第3話『展望台での不思議な出会い』
そのまま歩き続けるうちに、ちょっとだけ遠回りして、
お気に入りの場所へと続く道に入っていた。
えへへ、こういう寄り道って、なんか得した気分になっちゃうんだよね〜♪
ゆるやかな坂道をのぼっていくと、天照寺の裏手へ続く道が見えてくる。
木々に囲まれてて、人通りも少なくて――なんだかちょっとした秘密のルートみたいなんだ。
周りには大きな木々が生い茂ってて、木漏れ日がポンポンって足元に落ちてきて……わぁ〜、まるで自然からのプレゼントみたいっ!
風が葉っぱをサラサラ、シュッシュって優しく揺らしてて、その音が心にふわっと染みこんでくる感じ。
こういうときって、なんにも考えなくてもスーッと元気になれる。
足取りが軽くなるのって、きっと自然の力だなぁ〜って、ふと感じた。
そして着いた場所が、私のお気に入りの――日向公園だっ♪
奥の階段をのぼっていくと、あの展望台に出るんだよね。
「ゲンキ、このまま少し展望台に行こっか?」
声をかけると、ゲンキはしっぽをフリフリして、
「ワン!」と嬉しそうに答えてくれた。
うんうん、そのお返事、100点満点っ♪
ほんとに、私の相棒は最強わんこっ!
展望台に着いたとたん、ふわっと冷たい風が吹いてきて――
「わっ、ちょっと寒っ!」って思ったけど、逆にそれが気持ちよくて、スーッと深呼吸したくなった。
ひろ~い空。キラキラしてる街並み。
見下ろすように広がる景色に、なんだか心がしーんと落ち着いていく。
こうしてたまに立ち止まって、ボーッと目の前の景色を見てる時間って、意外と大事なんだよね。
うん、なんか、整うって感じ!
「この場所、やっぱり好きだな…。」
気づいたら、ぽろっと声に出てた。
自分でもびっくりするくらい自然に、すぅ〜っと。
何度も来てる場所なのに――今日はなんだか、いつもより懐かしく感じる。
う〜ん、不思議。どうしてだろ……?
まるで、もっとずっと昔からここにいたような……
……あれ?
今、何か思い出しかけた気がした。
――そういえば。
この場所で――去年の出来事が、ふっとよぎる。
亜沙美と、あのときの光景が、頭の中に浮かんでくる。
……なのに。
それとは別に――
もっと遠くの記憶みたいなものが、胸の奥で揺れた気がした。
うまく言えないけど、
それは“思い出した”っていう感じじゃなくて……
ただ、そこに“あった気がする”だけで。
気づいたときには、もう消えていた。
胸の奥に残ったその感覚だけが、
ふわりと、静かに広がっていく。
もしかして、前にもこんなふうに風を感じたこと……あったのかな?
ううん、気のせいだよね? たぶん風のせいとか、空の色のせいとか……そういうやつ!
そのくすぐったい感覚を振り払うように、ふっと口元がゆるんだ。
「ゲンキ、なんか不思議だよね。ここ、なんとな〜く懐かしい感じがするんだ〜。」
……でも、ゲンキはというと――鼻をクンクン鳴らして、めっちゃ真剣に地面を調査中!
えっ、聞いてた!? って思うけど、そんなマイペースさも含めて、ほんっとに愛おしいっ!
もう、どんな匂いを嗅いでるのか分かんないけど、
その“探検モード”な後ろ姿を見てたら、こっちまでワクワクしてきちゃうんだよね。
「ほんっとに好奇心旺盛だよね〜。でもさ、それがゲンキらしくて、なんか私も元気もらえちゃうよ〜!」
って言ったら、タイミングぴったりにゲンキがしっぽをブンブン振ってくれて、
「うん!その通りだワン!」って言ってるみたいで、思わず、ふふって笑っちゃった。
私はゲンキの後をちょこちょこ追いかけながら、
気づけば――さっきからず〜っと、くすぐったく残ってたあの感覚に、そっと気づいたんだ。
ちょっぴり不思議で、ちょっぴり懐かしい……名前のない気持ち。
うまく言葉にはできないけど、でも、ちゃんとそこにあるってわかる。
なんだろう、この感じ。まるで心のどこかが、遠いどこかとつながってるみたいな……。
そのとき――コツ、コツ、と足音が近づいてきた気がして、ぴくりと振り向いた。
「えっ、誰か来た……?」って思った瞬間、
目に入ったのは一人の少女と――
まっしろでふわふわな毛並みの犬が、その子の隣にぴったり寄り添っていた。
風に揺れる長い銀色の髪が、きらりと光る。
……わぁ、すっごく綺麗。
その少女は、じーっと私を見つめたまま立ち止まっていて――その前に立つ白いわんこが、静かにこちらを見返してくる。
まるで「この子は私が守るよ」って言ってるみたいで、思わず目が離せなかった。
うわぁ……なんか、雰囲気が不思議すぎる。
でも――よし、いっちゃえ!
