第8話『放課後の頼れる先輩』
放課後のチャイムが鳴った瞬間、私の足はもう部室へ向かっていた。
体を動かせるってだけで、
なんかもう、しっぽがぶんぶんしそうになるんだもんっ!
テニス部の練習が始まる前に、何人かの部員がすでに準備を始めていて、私も急いで部室のドアを開けてロッカーの前に直行っ!
動きやすくてお気に入りのジャージを取り出して、制服を脱いで、テキパキ着替えっ。
髪をキュッとポニーテールにまとめて、リストバンドを手首に通すと、なんだかシャキーンってスイッチが入った気がする!
鏡の前で、身だしなみチェック……うん、いい感じ♪
「よし、準備完了っ!」
軽く拳をぎゅっと握って、ぴょんっとジャンプしちゃった。足元の感覚、ばっちり!
「今日こそ、先輩のスマッシュ受け止めてみせるぞーっ!」
って気合いを入れたら、近くにいた先輩たちに、
くすっと笑われた。
(あっ……やばっ、ちょっと気合い入りすぎたかも……!)
「犬神さん、今日も気合い入ってますわね」
その声に、はっと振り向くと――
そこには高橋玲奈先輩が!
ふわりと揺れる金色のウェーブ髪が、光を受けてきらめく。
優雅に袖を整えながら、静かに微笑んでいて――気品オーラ全開っ!
生徒会長でテニス部の部長っていう、とんでもない先輩なのに、そんなことを感じさせないくらい、立ってるだけで絵になる人で……うぅ〜っ、見惚れちゃう!
「もちろんですっ! コートを走り回るのが楽しすぎて!」
ポニーテールを結び直す手にも力が入っちゃう。
玲奈先輩はくすっと笑いながら、
「ふふっ、さすが犬神さんですわね。
準備ができましたら、コートでお待ちしておりますわ」
……うぅ〜っ、やっぱり優雅すぎる!
着替えを終えた私は、部室を出てコートへ向かった。
軽く腕を回しながら気合いを入れて、これからの練習が楽しみだ。
練習が始まって、みんなそれぞれストレッチやウォーミングアップを始める中、私もストレッチしながら、体をぐぐっとほぐしていく。
「よし、準備万端っ!」
ラケットを持って素振り開始っ!
そのとき——
「せ、先輩! これってこうやって打てばいいんでしょうか…?」
美咲ちゃんだ! 真剣な顔でラケット握って、じーっとこっちを見てる。
高校1年生の美咲ちゃんは、テニスはまだ始めたばっかり。だけど、一生懸命で失敗してもへこたれない頑張り屋さん♪
ピンクの髪のお団子ヘアがトレードマークで、
ぴょこぴょこ動く感じも含めて、もう元気印そのものって感じ!
「そうそう、美咲は ちょっと力入りすぎだから、もうちょっとリラックスして〜」
って私がアドバイスしながら、フォームをお手本にしてみせると——
「えいっ!」って打ったボールが、ぱしんっと気持ちいい音を立てて、まっすぐ飛んでいく。
「ナイスショット! その調子っ♪」
美咲ちゃんの顔が、ぱぁ〜って明るくなって、
「ありがとうございます、犬神先輩! わたし、もっと上手くなりたいです!」
「うんうんっ! 一緒にどんどん上手になろうねっ!」
そんなやり取りを、フェンスの近くで静かに見ていたのは……ヒカリ!
腕を軽く前で組んで、どこか考え込むように私たちを見つめていた。
「ヒカリ? どうしたの?」
そう声をかけると、
「犬神さんが後輩に教えてる姿、
なんか……すごくしっくりくるなって」
その言葉を聞いた瞬間、なんだかドキッとしちゃう。
私はちょっと照れながら美咲ちゃんの方を見ると、彼女はきらきら目を輝かせてこっちを見ていた。
「えへへ、頼れる先輩になれてるかな〜?」
なんて笑いながら、美咲ちゃんの肩をぽんっと軽く叩く。
「もちろんですっ! 犬神先輩のおかげで、さっきよりうまく打てるようになりましたもんっ!」
美咲ちゃんは嬉しそうに、ぎゅっと拳を握っていて……可愛いっ!
