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『犬神物語』〜転生少女と不思議な絆〜 《改稿版》  作者: 犬神 匠
第三章 交わる記憶、覚醒の契り

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第10話『あの日、世界は静かに歪みはじめた』

空は少しずつオレンジから紫へと色を変えていく。


夕陽に照らされた道を歩きながら、私はヒカリとゲンキと一緒に、日向公園の展望台へ向かうことにした。


昼休みに話していた場所へ、こうして実際に行くことになるなんて――なんだか、不思議な縁を感じちゃうなぁ。


本当は、亜沙美や隆之も一緒だったら、もっとにぎやかだったのかもしれない。

でも――こうしてヒカリと並んで歩く時間も、なんだか少し特別に感じる。


「シロも一緒にどう?」


「ええ、もちろん」


なんだか嬉しくて、私はヒカリと並んで歩き出した。

シロとゲンキも、私たちの横をトコトコついてくる。


日向公園に向かう登り道は静かで、夕方の風が気持ちよくて、気持ちがスーッと軽くなる。


道の脇には、この時期だけのラベンダー畑が広がっていて、やさしい紫色の花が風に揺れるたびに、ふわっといい香りが漂ってくる。


「こうやって二人で散歩するの、なんか新鮮かも〜」


何気なく口にすると、

ヒカリは「そうだね」と小さく笑った。


たわいもない話をしながら歩いてるうちに、日向公園の展望台へ到着!


そこからは、日向町の町並みが一望できた。


夕陽が建物の屋根をやさしく染めて、

斜面いっぱいに広がるみかん畑も、オレンジ色の光を受けてきらきらと輝いている。


遠くの山々は幻想的な影を落として、

空は橙色から紫色へと移り変わっていく。


静かに、夜がやってくる気配。


「綺麗……」


ヒカリがぽつりと呟いた。


私も頷きながら、心地よい風を感じて目を細めた。


風がそっと頬をなでて、

鳥のさえずりが遠くから聞こえてくる。


全部がやさしくて、静かで――好き。


「……やっぱり、ここからの眺めは最高だねっ」


思わず呟くと、ヒカリは小さく頷いた。


「うん。夕方の静けさって、落ち着くよね」


私はヒカリの横顔をちらっと見る。


なんだか不思議な子だよね、ヒカリって。

最初に会ったときから、どこか懐かしい感じがしてた。


名前で呼んでいいよって言ってくれたから、

気づけば、自然に「ヒカリ」って呼んでた。


だから、ふと思い立って言ってみた。


「ねえ、ヒカリ」


「……?」


「ヒカリも、私のこと好きに呼んでいいよ?

“チハル”でも、“ちはるちゃん”でも……うーん、“ちはるん”とか? 冗談だけどっ♪」


って、おどけて言ってみたけど――

内心、ちょっとだけ……呼ばれるの、楽しみにしてたりして。


……ヒカリの反応は、ちょっと予想外だった。


「……いや、私は犬神さんのままでいい」


「えぇー? なんかよそよそしくない?」


私はちょっとむくれて、ぷぅっと頬を膨らませた。


でも、ヒカリは静かに夕陽を見たまま、そっと微笑んだ。


「……別に。その方が、しっくりくるだけ」


オレンジ色の光が、ヒカリの横顔をやさしく照らしてる。

その笑顔は、どこか寂しげにも見えて――思わず息が詰まりそうになった。


「むぅー…」

少し不満だけど、それ以上は言わない。


しっくりくるって、どういうことなんだろう。

もしかして、私のことをあんまり仲良く思ってないのかな……?


でも、ヒカリの横顔からは冷たさなんて感じなくて――

ただ、何かを隠してるみたいで。


私はちょっと考えて、ふっとため息。


「……まぁ、別に犬神さんでもいっかぁ」


肩をすくめて言うと、ヒカリの表情がわずかに揺れた。


「じゃあ、その代わり――」


にっこり笑って、そっと手を差し出す。


「よろしくの握手、しよ?」


ヒカリは一瞬だけ私を見つめて、

それから小さく頷き、ゆっくりと手を伸ばしてくれた。


「……じゃあ。」


握手した瞬間――


ビリッと、頭の奥に衝撃が走った。


(――っ!? な、なにこれ……!?)


視界が揺らぐ。


次の瞬間――そこに“立っていた”。


石段が続いている。

その先に、鳥居と――大きな社。


夜の空気。

静まり返った境内。


(……神社?)


見覚えがある気がする。

でも、ここは私の知っている場所じゃない。


その奥に――

白い何かが、静かに立っていた気がした。


(……え?)