「こんにちはっ!」
思いきって元気に声をかけてみたら、その子はちょっとだけ目を丸くして、ほんのすこ〜しだけ首をかしげた。
その仕草がなんだか猫っぽくて……ちょっと可愛い。
そして――
「こんにちは……」
やさしくて、すっごく柔らかい声が返ってきた。
耳にふわっと入ってきて、なぜか少しだけ、気持ちがほどけるみたいだった。……なんだろう、この感じ。
「私はヒカリ。シロは私の大切な友達なの。よろしくね」
ヒカリさんが白いわんこを指さして、やわらかく紹介してくれた。
シロは私たちをじーっと見つめながら、静かに近づいてきた。
その目が、まっすぐで、なんかすごく穏やかで――ちょっとドキッとした。
思わずその場にしゃがみこんで、そっと手を差し出す。
シロは一瞬だけ立ち止まって――
でも、すぐにその手に鼻先を寄せてきた。
「シロ……?」
その名前を聞いた瞬間、胸がキュゥッて締めつけられる。
なんでだろう。初めて聞いたはずなのに、すごく大切な名前みたいに感じて――
運命?とか、そういうやつ……? いや、考えすぎかも??
でも、そのざわっとした感じだけは、確かに残ってた。
「そういえば、自己紹介がまだだったね!」
思わずぴょこんと立ち上がって、
「わたしは犬神千陽! チハルって呼んでくれたら嬉しいなっ!」
ちょっとだけ照れながら、でもにっこり笑って続けた。
「あとね……なぜか一部の友だちからは“チップ”って呼ばれてたりもして……そのへんは、まぁ、ナイショってことでっ♪」
――そのとき。
「……チップ、って……」
ヒカリさんの声が、ぽつりと落ちた。
(……ん? 今、なんて……?)
ほんの少しだけ引っかかりを覚えながらも、
私はゲンキの頭をなでながら、
「この子はゲンキ! 名前の通り、めちゃくちゃ元気っ子で、私の相棒なんだ〜!」
「ゲンキ、こっちに来て!」
ぴょこんと立ち上がったゲンキがトコトコと私の足元に寄ってきた。
その様子を、ヒカリさんは静かに見つめていた。
目を細めて、風に髪をなびかせながら――どこか、少しだけ切なそうな顔で。
その仕草が、なぜだか心のどこかにそっと残ったけど。
――今は、まだ深く考えないでおこう。
「シロも、ゲンキと仲良くできるかな?」
呼びかけると、ゲンキはしっぽをピンッと立ててから、シロの方へ歩いていった。
慎重だけど、ちゃんと従ってくれるあたりが、ほんとに頼もしいんだよね。
ヒカリさんがほんの少しだけ微笑んで、
「ゲンキっていう名前なのね。素敵な名前だね」
と、やわらかく言ってくれた。
「えへへ……いつも元気をくれる相棒なんだ〜!」
私はちょっぴり照れながら、えへへって笑った。
そのやり取りを見ていたヒカリさんが、シロの頭をなでながら、ほんの少しだけ口元をゆるめた。
その手つきがやさしくて――見てるだけで、気持ちがぽかぽかしてくる。
あったかくて、やわらかくて、ほんのちょっとだけ、泣きそうになるくらい。
「よろしくね。ヒカリさんっ、シロっ!」
私が笑顔でそう言うと、ヒカリさんはほんの少しだけ微笑んで、
「……うん。じゃあ、また」
そう静かに言って、シロと一緒に背を向けて歩き出した。
ゲンキも、シロに向かって「ワン!」って元気よくご挨拶。
私はヒカリさんとシロの背中を、しばらくその場に立ち尽くしたまま見送っていた。
……なんだろう、この気持ち。
なんだかあったかいのに、ちょっとだけ落ち着かなくて。
初めて会ったはずなのに、まるで――
いやいやいやっ! 考えすぎだってば!
「……変なの。」
私はほっぺをぷくっと膨らませて、ふるふるっと頭を振る。
隣でゲンキは、相変わらずしっぽフリフリしながら芝生の匂いを嗅いでて――
ほんと、いつも通りでブレないなぁ。ちょっと羨ましい。
「ゲンキ、さっきの人たち、なんか不思議じゃなかった?」
って話しかけたら、ゲンキが一瞬こっちを見て、
「ワン!」
って軽く一声。わ、なんか同意された気がする〜!
「だよね!? やっぱモヤモヤするよね!? わたしだけじゃないよねっ!?」
ゲンキにうなずいてもらえた(ような気がして)、なんだかちょっと安心した。
そのとき、風が吹いてきて、手すりに添えた指先がひんやりした空気に包まれた。
……あの子、シロ……だよね?
男の子だったのかなぁ。
私のこと、なんだか気にしてるみたいな目をしてた……気がする。
ヒカリさんも含めて、その雰囲気がなんだか不思議で――なんだか、妙に気になる。
(……はぁ、どうしてこんなに気になるんだろ……?)
「う〜〜〜ん、もうっ! 何なの〜っ!!」
思わずその場でクルッと一回転してみたけど、
モヤモヤは晴れなくて、スカートがふわっと広がっただけだった。
「まっ、いっか!」
私は小さく笑って、ゲンキと並んで階段を降りる。
でも――
どこかに、まだ“なにか”が引っかかっている気がしていた。
それが何かは分からないけど――
きっと、これから少しずつ見えてくる気がする。
「ゲンキ、今日はちょっと特別な一日だったかもね」
「ワン!」
「ふふっ、わたしもそう思うよ♪」
空を見上げると、春の空はほんのり霞んでて、
どこか夢みたいに、やさしくてやわらかかった。
第二章へ続く…




