↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『犬神物語』〜転生少女と不思議な絆〜 《改稿版》  作者: 犬神 匠
第四章 闇を裂く絆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/24

第14話『夢幻封界と白の幻狼』

「……で、この祠の中に入るにはどうすればいいの?」


思わずそう聞いてしまった私に、

シロはふんっと鼻を鳴らして、どこか偉そうに目を閉じた。


……と思ったら次の瞬間。

透き通った蒼い瞳が、びしっとこっちを見据えてきた。


《犬神千陽よ、試練の門を開くには、貴様の“誓い”が必要だ》


「誓い……?」


《この試練へ踏み込む覚悟を示せ。

それが、門を開く鍵となる》


……相変わらず言い方は大げさだけど、

今までとは少し空気が違った。


シロがズン、と一歩踏み出す。

足元から、淡い光の波紋がふわりと広がった。

まるで導かれるみたいに、私はそっと祠へ手を伸ばす。


指先が触れると――。

祠が、ほんのり光を帯びた。

ゆらりと、空間そのものが揺れる。


祠の前に、光の扉が静かに浮かび上がった。


「うわぁぁっ!?

なんかすごいの出てきたぁ〜っ!!」


扉の向こうでは、黒紫の靄《もや》がゆっくり渦を巻き、その奥で淡い光が瞬いていた。

なんかもう、完全に異世界の入口なんだけど〜っ!?


「これが……試練の門……?」


ヒカリがすっと近づいてきて、私の手をそっと握ってくれた。その手が、すごくあったかい。


「犬神さん、この扉はあなたの意志で開くものよ。

覚悟があるなら……扉に触れて、誓いを立てて」


覚悟、かぁ……。


私は一歩前へ踏み出し、そっと扉へ指先を触れた。

黒紫の靄が、扉の奥でゆらりと揺れる。


次の瞬間、

淡い光が波紋みたいに広がって、身体の奥がふわっと熱を帯びた。


「もうここまで来たら、

異世界でも首輪でもどーんと来いだよ〜っ!!

こうなったら――最後まで突っ走るしかないっ!」


しーん……。


……あれ?


ちょっとだけ恥ずかしくなって、

私はごほん、と咳払いした。


「……よしっ!

私は――この試練、ちゃんと乗り越えてみせる!」


静かな光が、扉の表面をゆっくり走る。

扉の奥で、黒紫の靄がぐるりと渦を巻いた。


「……なに、これ……」


その奥では、淡い光がゆらゆら揺れている。

まるで夢の中みたい……。


「うわっ……なにこの空間!?」


――ぐいっ。


扉の奥から、何かに引っぱられるような感覚が走った。


「ちょっ――!?」


身体がふわりと浮き上がる。

景色がぐるん、と回転する。

黒紫の靄と淡い光が、一気に視界を飲み込んだ。


そのまま、

私は扉の奥へ吸い込まれていく――。


上下も左右も分からない。


暗闇の中を落ちているのか、

それとも漂っているのか――。


感覚そのものが、

少しずつ曖昧になっていった。


「わ、わわっ――!?」


次の瞬間。


どすっ。


柔らかい地面に、私は前のめりに突っ込んだ。


「いたたた……っ」


周りを見渡すと、辺りには紫がかった霧が漂っていた。


石畳の輪郭は、水の中みたいにゆらゆら揺れている。

並ぶ灯籠には、青白い火だけが静かに灯っていた。


空を見上げると、そこに浮かんでいたのは――朱色の月。


不気味なくらい大きなその月が、森と参道をぼんやり照らしている。


なのに――静かすぎる。

生き物の気配が、ひとつもない。

草や土の匂いだけが、妙にはっきり鼻に届く。


「……えっ、なにここ……

ほんとに異世界来ちゃったの……?」


思わず声が漏れる。


慌てて起き上がろうとして、そこで違和感に気づく。


視線が、やたら低い。

身体が軽い。

それに、耳のあたりが妙にむずむずする。


「……え?」


そのとき。

足元の浅い水たまりに、見慣れた犬の姿が映った。


茶色と白の毛並み。

ぴんっと立った耳。

ころんとした丸い目。


それは――

いつも一緒にいる、ゲンキそのものだった。


「えぇぇぇぇっ!?!?」


思わず水面を覗き込む。


ぱちぱち瞬きすると、

水たまりの中の“ゲンキ”も同じように瞬きを返してくる。


「うそっ……なんで!?

えっ、なんで私、ゲンキになってるのーっ!?」


思わず叫んだ――はずなのに。


「ワンっ!? ……じゃなくて……え、今の……しゃべった!? わたし、しゃべれてる!?!?」


耳が勝手にぴくぴく動くし、

しっぽまでぶんっと揺れちゃうしっ!?

しかも、あの首輪……ちゃんと私の首にカチッてハマってる〜〜っ!?!?


異世界の中なのに……声が出せる。言葉が通じる。

――だけど、だからこそ、この異変は現実なんだ。


「ま、まさか……この世界じゃ私、犬になる仕様なの!?」


パニックになりかけたその時、前に現れたのは――シロ。でも、なんか雰囲気がいつもと違う。


「やっと来たのね、犬神さん」


えっ、シロが喋った!? いや、ヒカリの声だし!


