第4話 『日常に紛れた違和感』
前回までのあらすじ(第一章)
~語り手:犬神愛衣より~
はじめましての方も、そうじゃない方も……こんにちはっ……!
わたし、犬神愛衣と申しますっ!
語り部として、そして……誰かの物語にずっと寄り添ってきた、ちょっぴり涙もろい存在ですっ。
これから始まるお話は――
ひとつの出会いをきっかけに、少しずつ動き出していく物語です。
ではさっそく……!
前回までのあらすじを、しっぽふりふりでお届けしますねっ♪
――転生した少女・犬神千陽ちゃんは、高校二年生。でも実は……彼女の前世は“犬”だったんですっ!
大切なご主人様を守りたくて、必死で走り続けた、心優しいわんこでした……(うぅっ…思い出すだけで…涙が…っ)
そんなチハルちゃんが、ある春の日――
不思議と惹かれるように訪れた日向公園の展望台で、
運命の少女と出会います。
その名前は――ヒカリ。
そして、彼女のそばには、まっしろな犬・シロの姿が。
初めてのはずの出会いなのに、懐かしくて、涙が出そうになったあの瞬間……
その不思議なあたたかさが、胸の奥でふわっと広がったのです。
――チハルちゃんの物語が、ここから静かに動き出していきます。
* * *
……あの夢、また見ちゃった。
目を閉じた瞬間、ふわっと広がるの。あの、懐かしい場所。展望台。
顔はぼんやりしてて見えないんだけど――でも、私、たしかにその人と一緒にいた。
あったかくて、やさしくて……
私のこと、守ってくれてたんだってことだけは、ちゃんと覚えてる。
でもね、不思議なくらい、その人の顔だけが思い出せないんだよね。
声も、言葉も……
ぜんぶ風みたいに、すうっと遠くへ消えちゃった。
だけど、ひとつだけ、ぜったいに忘れてないことがあるの。
――私、その人にとって、とても大切な存在だったってこと。
でも、やっぱり足りない。
思い出したいのに、思い出せない。
それでもね、ずっと探してた気がするの。
会いたいって、ずっとずっと……。
今の私は、何を探してるのかも分からないけど――
胸の奥がざわざわして、「探さなきゃ」って声が聞こえる。
どうして、私はこんなに焦ってるんだろう?
まだ何もわかんない。けど……
その人が大切だったってことだけは、まっすぐ心に残ってる。
「どうして、私は探し続けているんだろう……?」
私はまた、目を閉じてしまう。
あの記憶の中へ、ふわっと吸い込まれるみたいに……。
*
朝日がカーテンの隙間から差し込んで、部屋の中をふんわり照らしてる。ほんのりあったかい光が布団の上に広がって、まぶたをそーっと撫でてくるみたい。窓の外ではスズメたちがチュンチュン鳴いてて、ときどき木の葉がカサカサ揺れる音も混ざってる。
どこか遠くで聞こえる話し声とか、車のエンジン音とか……街がゆっくり起きはじめてる。
でもこのお部屋の中は、まだふわ〜っとした時間が流れてて、なんか幸せなまどろみタイムって感じ。
気づけば、私はお布団からちょっとはみ出して、くるんと丸くなって寝てた。犬みたいに、体をぎゅって小さくして。ふわふわのお布団にくるまれながら、半分夢の中で「ふにゃ…」って息を吐く。
そのとき、カチャッと部屋の扉が開く音がした。
「お姉ちゃん、起きてる?」
ん〜……さとしの声だ。
ぼんやりした視界の中で、だんだん顔が見えてきた。
さとしは私の弟。小学6年生で、ちょっとのんびり屋さん。でもすごくやさしくて、私のこといつも気にかけてくれる。ピアノが得意で、時々私の前で弾いてくれるんだけど、それがすっごく上手でね……なんだか私、ちょっぴり誇らしくなっちゃうんだ。
普段はおとなしいけど、急に面白いこと言って笑わせてくれるの。そんなさとしが、今日も私の部屋にやってきて――丸まって寝てる私を見て、クスクス笑ってた。
「お姉ちゃん、犬みたいだね」
「……またそれ?」
ぷくっとほっぺをふくらませて、そっぽを向いた。
「うるさい、さとしっ」
ふてくされた声で言いながら、バタバタと起き上がる。
するとさとしが、ちょっと心配そうな顔で言った。
「だって、お姉ちゃん全然起きてこなかったから心配してたんだよ」
「ほんともう……ありがとう、さとし。」
ちょっと照れくさくて、声が強めになっちゃったけど……ほんとはすっごく嬉しかった。
さとしは楽しそうに笑って、「じゃあ、急がないと遅刻しちゃうよ!」って手を振って出ていった。
私は「ふぅ〜」ってため息をついて、肩の力を抜く。
気持ちを切り替えて支度スタート!
