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第11話:蹂躙される県境と、防衛線の崩壊

 ――県境農業地帯自治区/自衛隊警備班


 用水路の陰。

 西糸島警備隊・第3警備班。


 双眼鏡越しに見えるのは、守るべきだった日常の破壊。


「……班長」

「……あれは、戦闘じゃない」


 歯を食いしばる音だけが、無線に乗る。


「撃てば……」

「撃てば、止まるかもしれない」


 だが、撃てば――儀式の中心にいる人質も巻き込む。


「くそ……」


 撤退命令が来る前から、彼らは理解していた。

 ――ここでは、勝てない。


 西糸島防衛指揮所。

 伊藤孝之一佐は、モニターに映る映像を直視していた。画面の端で、人影が一つ、また一つ、消えていく。


「……記録は保存しろ」

「将来、必ず必要になる」


 声は低く、硬い。


「だが、今は――人を生かせ」

「撤退を最優先だ」


 誰も反論しなかった。


 集落に残ったのは、焼けた土と踏み荒らされた畑と、名を呼ぶ者のいない沈黙。

 聖戦司祭が、最後に宣言する。


「――浄化、完了」


 エルバート三世は、その言葉に、深く頷いた。


「次へ進め」


 * * *


 ――県境線・警備線(西糸島方面)


 霧は、まだ消えていなかった。だが――音だけは、はっきりしている。

 金属が地を叩く音。鎧の擦過音。詠唱の低音。


「……接触、接触だ」


 西糸島警備隊・第1警備中隊第2警備小隊。

 土嚢陣地の内側で、隊員たちは銃を構えたまま息を殺していた。


「こちらブルー2-1、前方300、歩兵多数……いや、騎士だ」

「数が多すぎる……」


 小隊長が双眼鏡を下ろす。


「全員、射撃準備。――交戦規定ECHOエコー、発動」

「撃て!」


 89式小銃の発砲音が一斉に響く。連射、制圧射。


 だが――


「……当たってる、はずだぞ!」

「弾が……弾が消えてる!?」


 銃弾は、敵前列に展開された半透明の歪みに触れた瞬間、火花を散らして逸れていく。


「魔法障壁だ……!」

「ブルー2-3より、報告! 通常弾、効果なし! 反応、ゼロです!」


「くそっ……」


 小隊長は歯を噛みしめる。


「狙撃班、徹甲弾は!?」

「撃ってます! ……ダメだ、貫通しない!」


 前方、司祭が地面に聖刻を刻む。


「――神の御名において」


 次の瞬間、地面が隆起し、土塁が意思を持ったかのように迫り上がる。


「伏せろ!」


 土嚢が吹き飛び、衝撃波が走る。


「ブルー2-5、負傷!」

「衛生兵!」


「くそ……魔力粒子濃度、高すぎる……」

「レーザー測距、誤差出てます!」


 視界が歪み、距離感覚が狂う。

 騎士団が、盾を構えたまま歩いてくる。

 恐怖ではない。理解不能への焦りだ。


「こちらブルー2-1! 敵、接近距離100切る! 対戦車火器、要請!」

「――不可! 周辺に民間人未退避区域あり!」


「……了解……」


 その瞬間、騎士の一人が剣を掲げる。


「浄化を!」


 閃光。

 陣地の一角が、抉れるように消し飛んだ。


「後退! 後退しろ! ラインBへ撤退!」


 * * *


 ――西糸島防衛指揮所


 警報音が、指揮所の空気を切り裂いた。


「県境線、完全突破!」

「敵先遣、糸島市北部農道に侵入!」


 一瞬の沈黙。

 大型モニターには、魔法障壁を維持したまま進軍する騎士団の映像。


 既視感があった。

 それは、あの時――AMDIが間に合わなかった時の光景だ。


「警備第3小隊、被弾多数!」

「通常火器、効果限定的! 障壁健在!」


 伊藤一佐は、歯を食いしばる。


「……AMDIがあれば、止まる」


 それは独り言だった。

 参謀が、躊躇いがちに口を開く。


「一佐……」

「言うな」


 言われなくても分かっている。

 AMDIはある。だが、ここにはない。

 事前配置されているのは、県内側――市街防衛を想定した最小限の数のみ。


「再配置には、最低でも――」

「四十分」


 四十分。その間に、敵は市内に雪崩れ込む。


「……前回の農業自治区では、政治判断を“事後承認”にした」

 参謀が低く言う。

「今回は――」


「今回は、県民の目の前だ」


 伊藤一佐が遮る。


「そして、相手は聖戦を宣言している」


 AMDI(アムディ)を使うということは、神の奇蹟を否定する兵器を、再び見せるということ。

 それは、軍事行動ではない。

 思想への宣戦だ。


「俺の判断では使えない」


 伊藤一佐は、はっきりと言った。


「――知事判断だ」


本日も『福岡異世界転移史』をお読みいただき、ありがとうございます!

第一次西糸島事変――福岡の存亡を懸けた戦いは、小説家になろうに初転載になります。ファンタジーの不条理バグに対し、最後まで見届けていただければ嬉しいです。


順次、公開予定です! 面白かった! 続きが気になる! と思っていただけましたら、ページ下部より☆☆☆☆☆の評価とブックマークをよろしくお願いいたします。作者の執筆スピードが(魔法ではなく物理的に)加速します!


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