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第19話:意外な事実

 夕食の席に着くと、ルキウスが微笑んできた。含みのある笑みに、アーロンはすべてを悟った。


「お茶会は散々だったようだな」

「もう情報が伝わってるのか」


 あの大騒ぎを思い出し、アーロンはため息をつき両手で顔を覆った。


 蛇は死んだと思っても動く時があるのをうっかり失念していた。


 余裕の態度で煽りをかわすつもりがとんでもない騒ぎになってしまった。


「さえずるのが大好きな令嬢たちの集まりだからな。私の耳にも届くさ」


 ルキウスが肩をすくめる。


「俺は仲良くしたかったんだがな。ま、無理があるか。俺と彼女たちじゃ」

「ずいぶん殊勝だな」


 ちり、と火がついた気配がした。

 アーロンは驚いてルキウスを見た。その薄紫色の目に静かな怒りの炎を感じ、ルキウスは驚いた。


「おまえ、まさか怒ってるのか?」

「当たり前だろう。妻を侮辱されたんだぞ」

「はあ!?」


 失態を注意されると思っていたアーロンは唖然とした。


「いや、俺その、わざとじゃないにしても蛇を令嬢の顔に――」

「自業自得だろう。王妃に生きた蛇を食えとは不敬罪に問うてもいいのだぞ」


 ルキウスが腕を組み、不機嫌であることを隠そうともしていない。


(こいつ、本気で怒ってんのか)


 相変わらずの愛妻っぷりにアーロンはふきだしそうになった。


「おまえ、もしかして誰かにお茶会を見張らせていたのか?」


 ルキウスは答えない。それが答えだった。


「そんなに心配するなよ。俺、騎士団長だぜ? 甘やかされたお嬢様たちなんて何人いても」

「そういう問題じゃない」


 ルキウスが静かに遮った。


「王妃に対する態度ではないだろう」

「まーな。でもしょうがなくないか? 俺は元平民で男でさ。それを王妃に選ばれたから敬えって言われてもさ」

「……」

「納得いかない気持ちはわかるからさ。まあ、認めてもらえるようやってくしかないな」


 しばらく腕を組んでむすっとしていたルキウスが、小さく息を吐いた。


「おまえを見ていると怒っている私が度量が狭い気がするな」

「んなこたねーよ。おまえは俺のために怒ってくれてるんだろう? 夫としては立派だよ」

「慰められると余計に落ち込むな」


 そう言いつつ、ルキウスに笑顔が戻った。


「私が心配する必要はないということだな」

「そうそう。女の世界に口出さなくていいから!」


 アーロンはわざとらしく軽口を叩いてみせた。


「まあ、お嬢様方は想像がつかないんだろうな。食べるものがなくて這いずり回ったり、蛇や蛙を捕まえて食ったりするのが当たり前なんてこと」


 令嬢たちの引きつった顔を思い出すとふっと笑みがこぼれる。


(でも、その方がいいんだ。あんな経験しない方がいい)


 アーロンは大きく伸びをした。


「先生も心配してたしな。明日、大丈夫だったって言っておかないと」

「エレノアが?」

「ああ。忠告してくれてたんだ。挑発に乗らない、暴力を振るわない……王妃の心構え的な」


 ルキウスがうなずく。


「エレノアの話は参考になるだろう。同じ平民から王妃になった女性だからな」

「えっ、王妃って……」

「知らなかったのか? エレノアは先々王の王妃だ」

「ええーーーーー!?」


 思いがけない事実にアーロンは叫び声を上げてしまった。

 あまりに驚いて開いた口が塞がらない。


「エレノアはそんなこと一言も……!」

「奥ゆかしいな。あの方らしい」


 ルキウスがくすっと笑う。


「あ、先々王の王妃ってことは、おまえの義理の母になるのか?」


 先々王はルキウスの父で、その側室が母だ。

 アーロンは顔を上げ、頭の中で家系図を浮かべた。


「形式的にはな。だが、父の在位は一年だけ。私が生まれたのは父が退位した後だからエレノアとはあまり話したことはない。だが、彼女のこれまでの仕事ぶりは知っている。きっとおまえの力になってくれると思って教育係を頼んだんだ」

「そうなのか……」


(エレノアが平民から選ばれた王妃……!)


 凜としつつもどこか身近に感じたのはそのせいだったのかもしれない。


 それにしても元王妃とは驚きだ。


「エレノアって子どもは?」

「いない。気になるか?」

「……」


 子どもがいない、平民出身の王妃。


(俺と同じだ……)


「エレノアはおまえの教育係だ。気になることがあれば聞いてみるといい」

「ああ!」


 アーロンはまさか授業を心待ちにすることになるなど思ったことがなかった。

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