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第6話:決意

 ルキウスが小首を傾げる。


「そうだな、週に一回」

「えっ」

「週に一回、半日だけ騎士団に戻ることを許す」

「そんな! それじゃ顔見せくらいしかできない!」


 少なすぎると抗議しかけるアーロンを制するように、ルキウスが指を一本立てる。


「おまえがなすべきは王妃の仕事。それにまずは王妃教育が必要だからな」


 アーロンがゆっくり指を立てていく。


「王国の歴史、経済、政治。それにテーブルマナー、式典マナー、社交ダンス、外交術」

「そんなに!?」

「何を言う。まだまだあるぞ」


 アーロンは思わず頭を抱えた。どれも苦手分野で素養もない。やはり自分は護衛や戦闘が向いている。


「やっぱり王妃なんて俺には無理だよ」

「いい加減、腹をくくれアーロン」


 ルキウスが静かに、だがぴしりと言う。

 それだけでアーロンは背筋が伸びた。


「それに悪いことばかりではない。王妃になりたがっている女性がたくさんいるのは知っているだろう?」

「ああ」


 期待に満ちた顔でずらりと並んでいた貴族の令嬢たちが浮かぶ。


「彼女たちがなぜ必死になるのかわかるか? 王妃になれば贅沢ができるだけではない。立ち回り次第では権力も手にできるからだ」

「権力……」

「おまえ、何か願いはないのか?」


 アーロンはきょとんとした。


「願いって?」

「たとえば騎士団に関して、何か変えたいこととか必要なものとか」

「あ、あるっ! あります! 何度も陳情しているけど、老朽化している宿舎の建て替え、古くなった馬具や武器の一新、あとそれと配給される食事の量と――」


 急に饒舌(じょうぜつ)になったアーロンをルキウスが面白そうに見つめた。


「それらの要望は、王妃の権限として議会に直接陳情できる。そして王妃は決を採る議会メンバーで、当たり前だが王と王妃の発言力は強い。女神に選ばれているからな」

「!!」


(それって、王妃が陳情したらだいたい通るってことか?)


 アーロンは胸が高鳴るのを抑えられなかった。


 議会で議題にしてもらうには、まず騎士団の総大将へ陳情せねばならない。

 その上で議題にしてもらっても議会で賛同を得られずに叶わなかったことがたくさんあった。


 悔しい思いをしてきたが、それらがすべて覆るかもしれない。


 目を輝かせるアーロンに、ルキウスがくすっと笑った。


「急に多大な要望を出しても通りづらい。まずは通りやすい議題を一つ出すといい」

「それならまずはフェニックス騎士団の予算を増やしてほしい!! とにかく維持するための費用が足りなくて士気が落ちる。ウチは平民ばかりの団だから予算の配分が少ないんだ」


 同じ騎士団でも明らかに待遇が違う。だからこそ、不利な自分の団に入ってくれた団員たちに報いたかった。

 ルキウスがうなずく。


「ふむ。いいだろう。それくらいなら議会を通さずとも、私の裁量で可能だ」

「マジか!」


 思わず品のない言葉が出てしまい、慌てて口を塞ぐアーロンを面白そうに見る。


「少しは王妃になってよかったと思っただろう?」

「はい!」


 力強くうなずくアーロンにルキウスがにこりと笑う。


「踏ん切りはついたか? おまえは女神様に選ばれたこの国の王妃なんだ」

「……!!」


 ルキウスが言うように、もういくら悩んでも後戻りできないのだ。


(この運命から逃れられないのなら、やれるだけやってみるか)


 新しい王が自分を王妃だと認めているのだ。ならば騎士団長として忠を尽くすべきだろう。

 アーロンはちらりと左手の薬指を見た。


(そもそも指輪は抜けないし)


「確認するけど夜伽は必要ないんだよな?」

「おまえが嫌がることはしないと言っただろう?」


 アーロンはふーーーーっと大きく息を吐いた。


「わかった! 俺、王妃ってのをやってみる!」

「頼もしい言葉だ」


 ルキウスが微笑んだ。心から嬉しそうなその笑顔にアーロンも思わずつられて顔をほころばせてしまった。

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