第5話「捜査本部設置」
可児署の駐在所に、器物損壊の通報が入ったのは、その週の初めだった。
「監視カメラが、また壊されてます。今度で三件目です」
巡査長の山本彩織が、上司に報告する声には、隠しきれない焦りがあった。同僚の平圭も、現場の写真を見ながら首をひねる。
「単なるイタズラにしては、狙いすましたようにカメラのレンズだけ潰されてますね」
被害は町の要所――旅館街の入り口、山道の分岐点、そして温泉神社の近く――に集中していた。誰かが、意図的に「見られたくない場所」を作ろうとしているようにも見えた。
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事態を重く見た県警は、出向中の警視正・安田達郎を通じて、可児署に対応を指示した。現場の実務を仕切ることになったのは、警部補の雨月雅之だった。
「山本、平。お前たちには、地元の聞き込みを続けてもらう。俺は安田警視正と一緒に、県警本部との連絡を取る」
雨月は三十代前半とは思えない落ち着きで、若い二人に指示を出していく。安田は五十代、キャリア組らしい慎重さで、事の重大さを慎重に見極めようとしていた。
「雨月くん。この件、単なる器物損壊事件として片付けていいものか、正直まだ判断がつかん」
「私も同感です。しかし、上に報告するにしても、確証が足りません」
二人の間には、言葉にはしにくい緊張感が漂っていた。
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そんな折、多治見署長の小倉裕司が、私的な立場で雨月に連絡を寄越した。
「雨月くん、ちょっと耳に入れておきたいことがある」
「署長、何か掴まれましたか」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、うちの同級生に、根古という男がいてな。飄々としているが、昔から妙に勘のいい奴なんだ。彼が最近、外国人絡みの妙な噂を耳にしたと、ちらっと漏らしていた」
小倉はそれ以上、多くを語らなかった。あくまで「雑談程度の情報」として伝えただけだ。だが雨月には、この一言が、これまで別々に動いていた点と点を繋ぐ、小さいが確かな足がかりに思えた。
「根古、ですか。名前だけでも、頭に入れておきます」
電話を切った後、雨月は考え込んだ。地元の刑事たちの捜査、県警本部の慎重な姿勢、そして私立探偵と記者が独自に嗅ぎ回っているらしいという噂――バラバラに動いていたこれらの動きが、これから徐々に、一つの捜査本部の下に集約されていくことになる。
まだ誰も、その先に、国際的な陰謀が待ち構えているとは知らなかった。
(第6話へ続く)