まずはトイレ!(朝はこれが基本っ!)
スッキリして、ようやくスイッチが入る感じ……!
そして歯磨きっ!洗面所でキュッキュと磨きながら、今日のことをぼーっと考える時間、けっこう好きだったりする。こういう時こそ、落ち着いて動く!焦らずキビキビ、これがチハル流っ!(よし、気合い入れてこっ♪)
でもって問題は、寝癖っ!
「うわっ、今日の寝癖、すごっ!? なにこれ、もはや芸術じゃん……!」
ドライヤーでぶおぉぉって風を当てながら、鏡の前でちょこちょこ直す。
この髪を落ち着かせるの、毎朝ちょっとしたバトルなのだ。
髪も手ぐしでちゃんと整えて、前髪チェックもぬかりなし!ヘアピンもちゃんとついてる! よし、これで見た目は100点……たぶん!
鏡の前でぴしっとポーズを決めて、もう一度自分にOKを出す。(よし……身だしなみ、完璧!)
それから――私は少し気持ちを整えて、和室へ向かった。
おじいちゃんの仏壇は、台所の隣の和室に置かれてる。毎朝、ここで手を合わせるのが、私の小さな日課。
「おじいちゃん、おはよう。……今日も、行ってきますっ!」
手を合わせると、なんだか心がすっと整う。
おじいちゃんの写真が優しく笑っていて――
それを見ると、心がぽかぽかしてくる。
よし、がんばろっ!って気持ちになるんだ。
それから、リビングに行くと、朝ごはんがもう並んでいて、家族みんなで食卓を囲んでると、なんだかほっと落ち着いてくる。
でも今日は、ちょ〜っとだけ焦ってる自分もいた。
「いただきますっ!」の声が響いて、朝食スタート。
ママが作ってくれたあったかいお料理が並んでて、パパはいつものように「今日は元気に行ってこいよ〜」って言ってくれる。
私はさとしに「遅刻しないようにね〜」って言ったら、「お姉ちゃんこそ遅刻しないでね!」ってピシャリ。
くぅ〜!さっきの流れ的に、負けた感ある!
*
朝ごはんを食べ終わって、いざ出発っ!
玄関を飛び出すと、さっそく今日も元気全開モードで、親友の亜沙美と合流〜っ♪
いつもの通学路を、足取り軽く並んで歩くこの感じ――なんだかんだ好きなんだ〜!
亜沙美は――今では明るくて元気で、誰とでも仲良くなれるムードメーカー!
いつも私の背中を、ぐいぐい引っ張ってくれる存在。
「今日はどんな授業だっけ〜?」
亜沙美が楽しそうに話しかけてきて、
私は「うーん、たしか……国語と数学だった気がする〜?」って歩きながら考える。
この何気ないやりとりが、すっごくあったかくて、心がふわっとゆるむ。
すると突然――
「ねぇねぇ、チハル。犬神神社ってさ、チハルの苗字と一緒だよね?」
「あ、うん……そうなんだよね」
たしかに……犬神神社って、私の苗字とまんま一緒。
前から気づいてはいたけど――改めて言われると、なんかこう……気になってくるよね。
亜沙美はちょっと不思議そうな顔で、でも興味津々って感じで聞いてきた。
「へぇ〜、やっぱりお父さんが管理してるから?」
その言葉に、なぜか少しだけ胸がざわついた。
たしかに、パパはおじいちゃんのあとを継いで、犬神神社を守ってる。
でも――それだけじゃない気がするの。
「うーん、もちろんそれもあるけど……なんかね、あの場所に行くと、自然と心がすーって落ち着くんだ。
理由とかじゃなくて、感覚的にそういうの、あるのかも」
そう答えながら、私は心の中で小さく問いかけてた。
私と神社の関係。お父さんとのつながり――
その奥に、まだ知らない“なにか”がある気がしてならなかった。
*
学校に着くと、ちょうどホームルームが始まるところで、教室はいつものわいわいモード。
私は席について、筆記用具をごそごそ取り出す。
「ねぇ、昨日の数学の宿題、難しくなかった?」
前の席の亜沙美が、小声で話しかけてきた。
「うん、最後のとこが特に……」
私は苦笑い。なんとか解いたけど、正解してる自信はないかも〜。
そのまま授業が始まって、最初は国語。
杉本先生の声が淡々と教室に響いてるけど……あぁ、眠い。頭ぼーっとしてきた〜。
そのとき!
