第12話「戻ってきた探偵」
工藤俊一と秋月小五郎は、いったん横浜に戻っていたが、山田からの連絡を受けて、再び可児へとんぼ返りすることになった。
「秋月さん、休暇のはずが、もう何回目ですかね、これ」
「お前が首を突っ込んだ話だろう。今更愚痴るな」
新幹線の中で、工藤は佐藤のブログのアクセス解析を眺めながら、眉根を寄せていた。
「イスラエルからの妙なアクセス増加……。一石さんたちとは、動きの質が違う気がします」
「一石は、少なくとも筋を通す男だった。だが、上が納得しなければ、別の人間が送り込まれてくる。どこの組織でも、よくある話だ」
秋月の言葉は、長年の刑事経験に裏打ちされた、乾いた現実味を帯びていた。
可児に到着した二人は、まず根古親司のもとを訪ねた。
「根古さん、また厄介事が起きそうです」
「ほう。今度はどこの誰だい」
工藤が事情を説明すると、根古は珍しく、少しだけ表情を曇らせた。
「一石という人は、筋の通った人だったよ。だが、組織というのは、そういう個人の判断だけでは動かんものだ」
「根古さんも、狙われる可能性がありますね。一石さんの報告書に、あなたの発言が影響したと書かれているとしたら」
「わしのような年寄り一人、どうとでもなるさ」
根古は飄々と笑ったが、その目の奥には、これまで見せたことのない、静かな警戒の色が浮かんでいた。
縁側で丸くなっていた黒猫のヤマトが、不意に体を起こし、また山の方角をじっと見つめ始めた。
その夜、多治見署長の小倉裕司から、雨月雅之に緊急の連絡が入った。
「雨月くん、根古の家の周辺で、不審な人影の目撃情報が出ている。念のため、パトロールを強化してくれ」
「了解しました。……署長、これは」
「わしにも、まだ全部は分からん。だが、嫌な予感がする」
可児署の山本彩織と平圭が、その夜から根古の家周辺の警戒に当たることになった。一度は収まったはずの緊張が、再び町全体を包み込もうとしていた。




