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『犬神物語』〜転生少女と不思議な絆〜 《改稿版》  作者: 犬神 匠
第五章 命の輝き

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第20話『止まりはじめた時間』

この頃、みっちゃんが「ちょっと疲れやすいんだよね」って呟くことが増えてきたんだ。


「部活がハードだからじゃない?」


「そうだよね……。でも大丈夫、まだまだやれるよ!」


私も、深く考えずにそう返しちゃってた。


だけど——。

みっちゃんの様子は、少しずつおかしくなっていた。


「ちーちゃん、なんか最近、ボールを蹴ると足が変な感じがするんだよね」


ある日の放課後、帰り道でみっちゃんがぽつんと呟いた。


「変な感じ?」


「うん……なんだろう、力が入りにくいっていうか」


「え、もしかして疲れてるんじゃない? サッカーって、すごく体力使うし……」


私がそう言うと、みっちゃんは いつもの調子で笑って「だよね!」って返してくれた。


でも、その笑顔が……

なんだか少しだけ、ぎこちなくて。

ちっちゃな違和感が生まれたけど、私は深く考えずに、そのまま流しちゃったんだ。


そして——。


その日も、いつも通りの放課後だった。


テニス部の練習を終えた私は、

みっちゃんたちサッカー部の様子を見に、グラウンドへ向かっていた。


夕焼けに染まったグラウンド。

ボールを蹴る音。

笑い声。

吹き抜ける風。


全部、いつも通りだった。


「ミツキちゃん、パスいくよー!」


誰かの声が響く。


「うんっ!」


みっちゃんが笑って、ボールへ駆け出した——


その瞬間だった。


——バタッ。


「……え?」


みっちゃんの体が、

糸が切れたみたいに、ふわっと崩れ落ちた。


「ミツキちゃん!?」


空気が、一瞬で変わる。


さっきまで聞こえていた笑い声が消えて、

みんなが一斉に駆け寄っていく。


私も、気づいたときには走り出していた。


「みっちゃん! 大丈夫!?」


みっちゃんは苦しそうに息をしていて、

手足が小さく震えていた。


「わかんない……急に、力が抜けて……」


かすれた声。


「救急車呼んで!!」


先生の叫び声が、グラウンド中に響き渡る。


もう一人の先生が慌ててスマホを取り出し、震える声で状況を伝え始めていた。


みっちゃんの手が、芝生を掴もうとするみたいに小さく動く。

私は、その手を握ることしかできなかった。


遠くから、救急車のサイレンが近づいてくる。


でも——

その音が、まるで別の世界の音みたいに聞こえた。


「みっちゃん……」


胸が苦しくて、うまく息ができない。

足が震えて、頭の中が真っ白だった。


やがて救急車が到着して、みっちゃんは担架へ乗せられていく。


閉まりかけたドアの向こうで、

みっちゃんが、不安そうな顔でこちらを見ていた。


……私は、その姿をただ見送ることしかできなかった。


*


気がつけば――

私は病院の冷たい待合椅子に座っていた。


ぼんやり天井を見上げる。


時間の感覚が、よくわからない。

なんだか全部、現実じゃないみたいだった。


「……お待たせしました」


診察室のドアが開き、先生が姿を現す。


その瞬間、空気が静かに張り詰めていく。


「お父さん、お母さん、こちらへ」


みっちゃんのご両親が静かに頷き、

診察室へ入っていく。


私は、廊下で待つことになった。


しばらくして、看護師さんに呼ばれて病室へ向かうと、

みっちゃんはベッドの上で、じっと天井を見つめていた。


「……ちーちゃん。私、どうしちゃったんだろうね」


「……だ、大丈夫だよっ! きっと、ただの疲れだよ!」


それしか言えなかった。


どれくらい時間が経ったのか、もうよくわからない。


やがて、

診察室から戻ってきたみっちゃんのご両親が、静かに病室へ入ってきた。


「光希……」


お母さんの声が、震えていた。


「ママ、どうしたの?」


みっちゃんが笑おうとしても、

お母さんの目には涙が浮かんでいた。


「……大丈夫だからね。これから、一緒に頑張ろうね」


お母さんが、みっちゃんの手をそっと握る。


みっちゃんも、不安そうにその手を握り返していた。


そのあと、

私は病室の外で待つことになった。


(……なにが起きてるの?)


胸の奥がざわざわして、落ち着かない。


* * *


次の日。

私は、また病院へ来ていた。


白い天井。

静まり返った廊下。


——みっちゃんが倒れたあの日から、

時間が止まってしまったみたいだった。


病室の中で、みっちゃんはじっと自分の手を見つめていた。


ゆっくり動かそうとしても、

うまく動かない。


「……昨日のこと、夢だったらいいのに」


かすれた声が、胸に深く刺さる。


「ねぇ、ちーちゃん……私、サッカーできるよね?」


無理やり笑おうとしてるのに、その目は不安そうに揺れていた。


「大丈夫だよ。ちょっと休めば、すぐ元気になるって」


できるだけ明るい声で返す。

でも、みっちゃんはゆっくり首を振った。


「……わかんない。体が、思うように動かないの」


「きっと疲れてるだけだよ。みっちゃん、ずっと頑張ってたもん」


「……そうかな」


「うん。だから、ちょっと休んだら……また一緒にサッカーしよ?」


みっちゃんは、しばらく黙ったままだった。


それから、ふっと小さく笑おうとして——


「……ちーちゃんって、ほんとポジティブすぎるよね」


「えへへ。みっちゃんのためなら、いくらでもポジティブになるよ!」


私はそう言って、みっちゃんの手をぎゅっと握った。


「だから、大丈夫。またきっと、一緒にボール蹴れるよ」


「……うん」


みっちゃんは、小さく頷いた。


私は——

本気で、そう信じてた。


でも、そのときの私は、まだ……


これがどんな病気なのかも、


なにが待ってるのかも、


何ひとつ、知らなかったんだ——。

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