第27話:妖魔襲来
遠目にもわかる爛々と光る赤い目、四つ足の獣にしてはやたら長い手足、額から突き出た角――見たことのない獣に、アーロンはすぐさま声を上げた。
「近衛兵! 王を守れ!!」
さすがに近衛兵は優秀であっという間にルキウスが囲まれる。
(よし、ルキウスは大丈夫だな)
「借りるぞ!」
自分を守ろうと走り寄ってきた近衛兵の剣を鞘から抜き、アーロンは走り出した。
(ここにはたくさん人が集まっている! 早く撃退しないと)
「アーロン!!」
ルキウスの切迫した声が背後から聞こえたが、アーロンは足を止めなかった。
悲鳴を上げて逃げ惑う客たちをかきわけるようにして窓へと向かう。
(犠牲者は絶対に出さない!!)
アーロンは真っ先に妖魔の元に駆けつけた。
(なるほどね。これは確かに一目見れば妖魔とわかるな)
アーロンは初めて見る妖魔に剣を構え、じりっと距離を詰めていく。
大きさは山羊くらいか。あまり大きくないのが救いだ。
顔は犬に似ているが、その目は真っ赤で口は耳の近くまで裂けている。
何より、額から突き出た角が禍々しい。
妖魔は大きく口を開け、シャーッと威嚇音を出した。
その口腔内には尖った歯がずらりと並ぶ。
(妖魔が伝承どおりなら、怪しげな異能を持っている。力を出される前に仕留める!)
自分の剣が妖魔に通用するかわかるいい機会だ。
アーロンに追いついてきた兵士たちも妖魔を取り囲む。
「アーロン様! ここは私たちが!」
「いいから、俺にやらせろ」
近衛兵たちの力を侮るわけではないが、やはり実戦慣れしている自分が戦うほうがいいだろう。
「他に妖魔は!?」
「現在確認中です!」
「……よし」
城の外で騒ぎは起きていない。おそらくはこいつ一頭の単独行動だ。
(群れならやばかったが、一頭なら何とかなる)
アーロンは大きく足を踏み出した。
同時に妖魔も床を蹴って飛びかかってくる。
「!!」
身を屈め、アーロンは剣を大きく一閃した。
ずばっという音がし、妖魔が真っ二つになった。
どさっと妖魔の体が床に落ち、まるで灰になったかのようにサラサラと消えていった。
「アーロン様! 大丈夫ですか?」
駆けよってくる兵士たちにうなずいてみせる。
「ああ、怪我はない」
床にはもう残骸すら残っていなかった。
(妖魔は大妖魔の妖気によって生まれてくるというが、本当かもな)
「他に妖魔がいないか探せ!」
兵士たちに命じていると近衛兵たちを引き連れたルキウスが駆けてきた。
「アーロン!!」
ルキウスが胸ぐらをつかんでくる。
「無事か!?」
「ああ。思ったより呆気なかったな。妙な力を使われることもなかったし」
「おまえは……っ!」
ルキウスがぐっと拳を握った。
「王妃の自覚がないのか! なぜ妖魔を追った!」
「えっ」
ルキウスが本気で怒っているのに気づき、アーロンは狼狽した。
「だって、その……」
被害を食い止めようとしか考えていなかった。
「いや、俺は強いし……」
「だとしてもだ! おまえは王妃なんだ! 最前線に飛び出すな!」
ルキウスがはあっと息を吐く。
「私を置いていくな……! それだけは絶対に許さん」
打ちひしがれた声に、アーロンは素直に頭を下げた。
「悪かったよ……」
ルキウスは絶対に自分より先に死ぬな、と言いたいのだとすぐわかった。
(ったく、王様のくせに元平民の俺を守ろうとするなんてな)
「二度としないと誓え」
「それは無理かも……敵を倒すこと以外考えていなかったから」
アーロンの素直な言葉に、ルキウスががっくりと肩を落とす。
「悪かったよ、ルキウス。でも俺、結構頑丈だし強いんだ。だからあんまり心配するな」
ポンと肩を叩くと、ルキウスがはっと笑った。
「まったくおまえときたら……」
アーロンがちらっとホールを見渡した。
「それで客たちはどうする? 安全が確認するまで動かさないほうがいいが」
「今、控えの間を準備させている。ご婦人方は一旦そちらで待っていただく」
「それがいい。ショックを受けている人も多いだろうからな。落ち着くまで別室で休ませるのが一番だ」
てきぱきと指示を始めるルキウスを見ながら、アーロンはふっと考えた。
(それにしてもなぜ妖魔が王宮に? 王都から遠い場所で目撃されたはず)
(いや、今は安全確保に集中だな)




