第7話『夜空を約束した午後』
前回までのあらすじ(第二章)
〜語り手:犬神愛衣より〜
ねぇ……あなたも、誰もいないはずなのに、
“見られてる気がする”って――
ふと、感じたこと、ありませんか?
空気がすぅっと冷たくなって、
背中の奥がゾクッとするような……
そんな、理由のわからない“違和感”。
高校二年生の犬神千陽ちゃんも、ある日、その気配を感じたんです。
明るく元気な彼女の心の奥には、
ずっと消えない“もや”のような感情がありました。
放課後、チハルちゃんは愛犬ゲンキと散歩に出かけ、
“見られている気配”に戸惑いながらも、
何度も訪れていたはずの場所へ足を向けます。
でもその日だけは、
そこがまるで違う空気をまとって見えたんです。
静かに、でも確かに――
なにかが、動き始めていたのです。
そして、
銀髪の転校生、天野ヒカリさんと出会います。
その出会いに、ぴくりと耳が揺れたのは、
きっと偶然なんかじゃなかった。
しっぽが、ぶんっ、ぶんっ……って揺れるくらいに、
はっきりと、伝わってきたのです――
* * *
「――転校生の天野ヒカリです」
静かで、それでいて芯のある声が、教室にすーっと広がっていった。
その瞬間、思わずヒカリの方を見ちゃう。
えっ、あの子……!?
この前、展望台で会ったばかりなのに――
なんでここにいるの!? ほんとに……!?
派手な子じゃないのに、そこにいるだけで空気がふわっと変わる。
なんかもう、目が離せないんだけど……!
さらりと揺れる銀色の髪が、光をきらっと弾いてる。
それだけでも、すっごく特別に見えるのに。
ヒカリの瞳は、静かな湖みたいに澄んでいて――
その奥は、すごく深そうで。
椅子にすっと座ったまま、こちらに気づいたみたいに、ふわっと静かに笑ってくれた。
――あっ。
息が止まりそうになった。
「また会えたわね、犬神さん」
「う、うんっ!びっくりしたよ〜!まさか同じクラスになるなんてっ!」
「私も驚いたよ。でも…なんだか、不思議と違和感ない気がする」
ヒカリの微笑みは、ふわっとやわらかくて――
どこか儚くて、つい見とれちゃった。
*
授業が終わると、ヒカリの周りにはクラスメイトが次々と集まってきた。
「ヒカリちゃん、どこから来たの〜?」
「好きな食べ物は?」「趣味ってなに?」
質問攻めの中でも、ヒカリは落ち着いてて、丁寧に答えていく。
「引っ越してきたのは少し離れた常盤町から。好きな食べ物は和菓子かな。趣味は……可愛い犬のグッズを集めること」
――“常盤町”って言葉に、私のアンテナがビビビッと反応っ!
「えっ、奇遇〜っ! 私も前は常盤町にいたんだよ!?」
「……そうなんだ」
「もしかして、どこかですれ違ってたかも……! わぁ、なんかすっごく不思議な感じ〜っ!」
思わず前のめりに話しかけちゃって、ヒカリがちょっと目をまるくする。
でもすぐに、ふわっと微笑んでくれて。
そして――さらにビックリ!
「犬のグッズが好きなの!? わ、わたしも大好き〜っ!!
ぬいぐるみとか文房具とか、お気に入り見つけるたびに、つい衝動買いしちゃうんだよね〜っ! もう止まらなくて〜っ!」
テンション爆上がりの私に、ヒカリは少しだけ身を乗り出して、こっそり打ち明けるみたいに――
「……可愛い犬のグッズが揃ってるお店、常盤町にあるみたいで。前から気になってたの」
「うわぁ、ほんとに〜っ!?
そのお店、私も知ってるよ〜!」
なんか一気にテンション上がっちゃった!
こういうの、ほんと好きっ!
「じゃあ、今度そのお店、一緒に見に行こっ♪」
ヒカリは一瞬だけ戸惑った顔をしたけど、
すぐに「……うん、いいかも」って小さく頷いてくれて――
「実は、そこの限定グッズとかも気になってて……えっと、その……」
「限定!?」
思わず声が跳ねた。
「それ、もう行くしかないやつじゃんっ!」
もし私がほんとのワンちゃんなら――
ぜ〜ったい尻尾ぶんぶんで、全力で振ってたと思うっ!
