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◆【講演】純粋魔法思考批判ー論文『マジック粒子と魔法についての科学的考察』について

 福岡転移歴1年。某月某日。


 九州大学、箱崎キャンパス。

 かつては静謐な学問の府であったその講堂は、今や異界の塵と重油の匂いが混ざり合う、異様な熱気に包まれていた。


 教壇に立つのは、宇宙物理学専攻の教授、つなしあゆむ

 白衣の袖を捲り上げ、無精髭を蓄えたその姿は、高名な学者というよりは、深淵を覗き込みすぎて正気を疑われ始めた求道者のそれであった。


「――静かに。時間が惜しい。まずは、君たちがこの一年で『奇跡』と呼んで思考を停止させた事象に、引導を渡すところから始めよう」


 十歩は、使い古されたチョークで黒板に巨大な数式を叩きつけた。

 それはアインシュタインの相対性理論から始まり、末尾で見たこともない「因果定数」へと収束する、不気味な計算式だった。


「福岡転移現象。これを天災だと思っているなら、今すぐこの場を去れ。これは『事象の衝突』であり、物理法則のソースコードの競合コンフリクトだ。私の論文『マジック粒子と魔法についての科学的考察』を読んだ者はわかるはずだ。この世界の空気中に充満している未知の素粒子――便宜上、マジック粒子(MP)と呼ぶが――これは、単なるエネルギー体ではない」


 十歩は黒板を強く叩き、受講生たちを射抜くような視線で見据えた。


「これは『指向性を持った情報運搬体』だ。君たちが『魔法』と呼んでひれ伏している現象の正体は、MPが局所的に物理定数を書き換え、宇宙の実行プロセスを強引にバイパスする『不正アクセス』に過ぎない。火が出る、水が湧く、空間が裂ける……それらはすべて、この世界の基底現実が、MPという名のパッチ(修正プログラム)によって一時的に改ざんされた結果なのだ」


 講堂内には、ペンを走らせる音さえ消え、重苦しい静寂が満ちていた。

 最前列に座る専門家たちは、十歩が提示する「物理法則のハッキング」という概念に、戦慄と興奮を隠せずにいる。


「いいか。我々が知る『不変の真理』は、この世界ではもはや『デフォルト設定』の一つに格下げされた。石を離せば下に落ちる。それは正しい。だが、誰かの『意志』という演算がMPを介してシステムに割り込めば、石は上へ落ちるのが『正しい論理』へと書き換えられる。これが魔法の論理的構造だ」


 十歩は一度言葉を切り、教卓の上のぬるくなったコーヒーを一口啜った。


「唯物論は崩壊したのではない。拡張されたのだ。これから君たちが向き合うのは、主観と客観がマジック粒子という触媒によって融合する、極めて不安定な物理学だ。一歩間違えれば、因果の連鎖がクラッシュし、福岡というシステムそのものが消滅する。我々は今、バグだらけの古いOSの上で、無理やり最新のゲームを動かしているようなものだ」


 十歩はチョークを放り投げ、黒板に残された数式を指差した。


「わからないことは、宝だ。だが、わからないままにすることは、この世界では死を意味する。魔法を神秘の箱に閉じ込めるな。数式で解体し、論理で再定義しろ。デバッグできない力は、ただの暴力に過ぎない。……さあ、講義を続けよう。次は、人間がMPを操作する際の生体インターフェース……後の世にCCPと呼ばれることになる、因果触媒タンパク質の初期仮説についてだ」


 その日、講堂を埋め尽くした若き学生たちの瞳には、恐怖ではなく、未知の真理を解き明かそうとする「科学者」の光が宿っていた。

 福岡が「異世界」を攻略し、管理するための学問――異界物理学の産声が、その瞬間、確かに響いたのである。

本日も『福岡異世界転移史』をお読みいただき、ありがとうございます!

第一次西糸島事変――福岡の存亡を懸けた戦いは、小説家になろうに初転載になります。ファンタジーの不条理バグに対し、最後まで見届けていただければ嬉しいです。


順次、公開予定です! 面白かった! 続きが気になる! と思っていただけましたら、ページ下部より☆☆☆☆☆の評価とブックマークをよろしくお願いいたします。作者の執筆スピードが(魔法ではなく物理的に)加速します!


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