第9話『夕暮れに重ねた約束』
家に帰ると、玄関まで迎えにきたゲンキが元気よく尻尾を振ってる!
「ただいま、ゲンキっ!」
「ワンっ!」って一声鳴いたゲンキは、私の足元をぐるぐると回って大歓迎モード!
くすぐったくて思わず笑いながら、しゃがみこんでゲンキの頭をなでなで。
「ちょっと待ってね~、お散歩行く前に、ちょこっとだけお部屋で作業してくるから!」
ゲンキは「え~」って顔でちょこんと座り込んだ。お利口さん!
部屋に戻ってノートパソコンを開き、電源をぽちっ。
ホーム画面が立ち上がると、いつもの編集ソフトを開いて動画ファイルを表示させた。
「さてさて、どこまでやってたっけ…?」
クリックしながら前のデータをチェックしてたら、ふと思い出しちゃった。あの春のこと——。
高校に入る少し前、日向町に引っ越してきて、環境に慣れるのが大変だった頃があって。
そんな私に、両親がサプライズでくれたのが、このパソコン!
「千陽、前からパソコンに興味あったでしょ?これでいろいろ挑戦してたらどう?」って、ママがにっこり笑って言ったんだ。
嬉しすぎて、思わずその場でくるくる回っちゃったの。
今思い出しても笑っちゃう。
私はそれから、すぐにパソコンの使い方を調べ始めて、気がつけば健康系の動画を作ってみたいな~って気持ちになってた。
健康のこと、もともと大好きだったから。
食べ物とか、ストレッチとか、睡眠とか――集めた情報をまとめて、誰かの役に立てられたらいいなって。
最初のうちは、文字や画像を並べるだけのシンプルな動画だったんだけど——
「う~ん……字幕、ここで出すのがいいかな? でもちょっと早すぎ?」
そんな感じで、編集ってめっちゃむずかしいって思いながら、何度もやり直しして、やっとできた一本目……!
投稿しても、再生数は伸びないし、コメントもゼロで…。
「うぅ…やっぱり動画作りって、甘くないなぁ…」
だけど、やめたくなかった。
誰か一人にでも伝わったら、それだけで嬉しいから!
「ふぅ…あの頃に比べたら、私も少しは成長したかも♪」
画面に映る新しい編集動画を見つめながら、ちょっとだけ自分を褒めてみたりして!
「よーし、もうちょい手直ししたら、ゲンキとお散歩だっ!」
ゲンキはドアの前でお座りして、しっぽパタパタ。かわいすぎ~!
夕焼けが空をぽわっとオレンジ色に染めるころ、
待ちきれずにソワソワしてたゲンキと一緒に、お散歩に出発っ!
「さぁゲンキ、今日はちょっとだけ遠出しよっか!」
「ワンっ!」
今日の目的地は、ちょっと足を伸ばして天照寺。そこから日向公園までのルート!
静かで風も気持ちよくって、鳥のさえずりがチュンチュン聞こえてくる。
ゲンキもごきげんでトコトコ歩きながら、私の方を振り返って、しっぽフリフリ~!
お寺の境内に入ると、縁側でおしゃべりしてるおなじみの三人組を発見っ!
「おや、千陽ちゃんじゃないか」
にっこり手を振ってくれたのは新居田さん! お手製の野菜いっぱい入った袋を手にして、いつもの優しい笑顔!
「こんばんは、新居田さん!」
「おやおや、今日も元気そうじゃな~」
隣には、大泉住職(和尚さん)と、サッカーと歴史大好きな森本さんっ! 三人とも湯飲み片手にまったりトーク中っぽい。
「何のお話してるんですか~?」
ってウキウキで近づくと、森本さんがぐいっと身を乗り出してきて——
「いやね、犬神神社で幽霊を見たって噂が出てるんだよ」
「えぇっ!? 幽霊!?」
もう、びっくりしすぎて飛び上がりそうになった!
大泉さんが「まぁまぁ、落ち着きなされ」と言いながら、静かにお茶をすすりつつ説明してくれた。
「夜中に神社の前を通った人が、白い影を見たと言っておってな」
「し、白い影って……え、えぇ~!? 本当に幽霊だったりして…?」
思わず前のめりになったら、新居田さんが「光の加減じゃろ~」って、顎に手をあてて考え中。
「でも、犬神神社は昔から不思議な話が多いからな~」って、森本さんがニヤリ!
「や、やだな~……こわい話って、聞いたら気になっちゃうんですよぉ……」
(でも……そういえば――)
ふと、あのときのことがよぎる。
犬神神社の祭殿の屋根の上で、
白くて、ふわっとしたものが見えたような気がして――
(……気のせい、だよね?)
ぞくっ……。
「う、うぅぅ~やっぱり夜の神社って怖いかも……」
「おいおい、千陽ちゃんまで信じるんじゃないよ~?」って新居田さんが笑うけど、私、思わずむくれちゃった!
「ち、違いますよ! でも……やっぱりちょっと気になるんですっ!」
そんなふうに盛り上がっていた、そのとき——
「幽霊じゃなくて、ただの勘違いじゃない?」
えっ?
振り向くと、そこにはヒカリが静かに立っていた。
「ヒカリっ!」
「こんばんは、犬神さん」
「え、ヒカリもここに来るの?」
「うん。私、ここのお寺に住ませてもらってるの」
「えええーっ!? お寺に!?」
思わず声が跳ねる。
「大泉住職にお世話になってるの」
——そのとき。
ヒカリの足元に、ふわっと白い影が揺れた。
「ワン」
「シローっ!」
ゲンキがぴくっと身構える。
でも、シロは落ち着いた様子で、静かに尻尾を揺らしていて——
「大丈夫だよ、ゲンキ。シロと挨拶してみよっか?」
リードをゆるめると、ゲンキはそろりと近づいていく。
「……ワン」
「クゥン」
鼻先をちょんっと寄せて、
ふたりとも、何かを確かめるみたいに静かに向き合って——
気がつけば、並んでちょこんと座っていた。
(わぁ……もう仲良し!?)
「ふふっ、なんだかすぐに仲良くなれそうね」
ヒカリがやさしく微笑む。
その様子を見ていたら、ふと昼休みのことを思い出した。
「ねぇヒカリっ、そうだっ! またあの展望台に行ってみない?」
「展望台?」
ヒカリが首をかしげる。
「うんっ、この前ふたりで会った日向公園の展望台!
あそこ、本当に好きな場所なんだ~。
ゲンキとも何度も行ってて……」
少しだけ照れくさいけど、ちゃんと伝えたくて。
「この前ヒカリと会ったときのこと、なんかずっと心に残っててさ」
「今日の空も、きっときれいだと思うんだ。
だから……また一緒に行けたらいいなって♪」
ヒカリはふわっと目を細めて、それから——
「うん。いいね。また行ってみようか」
やさしく、うなずいてくれた。
やったぁ~っ!
次の展望台デート(?)、決定っ!!




