第8話「拡散する噂」
事件が水面下でどれだけ緊迫していようと、SNSの世界には別の時間が流れている。
「みなさーん、今日は可児近辺で噂の、あの金山巨石群に来てまーす!」
地元密着型YouTuber、鳴海美佑のカメラは、いつも通り軽快なトーンで巨石群を映していた。だが、いつもと違ったのは、その日彼女が偶然拾ってしまった映像だった。
「あれ、なんか……向こうに人いません? こんな朝早くに測量してる感じの……」
画面の端に映り込んだのは、三脚のような機材を持った外国人の姿だった。鳴海はそれを「面白い豆知識コーナー」程度の軽い気持ちで動画に含め、そのままアップロードしてしまった。
同じ頃、関西を拠点とする占い師系YouTuber、フェルナンド・村田も、独自のルートでこの話に食いついていた。
「みなさん、実は最近、飛騨・美濃エリアの『聖地パワー』が急上昇しているという情報が入ってきました。三柱鳥居、金山巨石群、位山……これはもしや、日本のレイラインが動き出しているのでは!?」
半ば芸風、半ば本気の語り口で展開されるその配信は、オカルト好きの間で瞬く間に拡散されていった。
さらに、バイヤー系YouTuberのロドリゲス斎藤も、「最近この辺で外国人バイヤーが妙に土地の話を聞いて回ってる」という、また別の角度からの情報を発信し始めた。
三者三様の発信が、それぞれ悪気なく組み合わさることで、ネット上には「可児・下呂・飛騨エリアで何かが起きている」という、漠然とした、しかし無視できない熱量を持った噂が形成されていった。
この噂の拡散に、思わぬ形で巻き込まれたのが、地元の学生である柊澪と、その友人の藤原茜だった。
「ねえ澪、これ見た? 金山巨石群の動画、コメント欄がすごいことになってる」
「え、なにこれ……『これは古代イスラエルの秘密結社が関わっている』とか、めちゃくちゃなこと書いてる人もいる」
二人はただの野次馬のつもりで、動画のコメント欄を追ったり、現地の様子をSNSで検索したりしていただけだった。だが、その何気ない行動の履歴が、後になって、事態を注視するNSA側にもモサド系組織側にも、「地元の学生が何かを掴んでいるのではないか」という、不必要な注目を集める結果になってしまう。
工藤俊一は、拡散されていく動画やSNSの投稿を苦い顔で眺めていた。
「秋月さん、まずいですよ。素人が悪気なく撮った映像に、向こうの人間が映り込んでる」
「向こうも、これを黙って見過ごすとは思えんな」
情報統制など、もはや不可能な段階に入っていた。町の日常と、水面下の国際的な緊張が、SNSという薄い膜一枚を隔てただけの距離まで近づいてしまったことを、工藤は強く実感していた。
(第9話へ続く)




