第19話『おそろいのキーホルダー』
春の風が、新しい制服のスカートをふわっと揺らした。
中学校の校門を出たところで、
「千陽。中学入学、おめでとう」
ママが、にこにこしながら私の肩をぽんっと叩いた。
「今日は、おじいちゃんが来るよ。それにみっちゃんの家族も、一緒にお寿司食べに行くからね」
その日の夜、ちょっとした特別イベントが決定!
なんと、家族みんなでお祝いのお寿司を食べに行くことに!
「えっ、みっちゃんの家族も!?」
なんか意外でびっくり。
でも、ちょっとワクワクする。
「そうよ。せっかくだし、みんなでお祝いしましょうってことになったの」
みっちゃんとは幼稚園のころからずーっと仲良しで、
お互いの家族同士も顔なじみ。
でも、こんなふうにみんなで一緒にお祝いするのは、なんだか新鮮だった。
夜になって、みんなで近くの回転寿司へ!
おじいちゃんは、
「千陽も中学生かぁ〜。すっかり大きくなったなぁ」
って、しみじみした顔で私を見ていた。
私、おじいちゃんのことだ〜いすき!
小さい頃からたくさん遊んでくれて、
いっぱいお話もしてくれる。
おじいちゃんが来ると、なんだか特別な日になるの。
「ちーちゃん、お寿司なにが好き?」
みっちゃんが隣でお皿を取りながら聞いてくる。
「マグロかな〜。みっちゃんは?」
「私はエビ! でも今日は、いっぱい食べるよ!」
「わたしも〜!」
「ぼくはたまご!」
元気に声をあげたのは、向かいに座ってた弟のさとし。
小学三年生になったばっかりで、
最近は、とにかく食べるのが大好き!
「さとしくん、たまご好きなんだ?」
みっちゃんが楽しそうに聞く。
「うん! 甘くておいしいし、何個でもいけるよ!」
「それなら、もっともっと食べなきゃね!」
みっちゃんが笑うと、さとしは得意げに胸を張った。
「あとね、ぼくピアノもすき! こないだ、新しい曲ひけるようになったんだ〜!」
「へぇ〜! すごいねっ!」
さとしが自慢げに話す横で、
おじいちゃんがやさしそうに耳を傾けていた。
「そっかそっか。じゃあ今度、また聴かせてくれなぁ」
「うんっ!」
おじいちゃんが嬉しそうに笑うと、
さとしは元気いっぱいに頷く。
そんなあったかい空気の中、
みんなでわいわい笑いながら、お寿司を堪能!
おじいちゃんが「好きなもの、どんどん取っていいぞ〜」って言ってくれたから、私も遠慮なくマグロを二皿目!
おなかも心もぽっかぽかで、なんだか幸せな気持ちだった。
こうやって、大切な人たちと笑い合える時間って、
やっぱりいいなぁ。
* * *
そして次の日の放課後、
みっちゃんと一緒に、ちょっと寄り道することに。
「ちーちゃん、雑貨屋さん見に行かない?」
「いいね〜!いくいくっ」
その雑貨屋さんには、なんと犬グッズがずら〜っと並んでて、ふたりして大興奮!
「見て!このキーホルダー、ユキに似てない!?」
みっちゃんが白いワンちゃんのキーホルダーを手に取ったの。
「ほんとだ〜! かわいい〜!」
「おそろいで買おっか?」
「うんっ、買う〜!!」
ふたりでおそろいのユキそっくりキーホルダーをお買い上げ!
「これで、いつでもユキと一緒にいる気分だね♪」
みっちゃんの言葉に、私もつられて笑っちゃう。
キーホルダーをぎゅっとにぎりしめながら、心の中で思った。
(中学生になっても、みっちゃんと私は、ずーっと一緒なんだ)
*
みっちゃんは、初めて会ったころからず〜っとサッカーが大好き!
パパがサッカー大好きで、家でもサッカーの話ばっかり。
観戦にも連れて行ってもらってて、
気づけば本人も、すっかりサッカーっ子に!
休み時間も放課後も、いつもボールを蹴ってたっけ。
『プロのサッカー選手になりたいんだ!』
ってキラッキラした目で言ってた。
あのときのみっちゃん、めっちゃカッコよかったよ〜!
私はというと——
あの日、迷子になったときに受け取ったあのボールがきっかけで、なんとな〜くテニスに興味が出てきたの。
ボールを打つのって楽しいなって思って、
気づけば、ラケットを持ってコートへ行くのが日課になってたっけ。
『ちーちゃんは、プロのテニス選手になったりするの?』
って聞かれたことがあって——
『なれるかわかんないけど……でも、テニスはすごく好き!』
って素直にこたえたの、今でも覚えてる。
スポーツは違うけど、
夢を持って、お互い応援しあって――
なんだか戦友(?)みたいな感覚だったなぁ。
ある日の放課後。
夕焼け色に染まった学校のグラウンドで、
みっちゃんがサッカーボールをぽんっと蹴りながら言った。
「ちーちゃんもサッカーやってみる?」
「えっ、わたし? できるかな〜?」
「大丈夫! ボール蹴るだけでも楽しいから!」
おそるおそるボールを蹴ってみたら、びっくりするくらい楽しくて!
「ちーちゃん、意外とやるじゃん!」
みっちゃんが笑ってくれて、それだけでうれしくなっちゃった。
「ボール追いかけるの、楽しいかも……」
二人で何度も何度もボールを蹴って、笑って、転んで、また笑って——そんな時間が私の宝物だった。
「またやろうね!」
「うん!」
そのとき、みっちゃんが言ったんだ。
『ちーちゃんのテニスの試合、応援しに行くからね!』
「ほんとに!? めっちゃうれしいっ!!」
うれしすぎて、思わず顔がにやけちゃう。
みっちゃんの言葉のおかげで、
「よーし、絶対勝つぞー!」って気合も爆上がり!
そして迎えた試合当日——
「ちーちゃん、がんばれー!!」
みっちゃんの声が聞こえた瞬間、
背中をぽんって押されたみたいに力が湧いた。
試合に勝てたのは、あの声のおかげだって、
今でも思ってる。
「みっちゃんが応援してくれたから、頑張れたよ!」
「当然でしょ! ちーちゃんは絶対勝つって信じてたもんっ!」
夢中で笑って、全力で走って、ただただ楽しかったあの頃。
……でも、そんな毎日が少しずつ変わっていくなんて、思いもしなかった。
——あの時までは。