「ヒカリー!? って、どゆこと!? シロが喋ったの!? ヒカリの声で!?」


「ここでは、私はシロの体を借りているの。

だから、こうしてあなたに話しかけられるのよ」


「えぇぇ……!? 

ていうか、私が犬になってることも説明してなかったじゃん〜っ!」


ヒカリ――いや、シロの姿をした彼女は、

どこか楽しそうにくすっと笑った。


「普通の人間なら、ここでは人魂みたいな姿になるの」


「ひ、人魂っ!?」


「でも犬神さんは違う」


ヒカリは、

私の首元の首輪をそっと見つめた。


「あなたは“犬神の継承者”だから。

まだ力は完全に目覚めていないけれど……

今は、最も繋がりの強い存在――ゲンキの姿を借りて、この場所にいるのよ」


「それがこの領域のルール。

さあ、覚悟を決めて——試練が始まるわ」


「ふえぇ……でもやるしかないんだよね……」


《犬神千陽よ。

貴様が今いるのは、“夢幻封界《むげんふうかい》”――

選ばれし者のみが踏み入ることを許される、試練の舞台だ》


「今の誰!? どっからしゃべったの!?」


《夢幻封界においては、肉体の言葉など無意味に等しい。

魂と魂が共鳴することでのみ、貴様の想念は届くのだ》


「ううぅ……便利だけど混乱するーっ!」


《そして魂は、己が本質を隠すことを許されぬ。

原初の姿を映し出し、その証として獣の形を宿す――》


「要するに……犬じゃないとダメってこと!?」


《そういうことだ、犬神千陽よ……さあ、この封界の理を受け入れ、試練へと進むがよい……!》


ヒカリと視線を交わす。


彼女も犬の姿になっているのに、

その瞳だけは不思議なくらい落ち着いていた。


「そういえばヒカリって、どうして首輪つけてないのに、夢幻封界に入れるの?」


「……あなたと繋がったからよ」


「え?」


ヒカリは静かに、自分の前足へ視線を落とした。


「握手したでしょう?

あの時、私もあなたとリンクしたの。

だから、ここに来られた。

……ただし、犬の姿じゃないと無理みたいだけどね」


「ぐぬぬ……私だけなんか損してる気がするけど、仕方ないっ!」


そう言いながら、私は覚悟を決めて一歩前へ踏み出した。ヒカリも静かに並ぶ。


紫がかった霧の向こうに、大きな鳥居がぼんやり浮かび上がっていた。

その奥には、石段と参道――そして、古びた神社が見えている。


「……あれ?」


思わず足が止まる。


崩れかけた灯籠。

古びた石畳。

森に囲まれた社殿。


見覚えがあった。


「ここ……犬神神社に、すごく似てる……?」


でも、私が知っている犬神神社とは違った。

鳥居も、石段も、社殿も――まるで別格みたいに巨大だった。


隣で、ヒカリが静かに目を細めた。


「……気づいたのね」


「え……?」


ヒカリは朱色の月を見上げながら、静かに言う。


「ここは、

犬神神社に眠る“もうひとつの姿”――」


その言葉に、

言いようのない違和感が、身体の奥を静かに這っていく。


鳥居をくぐった瞬間、空気がさらに重く変わる。

石段を上るたび、耳の奥でざわざわと何かが響いた。


ヒカリは何も言わない。

ただ、私の少し前を静かに歩いている。


その背中を追いかけながら、私はごくりと息を飲み込んだ。

この場所そのものが、私たちを見つめているみたいで――背筋がぞくりと震える。


やがて、霧の向こうに広い境内が姿を現した。

境内は、夢みたいに輪郭が揺らいでいる。


崩れかけた社殿。

朱色の月に照らされた御神木。


そして、その中央。


——ゴォォォ……。


低い唸り声が響いた瞬間、空気が震える。


霧の向こうから、

巨大な白い影がゆっくり姿を現した。


まっしろな巨大な狼。


鋭い金色の瞳がこちらを見据えていて、毛並みは風にたなびき、ただそこに“在る”だけで、空間そのものが緊張に包まれる。


『我が名は白の幻狼――この神域を守護する者なり』


静かに告げられたその言葉は、空間の奥底まで響くようだった。


私は――その場で、ぺたんっと尻もちをついた。

足が勝手にぷるぷる震えてる……っ!


「で、でたぁぁぁぁぁっ!!」


目、めちゃくちゃキラキラしてるし!

牙ピカッてしてるし!

なんかもう、“伝説の神獣です”みたいなオーラ出てるし!!


……って、違う違う違うっ!

見とれてる場合じゃない〜っ!!


私はじりっ、じりっと後ずさる。

狼は一歩も動いてないのに、存在感だけで圧がすごい。


「ムリムリムリムリ!!