「チハル、距離感バグってない? でもまあ、そこがいいんだけど☆」
亜沙美がくすっと笑いながら言うと――
「たしかに、犬神さんらしいじゃん」
「限定って聞くと、テンション上がるもんね」
そんな声があちこちから上がって、教室の空気がふわっとやわらぐ。
「えっ、そう!? だって嬉しいんだもん〜っ!」
思わずそう返すと、ヒカリが少しだけ目を丸くして、
でもすぐに、ふわっとやわらかく微笑んでくれた。
なんだか、じんわりあったかくなって――
えへへっ、私、すっごく嬉しくなっちゃった。
*
そんな気持ちのまま、私はお昼になるのが待ちきれなくて――そして、昼休み!
亜沙美と隆之と一緒に、いつもの屋上へゴーっ☆
春の風がほっぺをなでて、わくわくしながら階段をのぼっていくと……
――そこには、もうヒカリの姿があった。
フェンスにもたれて空を見上げるその横顔がね、なんていうか……
まるで小説の中から出てきたヒロインみたいで!
思わず『わぁ…』って、声に出しそうになっちゃった。
「ヒカリ、ここにいたんだ〜」
声をかけると、ヒカリがふっと笑って、
こっちを見てくれた。
「ええ。風が気持ちよくて、つい」
その顔を見ていたら――
ほんの一瞬だけ、少し寂しそうに見えた気がした。
「あっ、ヒカリも一緒にお弁当食べる?」
「いいんじゃないか。外で食べるには悪くない条件だ」
「ほらほら、ここ空いてるよっ! みんなで食べたら絶対楽しいじゃん〜♪」
ヒカリは、ちょっと迷ったみたいだったけど、
「……じゃあ、少しだけ」って言ってくれて――
私は「やった〜!」って、思わず手をぎゅっと握っちゃった。
ヒカリは少しだけ照れたように、そっと私たちの輪に加わってくれて、一緒にお弁当をひらく。
春の風を感じながら、もぐもぐタイムっ♪
「はぁ〜〜〜っ、やっぱ屋上って最高っ! 風も気持ちいいし、空も広〜いっ!」
「日差し、強いな。日焼けには気をつけろ、亜沙美」
「うぅ、今それ言わないでよ〜!」
そんなやり取りに、みんなでくすくす笑って、
ふと、空を見上げた。
「……ねぇ、こうして空をのんびり眺めるのも、
悪くないよね」
「おっ、チハル詩人か〜?」って亜沙美に突っ込まれたけど、私はちょっと照れくさくて――でも本当の気持ちを伝えた。
「わたし、夜に星を眺めるのが好きなんだ。すっごく静かで、空が広くて、光ってる星があると……なんか、ほっとするの」
「星を見てると、なんだか懐かしい気持ちになっちゃうことがあるんだよね」
「えっ、チハルってそういうタイプだったの? 意外なんだけど〜!」
「確かに。空なんて、意識しないと見ないもんだな」
ふふっ、やっぱ照れるな〜。
そんなふうに思っていたら――
「……わかるかも」
ふと横を見ると、ヒカリが静かに空を見上げてた。
「ヒカリも、星を見るの好きなの?」
「そうね。夜空って……なんだか落ち着くの」
その瞬間、胸の奥がふるっと揺れた。
なんだろう……どこかで、似たような感覚を覚えた気がして。
「そ、そっか。ヒカリも夜空、好きなんだね」
ヒカリは小さく頷いて、遠くを見つめた。
その横顔が、ほんの少しだけ切なげに見えた。
「高い場所から町を眺めるのが、好き。
星もキレイだし、静かで……なんだか、落ち着くから」
「ロマンチック〜♪」って言いながら、私はいたずらっぽく笑ったけど、
「犬神さんも、そう思う?」
ヒカリがそう聞いてきて――
「もちろんっ!みんなで一緒に過ごす今も、すごく特別だな〜って思うもんっ!」
私がそう言って大きく伸びをすると、ヒカリはふわっと微笑んで、なんだか安心した顔をしてた。
そして、ぽつりと……
「……また、星が見たくなってきたかも」
その言葉に、私の中の何かがキラッと光って――
「よしっ!じゃあ今度、みんなで星を見に行こっ!」
「おーっ、いいじゃんそれっ!」
「天気予報は確認しておく。晴れそうな日を選べば問題ない」
みんなでわいわい話してる中、
ヒカリがちょっと不思議そうな顔をして、でもすぐに嬉しそうににっこり笑ったんだ。
「……楽しみ」
ヒカリはふわっと笑って――
その表情が、すごくきれいだった。
──夜空の下で、みんなで笑い合える時間。
それって、すごく素敵だよねっ。
そう思ったら、胸の奥がふわっとほどけて――
ワクワクが止まらなかった。