「……犬神さん、ここ読んでみて」
ひゃっ!?い、いまなんて!?
名前呼ばれた!?どこ!?……どこ読めばいいのっ!?
「あ、はいっ……!」
慌てて教科書をめくるけど、全然ページがわからない〜〜!!
すると、前の席の亜沙美が、教科書の端を指先でちょこんと押して、さりげなく場所を教えてくれた。
……うわ、ナチュラルすぎて先生にもバレてない!すごっ!
私はこっそり「ありがと……」って呟いて、指定された場所を読み始めた。
声、ちょっと上ずっちゃったけど……なんとかセーフ!!
亜沙美が小声で「ナイス!」って言ってくれて、
私は「ありがとう」って口パクで返した。
お昼休み。今日は亜沙美とお弁当を食べながら、なんでもないおしゃべり。誰かが面白いことを言って教室が笑いに包まれてる中で、私はふと――今日の部活のこと、考えてた。
午後の授業は数学。ちょっと苦手な単元だけど、ノートにびっしり書きながらなんとかついていく。途中でペンを落としちゃって、慌てて拾ったり、なんかドジばっかりだけど……一生懸命やった!
チャイムが鳴って、授業終了〜!「ふぅ〜っ」って思わず肩の力を抜いた。
でも、これで一日が終わりじゃない。
まだ……部活が残ってる!
「ふぅー、今日も疲れたね〜」
亜沙美が隣でのび〜ってしてて、私も「だよね〜、特に数学!」って笑い返す。
そこに、ひょこっと越智隆之が顔をのぞかせた。
銀縁のメガネの奥から、ちょっとだけ気まずそうな目線がこっちを見てる。
いつも静かで落ち着いた雰囲気の彼は、
理系科目にめっぽう強い“理屈派男子”。
難しい言葉をさらっと使うくせに、ちょっぴり照れ屋で――でも話してみると、考え方がすごくしっかりしてて、なんていうか、“頼れる理系男子”って感じなんだよね。
高校に入学したときに、たまたま教室が近くて、
お互いなんとな〜く顔を覚えてて……
ちょっとずつ話すようになっていった、
静かなタイプの“初期メン友達”みたいな存在。
「チハル、最近寝不足だろ」
少し遠慮がちな声で、でも真剣そうなまなざしで言われて、
私は「うっ……やっぱりバレてた?」って苦笑いしながら答えた。
「うん、ちょっと夜ふかし気味でさ〜。パソコンいじってたら、つい夢中になっちゃって……」
隆之は軽くうなずいて、「睡眠は大事だ。集中力落ちるぞ」と短く言った。
――簡潔なのに、妙に説得力があるんだよね。
「たしかに〜、最近ちょっとボーッとしてたかも……」
「今日は早く寝ろよ」
「わかった!ありがと、隆之!」
元気にそう言ったはずなのに――胸の奥がきゅってなる。
なんでか分かんないけど、顔がじわっと熱くなってきて……。
(えっ、なにこれ……? べつに、変な意味じゃないのにっ)
気のせい、気のせいって言い聞かせながら、
カバンをぎゅっと抱えたまま――
気づけば、また隆之のほうを見てしまっていた。
はっとして、慌てて目をそらす。
(……ああ、もう〜っ、なんで目まで合わせられなくなってるの、わたし〜〜!?)