ヒカリもその様子を見ながら、フェンスにそっと寄り添うように立っていて、
「…犬神さん、すごくいい先輩だと思うよ」
なんて言ってくれて、胸がじんわりあったかくなった。
「犬神さん、そろそろ試合形式の練習に入りますわよ」
玲奈先輩の涼やかな声が、コートにすっと響いて――
「次はペアを組んで進めますわ。
あなたの活躍、楽しみにしておりますわ」
「はいっ!」って元気に返事して、ヒカリに手を振りながらコートへ!
「じゃあ、また後でねっ!」
ヒカリは小さくうなずいて、静かに見送ってくれていた。
*
練習が終わって、私は汗をぬぐいながら部室へと戻る。
シャツが肌にぺたってして気持ち悪いから、急いでロッカーを開けて着替えの準備!
タオルでぽんぽんっと顔を拭いて、制服を取り出す。
鏡に映った自分の顔は、ほんのり赤く火照ってて——
うん、今日もいい練習だったって証拠!
「ふぅ〜、今日もよく動いたなぁ〜」
ブラウスに袖を通しながら、ちょっと伸び〜ってして、髪もぱぱっと整えて準備完了!
部室にはもう人も少なくて、静けさが漂ってる。
みんな、帰る準備を終えちゃったみたい。
制服の襟元を整えてカバンを肩にかけて、
よし、出発っ!
部室を出た瞬間、夕方の風がふわ〜っと火照った体に気持ちよくって、思わず「はぁ〜」ってなっちゃった。
「……帰るのか」
声に顔を上げると、隆之がそこにいた。
肩にカバンをかけたまま、軽く片手を上げている。
「隆之? どうしたの?」
「ちょうど帰るところだ。一緒に帰るか」
「わっ、それいいねっ! のんびりおしゃべりしながら帰るのも楽しいしっ♪」
って、ちょっと浮かれた気分で話していたら――
「おっ、犬神。今日も頑張ってたな」
えっ? この声……!
振り向くと、長谷川先輩が立っていた。
「長谷川先輩っ!」
思わず声が弾んじゃう。
バスケ部の中心で、運動神経バツグンで、何より優しくて。
最近は先輩のこと、気づけば目で追っちゃうことが多くて……って、あわわ!
「今日はテニス、いい動きしてたな。見てて分かったよ、ちゃんと伸びてる」
「え、ほんとですか!? まだまだですけど……そう言ってもらえると、めっちゃ嬉しいですっ!」
「犬神は一生懸命だからな。努力がちゃんと伝わる。無理しすぎず、自分のペースでいいんじゃないか」
そんなこと言われたら、もう顔がゆるんじゃう。
「ありがとうございますっ! もっと頑張りますっ!」
――ふと、隣を見ると。
隆之が、少しだけ目を伏せていた。
さっきまで普通だったのに。
なんだろう。空気が、ほんの少しだけ変わった気がする。
唇をきゅっと結んで、視線を外している。
「お前も、犬神と帰るところだったのか?」
先輩がそう声をかけると、
「……はい」
短く、それだけ。
(あれ……?)
さっきまでと、なんか違う。
「そっか。気をつけて帰れよ」
先輩はやわらかく笑って、そのまま背を向けた。
「じゃあな、犬神。あんまり無理すんなよ」
「はいっ!先輩も、お疲れさまでした〜!」
元気に返事をしたけど――
隣の隆之は、やっぱりどこか静かで。
「……隆之?」
「……いや、別に」
それだけ言って、少しだけ歩くペースを上げる。
(えっ、えっ?)
私、なんかした……?
理由も分からないまま、
首を傾げながら、小走りでその背中を追いかけた。




