鴉ヶ谷鉱山の記憶 遺跡の奥へ
ついに未確認空間へ突入、探偵・記者・学者・自衛隊の混成チームで踏査
「三つの証」を発見:渦巻き文様の器、異質な質感の黒褐色の塊、未知の文字の銘板 ― 幸い線量・危険物質反応は異常なし
現場に二種類の足跡を発見 ― 久我原のものと思われる登山靴の跡と、もう一人の人物の足跡
「久我原は一人ではなかった」という決定的な物証が浮上、犯人の存在が具体化
翌朝、鴉ヶ谷鉱山の坑口には、これまでで最も物々しい顔ぶれが揃っていた。
防護装備に身を包んだ上田唯と大島拓を先頭に、荒牧大輔、斎藤士郎、小此木永周が続く。その後ろに、坂東直樹、土志田沙彩、根古親司、江戸川勉、安藤修という、立場も専門もばらばらの一団が並んだ。全員に、線量計と簡易防護マスクが配られている。
「万が一のことがあれば、即座に退避してもらう。私の指示には、絶対に従ってもらいたい」
荒牧の言葉に、全員が頷いた。
「行くぞ」
上田のヘッドライトが、闇の奥を切り裂いた。
小此木が発見した亀裂は、この数日でわずかに拡張され、大人一人が通れる程度の通路として整備されていた。狭い通路を抜けると、思いがけない広さの空間が現れた。
「これは……」
坂東が思わず声を漏らした。
天然の洞窟を利用しつつ、明らかに人の手が加えられた空間だった。壁面には、久我原の覚書にあったのと同じ渦巻き文様が、風化しながらも刻まれている。そして、空間の中央には――
「あった」
土志田が指し示した先、朽ちかけた木箱の中に、三つの品が並んでいた。
渦巻き文様の刻まれた、金属とも石ともつかない質感の器。表面が奇妙に滑らかで、通常の岩石とは明らかに異なる質感を持つ黒褐色の塊。そして、見たことのない文字が刻まれた、薄い銘板。
「線量に異常はない」
大島が線量計を確認しながら報告した。
「温度、湿度も、周辺と大差なし。……ひとまず、直接的な危険物質の反応はありません」
その報告に、荒牧はわずかに肩の力を緩めた。
「では、これが、久我原氏の求めていた『三つの証』ということか」
「間違いないでしょう」
坂東が慎重に器へと近づいた。だがその時――
「待ってください!」
江戸川の鋭い声が、洞窟内に響いた。
坂東の足元、木箱のすぐ脇に、これまで誰も気づいていなかった何かがあった。
「……これは」
安藤が屈み込み、ライトを向けた。そこにあったのは、比較的新しい――ここ数日以内につけられたと思われる、複数の足跡だった。
「久我原氏以外にも、誰かがここに入っている」
雨月が現場に呼ばれ、慌てて駆けつけた。足跡の周囲を慎重に調べた鑑識課員が、緊張した声で報告した。
「サイズから見て、二種類。……一つは、久我原氏のものと思われる登山靴の跡。もう一つは、もっと小ぶりな――おそらく、別の人物の足跡です」
「別の人物……」
根古が低くつぶやいた。
「つまり、久我原くんがここに辿り着いたとき、彼はすでに一人ではなかった、ということか」
その場にいた全員の脳裏に、同じ疑問がよぎった。
久我原と共にこの空間に入り、そして――彼を残してここを去った人物。それは一体、誰なのか。
洞窟の奥、風化した渦巻き文様が、まるで長い眠りから目を覚ましたかのように、ヘッドライトの光を静かに反射していた。
これでミステリーとしての核心――**「誰が久我原と共にいたのか」**が焦点になりました。次は第十四章「対立する思惑」で、自衛隊・NSA・探偵陣それぞれの狙いのズレや、この足跡の主を巡る推理合戦に進めます。




