↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャーナリスト  作者: 賀茂丈晴
PR
42/63

鴉ヶ谷鉱山の記憶 昭和十七年の記録(前編)

 坂東直樹が自宅の書庫から取り出した「東濃地方山間部遺構調査(未公開)」の報告書は、表紙こそ簡素だが、中身は驚くほど詳細だった。

ただし、肝心な部分――調査の実施主体や、その後の顛末に関する記述は、意図的と思われる形で欠落していた。


「土志田さん、この欠落部分、何か手がかりはありませんか」


坂東が尋ねると、土志田は自身のタブレットで、別の資料を呼び出した。


「国立公文書館に、断片的にですが関連文書が残っています。……ここに、実施主体を示す記載が」


画面に表示されたのは、かすれた印影の押された古い文書だった。


「陸軍技術研究所 特別調査班、通称『鴉班』」


「鴉班……。この山の名前と、同じ字を使っているんですね」


江戸川がつぶやいた。


「地名から取ったのか、それとも逆に、この調査班の存在があってこそ、山に『鴉ヶ谷』という名がついたのか……今となっては、判然としません」


土志田はさらに資料をめくった。


「鴉班の任務内容についての記述は、ほとんど黒塗りです。ただ、一点だけ――『発見物の分類不能性に鑑み、通常の兵器開発とは異なる扱いとする』という一文が残っています」


「兵器開発とは異なる扱い……」


根古が眉をひそめた。


「つまり、武器として利用しようとした、というわけではない、ということか」


「その可能性が高いですね。むしろ……理解できないものとして、慎重に、あるいは恐れながら扱っていた、という印象を受けます」


坂東が続けて言った。


「久我原さんの祖父の覚書にあった、『理解されるべきものだった』という言葉とも、符合しますね」


その場に同席していた小倉裕司が、ふと表情を曇らせた。


「根古……実は、俺も一つ、思い出したことがある」


「なんだ」


「うちの祖父、戦時中は陸軍にいたんだが……この辺りの山に配属されていた時期があった、と聞いたことがある。詳しいことは、家族の誰も知らないんだが」


根古が驚いた顔で小倉を見た。


「お前の祖父さんも、鴉班の関係者だった可能性がある、ということか」


「わからない。……ただ、祖父は晩年、山の名前を聞くたびに、妙に落ち着かない様子だった、というのは、母から聞いたことがある」


部屋の空気が、また一段と重くなった。


久我原家。江刺家の師匠。そして、もしかすると小倉家――この地に生きる人々の何人かが、鴉班という一つの組織を介して、密かに繋がっている可能性が浮かび上がってきた。


「これは……単なる歴史の謎、では済まなくなってきましたね」


江戸川が静かに言った。


「久我原さんが殺された理由。それが、鴉班の秘密そのものに関わっているとしたら――今、この場にいる誰かも、無関係ではいられないかもしれません」


その言葉に、部屋にいた全員が、無言のまま顔を見合わせた。


窓の外では、夕暮れの光が、鴉ヶ谷の山を赤く染め始めていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。