第14話「撮られた写真」
佐藤直樹は、その夜、酒の勢いも手伝って、図書館で撮ったサロメの写真を、軽い気持ちで自分のブログに投稿してしまった。
「『可児に現れた謎の美女調査員? 俺の小説の新キャラのモデルにしようかな』――なんてね」
冗談半分のキャプションとともに投稿されたその写真は、佐藤のブログの読者――その中には、当然、レイチェルたちの動きを監視していた者もいた――の目に、あっという間に触れることになった。
「サロメ、まずいわ。あなたの顔写真が、ネットに出てる」
レイチェルの報告に、サロメは表情を変えなかったが、その声にはわずかな苛立ちが滲んでいた。
「……素人の悪ふざけね。誰が撮ったか、すぐに特定できる?」
「投稿者は、佐藤直樹。この町に長期滞在している、しがない小説家よ」
翌朝、佐藤は宿の部屋に、招かれざる客を迎えることになった。
「佐藤さん、ですね」
ドアの外に立っていたのは、サロメ・ウリエル本人だった。笑顔だが、目は笑っていない。
「あ、ああ、昨日図書館にいた……! いや、これは失礼しました、勝手に写真なんて」
「削除してもらえますか。それと、二度としないと約束を」
有無を言わせない口調に、佐藤はすっかり縮み上がり、その場でブログの記事を削除した。
「も、申し訳ない。悪気はなかったんです、ただの……」
「ただの、好奇心。分かります。ですが、好奇心が時々、人を危険な目に遭わせることもある」
サロメはそう言い残すと、静かに部屋を後にした。その言葉には、脅しというよりも、どこか経験に裏打ちされた忠告のような響きがあった。
この一件を耳にした山田貴明は、すぐに工藤に連絡を入れた。
「工藤さん、佐藤さんが、向こうのチームに直接接触されたそうです」
「……危害は?」
「幸い、削除しろと言われただけで済んだみたいです。ですが」
「向こうが、佐藤さんの存在を明確に認識した、ということですね。厄介だな」
工藤は電話越しに、深く息を吐いた。これまで水面下で進んでいた綱引きに、無関係だったはずの一般人が、明確に巻き込まれてしまった瞬間だった。
「秋月さん、これはもう、悠長に構えていられません。根古さんのところに集まりましょう」




