表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャーナリスト  作者: 賀茂丈晴
PR
21/29

「十間廊と御神渡り」

 翌日、二人は諏訪大社上社前宮――四社の中でも最も古い信仰の形を残すとされる社を訪れた。



「山田さん、見てください。あれが『十間廊』です」


 境内に建つ、細長い簡素な建物を前に、佐藤が声を弾ませた。


「かつてはここで、神への供物を並べる神事が行われていたそうです。で、これが海外の識者の間で、こう言われているらしいんですよ。『ユダヤの幕屋の構造に似ている』と」


「幕屋、というと」


「旧約聖書に出てくる、移動式の礼拝所です。イスラエルの民が、荒野を旅する間、契約の箱を安置していた場所ですね」


 剣山で聞いた「契約の箱」という言葉が、思わぬところでまた顔を出したことに、山田は軽い眩暈のようなものを覚えた。


「まあ、専門家じゃない人間の感想レベルの話ですけどね」


「ですが、こう繋がりが重なってくると、さすがに気になりますね」



 前宮の宮司から話を聞く機会を得た二人は、さらに興味深い話を耳にすることになった。


「冬になると、諏訪湖に『御神渡り』という現象が起きるのをご存知ですか」


「氷が盛り上がって、湖の上に一本の道のような筋ができる、というあれですね」


「その通りです。言い伝えでは、上社の男神・建御名方命が、下社の女神・八坂刀売命のもとへ、湖の上を渡って会いに行った跡だとされています」


「湖の上を渡る、というのは……」


 佐藤が何かに気づいたように、山田の顔を見た。


「新約聖書にも、イエスが湖の上を歩いた、という有名な逸話がありますよね」


 宮司は静かに微笑んだ。


「似ている、と感じる方は、確かに時々いらっしゃいますね。ただ、私どもとしては、これは古くからこの土地に伝わる神々の物語として、大切に守っているだけのことです。海の向こうの物語と、似ているかどうかは、正直、専門外なものですから」


 謙虚だが、はっきりとした宮司の物言いに、山田は好感を抱いた。



 その日の夕方、宿に戻る道すがら、佐藤はノートに、これまでの旅で集めた符合を一つずつ書き出していた。


「赤穂の大避神社――ダビデ王。戸来村――キリストの墓。剣山――契約の箱。そして諏訪――モリヤ山とイサクの燔祭」


「並べてみると、壮観ですね」


「でしょう。でも山田さん、俺、今回の旅を通じて、一つ分かったことがあるんです」


「なんです?」


「これだけ似た話が、日本中のあちこちに散らばってること自体が、実はもう『答え』なんじゃないかって。つまり――」


 佐藤は少し言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。


「古代に本当に交流があったかどうかより、『似ている』と感じずにはいられない何かを、人間はずっと、色んな場所で、繰り返し紡いできたんだ、っていう。それこそが、面白いんじゃないかって」


 山田は、剣山でダニエル・ローゼンが語った言葉を思い出していた。

人間が神聖なものを守り、伝えようとする営みは、独立して似た形になり得る――。


「佐藤さん、その考え方、悪くないですね。むしろ、今までのあなたの『陰謀論小説家』らしさより、よっぽど深みがある」


「褒めてます? けなしてます?」


「褒めてますよ、もちろん」


 諏訪湖の湖面に、夕日が静かに反射していた。

まだ御神渡りの季節には早いその湖を眺めながら、二人はしばらく、言葉もなく立ち尽くしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