日 09:40/旧地下鉄連絡坑道(封鎖区域)
ここは、意図的に“異常を起こさせる”ための試験区画だった。
条件は最悪。
魔法障壁が常時展開され、マジック粒子濃度も高い。
本来なら、民間人を投入して即中止になる案件だ。
だが、対象者はすでに坑道内に立っていた。
後藤 零。14歳、中学2年生。
「MP-βタンパク質……上昇」
観測班の研究員が、数値を二度見する。
「……いや、待ってください。これ、計測限界を超えてます」
鷹宮は静かに「継続」と命じた。
坑道内で、後藤零は目を輝かせていた。
「おー……すげえ。これ、敵? ボス戦?」
(――行ける気がする)
理由はない。ただ、そう思っただけだった。
彼が一歩踏み出した瞬間。
障壁が――消えた。
破壊ではない。貫通でもない。
“成立しなくなった”のだ。
「マジック粒子……マイナス反転!?」
観測班が叫ぶ。
想定敵マーカーが次々と機能停止していく。
攻撃不能、防御不能、強化不能。
“戦闘という行為そのもの”が、成立しない。
「――止めろ!」
高木が、珍しく強い調子で言った。
「彼は“遮断”じゃない。“否定”をやっている」
MP-βタンパク質がマジック粒子の正負を反転させ、すべての魔法的効果を成立前に潰しているのだ。
「……う、っ」
後藤が膝をついた。
次の瞬間、緑色の汚物を吐き、前のめりに倒れる。
MP-βタンパク質の過剰生成による強制排出反応だった。
搬送されながら、後藤はうわごとのように呟いた。
「……俺、今……ちょっと、カッコよくなかった?」
鷹宮は記録に『実質的な“人間AMDI阻害装置”』と記し、運用には厳重制限が必要だと判断した。
彼こそが、のちに「奇蹟壊しの童」と恐れられる存在だった。
* * *
――同日 08:55/旧行政庁舎地下(仮設統制区画)
過去数日分の異常記録が並ぶ会議室で、次の被験者名の横には、鉛筆書きの疑問符が記されていた。
三浦 慎吾。35歳。福岡県警早良警察署・刑事課警部補。
「……本人、やる気は?」
鷹宮の問いに、高木は即答する。
「皆無です。本人曰く、『上が決めたなら、しゃあないでしょう』と」
目的は、マジック粒子操作の“自覚的発動”の有無確認だった。
武器の使用は、本人の要請で禁止されている。
「……いやぁ。これ、警察の仕事じゃないでしょ」
背広に簡易プロテクターを着けただけの三浦は、ため息をついた。
試験開始。
幻覚魔法が展開され、存在しない足音が迫る。
「……あー。たぶん、右側の非常階段――あそこに、立ってますよね」
命中率100%。
三浦の指摘位置は、想定敵の配置と完全一致していた。
だが、詠唱も、集中反応も、脳波の乱れもない。
続いて、空間干渉や重力歪曲といった奇蹟系魔法が発動する。
三浦はポケットからタバコを取り出した。
「すいませんね」
ライターで火を灯す。
火は――風もないのに、揺れない。
空間が、“そこだけ安定”していた。
「……MP-σ酵素、局所上昇。ただし範囲は半径30センチ。本人、無自覚です」
「――あの人、やらないだけです」
高木が低く言う。
さらに心理負荷が増大し、過去の未解決事件の幻覚が迫る。
三浦は目を伏せた。
「……それ、俺の担当じゃない」
その瞬間、MP-σ酵素が急上昇し、そして即座に制御された。
マジック粒子が、“動こうとして、やめる”。
「もう、十分でしょう」
三浦の言葉に、鷹宮も試験終了を宣言した。
控室で缶コーヒーを飲みながら、三浦は言った。
「で? 俺、魔法使いなんですか?」
「いいえ」
高木が答える。
「じゃあ、何です?」
「……賢者か、隠者です」
三浦は笑った。
「やだなぁ。俺、ただの刑事ですよ」
鷹宮の記録外メモには、こう記されていた。
『世界を壊せる者より、壊さないと決められる者の方が、よほど危険かもしれない』
この日、三浦慎吾は対魔法特化隊 第1班の副班長に任命された。
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第一次西糸島事変――福岡の存亡を懸けた戦いは、小説家になろうに初転載になります。ファンタジーの不条理バグに対し、最後まで見届けていただければ嬉しいです。
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