第12話:切り札の投入 ――糸島市街戦とAMDI再起動
――糸島市北部・市街地
本来なら、夕暮れに買い物客が行き交うはずの生活道路に、異様な影が雪崩れ込んできた。
鎧のきしむ音。獣の荒い息。
祈りとも呪詛ともつかぬ低音の詠唱。
「――逃げろ!」
県警の巡査が叫ぶ。
だが、避難は間に合っていなかった。
高齢者。車椅子。抱きかかえられた幼児。
そこへ――騎士が突進する。オーク族が吠え、棍棒を振り下ろす。
「異教徒だ!」
「浄化せよ!」
盾が振り抜かれ、逃げ遅れた住民が弾き飛ばされる。
県警は必死に前へ出る。
「下がれ! 避難民を後ろへ!」
「拳銃、使用許可!」
パーン、パーン。
乾いた発砲音。
だが――
「効いてない……!」
「止まらないぞ!」
弾丸は鎧に弾かれ、亜人の厚い皮膚に食い込まない。
数が、違いすぎた。
* * *
――小学校体育館・臨時避難所
段ボールの仕切り。毛布。泣き声。
「大丈夫、ここは警察が――」
その言葉は、途中で途切れた。
扉が、内側から吹き飛んだ。
魔術師の詠唱が終わり、建物の一部が崩落する。
悲鳴。
騎士がなだれ込む。
オークが、避難民の前に立つ警官を叩き伏せる。
「やめろ! ここには子どもが――」
言葉は、剣に遮られた。
混乱の中で、恐怖に飲まれた農夫兵が、剣を握ったまま人波へ突っ込む。
誰が敵で、誰が味方か。
市街地は、完全に戦場だった。
* * *
――市内中心部
その光景を、セルディア王国国王 エルバート三世 は見下ろしていた。
馬上。掲げた剣。狂気に近い陶酔。
「見よ!」
「これが神の裁きだ!」
彼の視線の先には、パトカーを盾に必死に防衛線を張る県警。
「怯むな! 進め!」
「異教の秩序を踏み潰せ!」
突撃の合図。
騎士団が、一斉に前進する。
* * *
――同時刻・糸島市郊外
夜明け前。
低床トレーラーが、警察の先導で走る。
サイレンは鳴らさない。これは秘匿兵器だ。
荷台に載るのは、見慣れた鋼鉄製コンテナ。
《魔力干渉装置/AMDI・試作三号機》
「……本当に、また使う日が来るとはな」
設置班の曹長が呟く。
「政治がどう言おうが」
隣の隊員が言う。
「撃たれりゃ終わりだ」
固定完了。電源接続。外部発電機、始動。
誰も歓声を上げない。
AMDIは、勝利の象徴ではない。
引き返せない一線だ。
指揮所に報告が入る。
「AMDI、起動準備完了」
「粒子干渉位相、前回データ踏襲」
伊藤一佐は、深く息を吸う。
「……起動」
モニターの数値が、動き出す。
魔力粒子濃度――急降下。
誰も声を出さない。
これは、成功が分かっている実験だ。
それでも、緊張は消えない。
なぜなら――この一手が、戦争の性質を変えるからだ。
* * *
――糸島市内・中心部
その瞬間――異変は起きた。
空気が、変わった。
音が、抜け落ちる。
肌にまとわりついていた重苦しい圧迫感が、唐突に消え失せた。
「……?」
詠唱していた魔術師が、言葉を失う。
魔法陣が、光らない。
聖刻が、沈黙する。
「なにが……起きた……?」
誰かが呟く。
その答えは、誰にも理解できなかった。
ただ一つ、確かなこと――
奇蹟が、ここから消えた。
次の瞬間。
パーン、パーン。
今度は、違う。
重く、乾いた銃声が、市街地に連続して響いた。
「自衛隊だ!」
「伏せろ!」
装甲車両が、交差点に滑り込む。
自衛隊警備隊。
散開。制圧射。
89式小銃の弾が、確かな手応えをもって命中する。
「当たってる……!」
「倒れるぞ!」
魔法障壁を失った騎士が崩れ落ちる。
強化を解かれたオークが膝をつく。
それは奇蹟の敗北ではない。
理の敗北だった。
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第一次西糸島事変――福岡の存亡を懸けた戦いは、小説家になろうに初転載になります。ファンタジーの不条理バグに対し、最後まで見届けていただければ嬉しいです。
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