次の瞬間、すべてが霧みたいに消えた。


一瞬だけど、不思議な感覚が身体中を走って、

思わず手を離しそうになる。


「いま、何か……」


ヒカリも何かを感じたのか、一瞬だけ目を細める。

でも、何も言わずにそのまま手を離した。


疲れてるのかな、なんて思って、

きっと気のせいだよねと、自分に言い聞かせる。


握手の余韻が残る中、風がふわっと吹き抜けて、夕陽がゆっくり沈んでいく――


私はヒカリの横顔をちらっと見ながら、黙って景色を見つめてた。

空はだんだん深い群青色に変わっていって、町の明かりがぽつぽつと灯っていく。


ふと視線を落とすと、シロがじぃーっとこっちを見てる。

薄暗い中で、シロの白い毛がふわっと光を反射して、まるで月の下にいるみたいだった。


「……シロ?」


そう呼びかけた瞬間、シロの瞳がキラッと鋭く光った……ような気がした。  


まるで、こっちのことを見透かしてるみたいで――


「……ねぇ、シロって賢いよね?」


その静かな雰囲気に、ついポツリと呟く。


シロはちらっと私を見たけど、何も言わずにじっとしてる。


「よし、せっかくだし、試してみよっか!」


私はシロの前にしゃがみこんで、

笑顔で手を差し出した。


「シロ、お手!」


……でも、シロはピクリとも動かない。


「おすわり!」

「おかわり!」

「伏せ!」

「ゴロンっ!」


次々に出すコマンドに、シロは軽くまばたきしただけで、完全に無視モード!


「えぇ〜!? なんで!? ゲンキはちゃんとやってくれるのに〜!」


私は思わず頭を抱える。


ゲンキは「ワン!」と元気に吠えて、横でしっかり「おすわり」キメてくれてる。さすが!


「えらいぞ〜、ゲンキ!」

ゲンキの頭をなでなでしてから、もう一度シロと向き合う。


「ほら、シロもやってみようよっ!」


でも、シロはじーっとこっちを見てるだけで、まるで置物みたいに動かない。


そんな様子を見たヒカリが、くすっと笑いながら肩をすくめた。


「……シロに芸を覚えさせるのは、たぶん難しいと思う」


「うぅ〜、どうして〜?」

私はぷぅっと頬をふくらませて、シロをじぃーっと見つめる。


「こうやって手を出したら、普通は乗せてくれるじゃん〜…?」


もう一度「お手!」って言ってみたけど、シロはふいっと目をそらして、なんと遠くの景色を見始めた!


「……完全にスルーされてる!?」


「うん。たぶんシロは、人に指示されるのが好きじゃないのかも」


ヒカリがシロの頭をやさしく撫でながら言った。


「そ、そんな〜…。ワンちゃんって、お手とか伏せとかするものでしょ〜!?」


私は必死に説得してみるけど、シロはじっとこちらを見たまま、ふぁ〜っとあくび。


……完全に興味なさそう。


「まぁ、そういう性格なんじゃない?」


ヒカリはあっさり言って、また景色に視線を戻した。


「うぅ〜、なんか悔しいなぁ……。」


私はしばらく考えたあと、ぐっと拳を握って宣言!


「……よーし、いつか絶対、お手してもらうからねっ!」


ふぁ……とあくびをしたあと、シロはふぅ、と小さく息を吐いた。


(……ため息?)


次の瞬間――


『……果たして、その日は来るのか』


……え?


「えっ!? 今なんか言った!?」


びっくりしてシロを凝視するけど、彼は静かに目をそらしただけ。


「……気のせいじゃない?」


ヒカリがしれっとした顔で言った。


「いやいやいやいや! 絶対今、なんかしゃべったよね!? しかも、ちょっと呆れてた感じで!」


「気のせい、気のせい」

ヒカリはクスッと笑って、またシロの頭を撫でた。


私はモヤモヤしながらも、もう一度シロをじーっと見つめる。


「うぅ〜、なんか納得いかない〜!」


ゲンキはそんな私を見て、嬉しそうに尻尾をパタパタしてる。


――その時だった。


『フッ……本当に、にぎやかだな』


「……!!???」


空気がピキーンと凍る。


今の、ぜっっっっったいに聞こえた!!! しかも、はっきりと!!!


「ちょっ、ヒカリ!? 今の聞こえたよね!? ねぇ、聞こえたでしょ!?」

私はヒカリの腕をガシッと掴んで叫んだ!


「え? 何のこと?」

ヒカリはニヤリと笑いながら、しれっとしてる。


「うそでしょ!? 絶対聞こえたって!! ……だって、だって……」


「シロが……しゃべったぁぁぁぁぁぁ!!!」


「……犬神さん、落ち着いて」


「落ち着けるわけないよぉー!! 犬がしゃべったんだよ!? なにこれ、夢!? 夢なの!?」


私は自分のほっぺを全力でつねる。


「いたっ! ……夢じゃないっ!!」


『ふむ……ようやく気づいたか』


シロが、ため息まじりに言った。


「いやいやいやいやいや! 待って!? 本当に喋ってるんだけど!??」


もう私の頭はフルパニックモード!


でもシロは落ち着き払って、ゆっくりと口を開いた。


『これから、貴様には知るべきことが山ほどある』


「し、知るべきこと……?」


『そうだ。そして――

貴様がそれを知るに足る存在かどうか……』


シロの瞳が、夜の闇の中で青白く光ってる。

まっすぐに私の心を見透かすみたいに、じぃーっと見てきた。


『今こそ、試される時なのかもしれんな』


「えっ……?」


私は言葉を失った。

ざわり、と背筋をなぞるような感覚が走る。


何かが変わろうとしてる。

私の運命が、大きく動き始める――そんな予感がした。



第四章へ続く…

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