第11話「収まらなかった本国」
恵那山での対峙から一か月が過ぎた。可児の町には、表面上、いつもの静けさが戻っていた。
だが、その平穏は長くは続かなかった。
テルアビブ郊外にある、ある機関の一室。一石誠二が本国へ送った報告書――「対象地域における接触を穏便に収束させた」という一文――に、納得しない一団がいた。
「一石は現場を知らない。伝承だけで満足して帰ってくるとは、いったい何のために我々が資金を出したと思っている」
そう言い放ったのは、この作戦の裏で糸を引いていた情報幹部の一人、メサイア・ミカルだった。彼の傍らには、補佐官のヨセフ・シャロームと、分析官のナホム・アリエルが控えている。
「一石さんたちは、現地の事情を汲んで、穏便な形での収束を選んだのだと思いますが」
「穏便? 我々が求めているのは、伝承の『再確認』ではない。証拠だ。物証だ」
ミカルの命令で、新たな部隊が編成されることになった。戦闘格闘員のレイチェル・ミゲルと、分析官でありながら現場経験も豊富なサロメ・ウリエルが、その中心に据えられた。
「サロメ、お前には現地の学術的な調査を任せる。レイチェル、お前は現地の民間人――特に、根古という男の周辺を洗え。一石があの男の一言で退いたというのが、どうにも気に入らない」
「根古親司、ですね。了解しました」
サロメとレイチェルは、静かに頷いた。二人とも、一石たちとは違う世代であり、違う哲学を持つ現場要員だった。伝承を信じて敬うのではなく、伝承の裏にある「事実」だけを追い求める――そういう冷徹さを持ち合わせていた。
同じ頃、可児の町では、佐藤直樹が思わぬ形で、この新たな動きの兆候を掴むことになった。
「山田さん、聞いてくださいよ。俺の海外向けブログの翻訳版、なんか妙に特定の国からのアクセスが増えてるんです」
「特定の国、というと」
「イスラエルからのアクセスが、この一週間で急増してます。IPを見る限り、個人の趣味とは思えない感じの」
山田の背筋に、冷たいものが走った。一度は静かに収まったはずの事態が、再び動き出そうとしている予感があった。
「工藤さんに、連絡しておいた方がよさそうですね」




