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『犬神物語』〜転生少女と不思議な絆〜 《改稿版》  作者: 犬神 匠
第五章 命の輝き

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第21話『星に願う夜』

それから日が経つにつれて、

みっちゃんの体は少しずつ思うように動かなくなっていった。


ある夜、病室の中。


みっちゃんは、

ぼんやりと窓の外を見てた。


「ちーちゃん……」


「どうしたの?」


「……私、サッカーやりたいよ……」


かすれた声が、小さく震えていた。


「まだ、やめたくない。

もっともっと、ボールを蹴りたいのに……なんで?」


きゅっと唇を噛みしめたまま、

みっちゃんの目に涙がにじむ。


それから、みっちゃんはゆっくりと私のほうを見た。


「どうして、わたしなの……?」


私は何も言えなかった。

ただ、そっと手を握り返すことしかできない。


みっちゃんは、また窓の外へ視線を戻す。


「星、きれい……」


ぽつんと、

みっちゃんがつぶやいた。


「夜になるとね、よく星を眺めるの。

あんなに遠いのに、ずっと輝いてる。

……わたしも、ずっとサッカーを続けられますようにって、お星さまにお願いしてるんだ」


私は、

そっとみっちゃんの横顔を見つめた。


「きっと――願いは叶うよ」


「……うん」


みっちゃんは、やさしく微笑んだ。


でも、その笑顔は……

どこか消えてしまいそうで。


しばらく星空を眺めていたみっちゃんが、

ふと、私のほうを向いて言った。


「ねぇ、ちーちゃん……」


「うん?」


「いつかさ……星の綺麗な場所に、一緒に見に行こうね」


びっくりして、私は思わず息をのむ。


みっちゃんは、遠くの星空を眺めながら、

静かに微笑んでいた。


「……うん! 絶対だよ!」


私も負けないくらいの笑顔で、力いっぱい頷く。


「約束ね」


みっちゃんが、小指をそっと差し出した。


「うん、約束!」


絡めた小指が離れたあと、

私はポケットの中から小さな袋を取り出した。


「これ、あげる」


「……なに?」


「犬神神社のお守り。わたし、お願いしてもらったの。みっちゃんが元気でいられますようにって」


みっちゃんは驚いた顔でお守りを受け取り、じーっと見つめる。


「ちーちゃん……」


「すごくご利益があるんだって! だから、これを持ってたら、きっと大丈夫!」


私は、めいっぱい笑ってみせた。


みっちゃんは、そっとお守りを握りしめる。

それから、涙をこらえるみたいに微笑んだ。


「ありがとう……ちーちゃん。大切にするね」


「うんっ!」


二人で笑い合った、あの夜——。

……今はただ、みっちゃんが少しでも安心してくれたら、それだけでよかった。


病室を出た私は、廊下の片隅で立ち止まった。


胸の奥が、締めつけられるみたいに痛む。


(お願いします……神様……)


病院の廊下の窓から見える夜空を、

私はじっと見上げていた。


星は、

何も知らないみたいに静かに瞬いていた。


祈るように何度も願う。


(みっちゃんは……

いつだって、誰より頑張ってたんだよ……!


だから……お願い、神様……!


サッカーを奪わないで……


もう一度……

あの子に、ボールを蹴らせてあげて……!)


祈るみたいに、

私は震える手を握りしめた。


でも——


どれだけ願っても、

現実は、そんな簡単には変わってくれなかった。


「……なんで……?」


ぽつりと零れた声が、静かな夜に溶けていく。


(なんで……

みっちゃんが……。


あんなに頑張ってたのに。

あんなに優しいのに。


どうして……

あの子が、こんな目に遭わなきゃいけないの?)


頬を伝う涙が止まらない。


それでも、泣き崩れないように、

私はぎゅっと唇を噛んだ。


(病気なんて……

なくなればいいのに……!


誰かが苦しむのなんて……

もう、見たくないよ……!)


何もできない自分が、悔しくてたまらなかった。


祈ることしかできない。


隣にいてあげることしかできない。


(……わたし……

こんなときくらい、

なにかしてあげたいのに……)


震える指先だけが、

どうしようもない気持ちを物語っていた。


……どれだけ願っても、現実はすぐには変わらない。

それでも、私は――あきらめたくなかった。


みっちゃんの笑顔を。


サッカーをしていた、あの楽しそうな姿を。


もう一度、

この目で見たい——。


そんな願いを抱えたまま、

今日も私は、みっちゃんの病室へ向かっていた。


最近のみっちゃんは、体調のいい日が少なくなっていた。


それでも、私が病室へ行くと、

みっちゃんはいつも笑ってくれる。


「ちーちゃん、おはよ」


「おはよう、みっちゃん。体調どう?」


「んー……ちょっとだるいけど、大丈夫」


そう言う声は、どこか弱々しくて。

私は、うまく笑い返せなかった。


「ねえ、ちーちゃん……今日も星、見えるかな」


「うん、今日は空が晴れてるし、きっと綺麗に見えるよ。

……今度、一緒に見に行くって約束したもんね」


「うん……」


みっちゃんが小さく微笑んだ。


……次の瞬間。


突然、

みっちゃんの呼吸が乱れた。


「みっちゃん……?」


私は慌てて、みっちゃんの顔をのぞきこんだ。

みっちゃんの表情が苦しそうに歪む。


震える指先。

浅く乱れた呼吸。


「ちー……ちゃん……」


かすれた声が、

途切れそうに漏れる。


ふいに、みっちゃんの体から力が抜けた。


ぐったりと、ベッドへ沈みこんでいく。


「えっ……? みっちゃん!? みっちゃん!!」


何が起きてるのか、わからなかった。

それでも私は、必死にみっちゃんの肩を揺する。


みっちゃんの瞳は、少しずつ焦点を失っていって。

ゆっくり閉じかけていく。


「ダメだよっ! 目、開けて!!」


震える手で、ナースコールを押した。

廊下の向こうから、看護師さんたちが駆けてくる。


「先生を呼んで!」

「酸素、急いで!」


慌ただしい声が、病室に飛び交った。


「みっちゃんっ! お願い、返事してよ!!」


私は、必死にその手を握り続けた。

みっちゃんの手から、少しずつ力が抜けていく。


——その瞬間。


頭の中に、

みっちゃんとの思い出が、走馬灯みたいに溢れ出した。


——「ちーちゃん、ユキだよ! かわいいでしょ!」


——「一緒にサッカーしようよ! ちーちゃん、意外と上手いじゃん!」


——「ねぇ、ちーちゃん……いつか、星の綺麗な場所に、一緒に見に行こうね」


楽しかった日々。


笑い合った時間。


なんでもない、

当たり前みたいな毎日。


いっぱい笑って、

何度も「また明日」って言い合って——


それなのに。


「みっちゃん……行かないで……!!」


涙が、

一気にあふれ出した。


「お願い……神様……!

みっちゃんを、助けて……!!」


お医者さんたちが、慌ただしく処置を始める。


機械の警告音と、飛び交う声が、

何度も病室に響いていた。


気づけば、私はその場へ崩れ落ちていた。


「なんで……

なんでなの……!」


どうして——


どうして、

こんなことになるの……?


……。


…………。

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