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第30話:明日の予定

「陛下!」

「ルキウス様!」


 婦人たちがわっと歓声を上げる。そして、アーロンの言葉を思い出したのか意味深な笑みをルキウスに向けた。


「安全が確保できましたので、お帰りになれますよ」


 ルキウスの言葉に安堵の声が漏れた。


「では、失礼致しますわ」

「アーロン様、今日はお話しできて楽しかったです」

「またお茶会にもいらしてくださいませ」


 婦人たちににこやかに挨拶されるアーロンを、ルキウスが驚きの眼差しで見つめた。


 最後の一人が出ていくと、ルキウスがそっと囁いてきた。


「驚いたな。あのご婦人方があんなに好意的に……どんな魔法を使ったんだ?」

「俺は寵姫だからな。任せておけ」


 アーロンはルキウスの肩に手を回した。


 周囲に聞こえないよう、そっとルキウスにささやく。


「お疲れ。その様子じゃ妖魔はあの一匹だけだったようだな」

「ああ。妖魔の気配はまったくなかった」

「おかしいよな」


 ルキウスがうなずく。


「封印場所から遠いこんな場所にいきなり出現するなんて不自然極まりない」

「だな」

「誰かが王宮に妖魔を持ち込んだのかもしれないな」


 ルキウスの言葉にアーロンは目を剥いた。


「そんなことできるのか!?」

「わからない。妖魔なんて伝説の中の生き物だからな」


 ルキウスが肩をすくめる。


「とにかく、近日中に封印を確認するつもりだ。妖魔が出てきたとあれば、封印が本当に解けている可能性がある」

「解けていたとして、再封印できるのか?」

「エレノアに協力してもらって文献をあたるつもりだ。貴重な王家に伝わる文献を、彼女が書庫で管理してくれている」

「……!」


 ここに来て、エレノアの培ってきたものが脚光を浴びることになった。


 本なんて何の役に立つのだと内心思っていた。女王の仕事ではないとも。


 そんな自分の浅はかな考えを一蹴された気分だ。


(すごいよ、エレノア……)


「エレノアが王妃になった意味が……」

「何か言ったか?」

「いや、なんでもない」


 誰に言われたのでもなく、自分の望みを粛々と叶えていったエレノア。


(元平民で王の子も産まずとも、エレノアは国に貢献してるんだ)

(俺もそうなりたい)


 強く願うアーロンに嬉しい知らせが届いた。


「さすがに疲れたな。明日は休みにしてもらったからゆっくり休め」

「やった! 自由にしていいのか?」

「ああ。だがおまえは王妃だ。遠くへ行くのであれば護衛をつけなければならないが……」

「騎士団の駐屯地ならいいだろ?」


 アーロンはいいことを思いついた。


「ルキウス、おまえも休みか?」

「いや、私は……」

「明日の午後、一緒に出かけないか?」

「え?」

「騎士団の訓練は午前中だけにするから、午後から夕食まではおまえと出かけたい」


 ルキウスは意外だったようで目を見開いている。


「仕事も勉強も大事だけどさ、俺たちは結婚したばかりだろ? 夫婦二人の時間を作るのも必要じゃないか?」


 毎日顔を合わせてはいる。だが、朝食の時間や寝る前の時間に話すだけだ。

 王宮行事以外で出かけたこともない。


「ではどこへ行く?」

「あんまりお付きの者を引き連れて行くのもなあ。なんか王宮の敷地でゆったりできる場所はないか?」

「では、王宮図書館前の花園はどうだ? ゆっくり読書ができるようにとエレノアがベンチを作ってくれている」

「へえ、いいな。そこにしよう」


 ルキウスの肩が揺れた。口元を手で隠していたが、とても嬉しそうに微笑んでいた。

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