なにあれ!? 絶対ラスボスじゃんっ!!」


声が見事に裏返った。


喉はからっから。

しっぽは完全にボンッて膨らんでる。


「……ええ。

あれが、この試練の守護者よ」


ヒカリが静かに言う。


「結界を繋ぎ直すには、あの守護者に認められなきゃいけない。

試練を越えた者だけが、“結びの印”を授かることができるの」


《この神域を守りし白の幻狼――。

貴様の魂が真に犬神の継承者たるか、その牙によって試されるのだ》


「いや待って待って待って!?あんなのと戦うの!?

聞いてないんだけどーーっ!?」


柴犬姿のまま、私はキャンキャン鳴きながら後退する。


――がっ。


「わふっ!?」


前足がもつれた。

そのまま、ころーんっ! と見事にひっくり返る。


「きゃんっ!?」


《恐れるな、犬神千陽。

貴様の魂には、すでに犬神の力が刻まれている》


頭の奥へ、静かに響く声が届いた。


(……えっ、シロ!?)


《その肉体もまた、試練を越えるために強化されし器――。貴様は、ただ己の本能を解き放てばよいのだ》


その声は静かで、だけど確信に満ちていて――

バクバクしていた鼓動が、少しだけ落ち着いた。


そして、私の前にすっと立ちはだかった、もう一匹の白い犬――ヒカリの姿。


「……大丈夫。私がいるわ」


静かで落ち着いた声。

姿は犬になっているのに、その声を聞くだけで不思議と安心した。


「怖いのは当然。でも……背を向ける理由にはならない。

行くわよ、犬神さん。私と一緒に――!」


《恐れを越え、互いの魂を信じるのだ――。

犬神の魂が並び立つとき、真の力は再びこの地に顕現する》


シロの心の声が、もう一度ふわりと降りてくる。


私は四つ足のまま、ぐっと前足に力を込めた。


「よ、よーし……やってやるっ! 行くよ、ヒカリ!」


「ええ。並んで、前へ」


二匹の犬が、並んで一歩を踏み出す。


それは、ただの戦いじゃない――

“はじまりの一歩”だった。


白の幻狼がその場に重く一歩を踏み出し、低く響く声で告げた。


『ここは試練の神域――。

その牙、その魂、その覚悟――。

すべて見極めさせてもらおう。

お前たちが、“神域を支える継承者”に足る存在かを』


——シュウゥゥ……。


まるで音そのものが吸い込まれるように、

あたりが不自然な静寂に包まれた。


その瞬間。

白の幻狼の足元から、黒紫の霧がじわりと広がり始める。

霧は生き物みたいに境内を這い、灯籠の青白い火さえ、

ひとつ、またひとつと飲み込んでいく。


「……え?」


気づけば、視界の輪郭がぼやけ始めていた。

ヒカリの姿さえ、霧の向こうへ溶けていく。


「ヒカリ……そっち、見える?」


「……いいえ、何も……」


目を開いているはずなのに、何ひとつ見えない。

周囲の気配は感じる。

なのに、視界だけが完全に閉ざされていた。


空間そのものが、深い闇へ塗り潰されていく。


『これで見えるものは何もない――。

お前たちの“本能”を試そう』


低く響く声と同時に、境内からすべての光が消えた。


「どこにいるの……!?」


思わず声を上げる。


なのに、周囲からは何の気配も感じられなかった。

まるで空間そのものに、気配が溶け込んでしまったみたいだった。


その時――。


暗闇の奥から、鋭い風切り音が響いた。


「っ――!」


気づいた瞬間にはもう遅い。

白の幻狼の気配が、凄まじい速さで私たちへ迫っていた。


「危ない!」


ヒカリの声が響く。

私は反射的に地面を蹴り、とっさに身をかわす。


――ザシュッ!!


すぐ横を、鋭い爪が風を裂きながら通り抜けた。


「ひゃっ……!?」

あ、危なかったぁぁ……っ!


鼓動がうるさいくらい跳ねている。


「大丈夫。

視えないなら、他の感覚を使えばいい――」


ヒカリの声が響く。


その耳が、わずかな音を拾うみたいにぴくりと動いた。


――そうだ。


視覚が頼れないなら、残された感覚を使うしかない。

私は耳をそばだて、微かな音へ意識を集中させる。


——ザッ。


遠くで、砂利を踏む小さな音がした。


「……いた!!」


同時に、ヒカリが鼻をひくりと動かす。


「この匂い……この幻狼はそこね」


二人の意識が重なった瞬間、

私たちは迷いなく地面を蹴った。


白の幻狼が低く唸る。


闇の奥で、金色の瞳が鋭くこちらを捉えた。


――ゴォォォッ!!


咆哮と同時に、凄まじい衝撃波が境内を駆け抜ける。


「きゃうっ!?」


私は思わず石畳を滑った。

前足がぐらつく。


でも――。


ヒカリだけは止まらない。

白い毛並みをなびかせながら、一直線に幻狼へ駆け抜けていく。


「犬神さん、今よ!」


「う、うんっ!!」


私は勢いよく地面を蹴った。

幻狼の正面へ飛び込み、わざと大きく右へ跳ぶ。

その動きに反応して、幻狼の鋭い爪が私を追った。


――でも、それが狙いだった。


「ヒカリっ!!」


「ええっ!」


幻狼の死角へ回り込んだヒカリが、一気に間合いを詰める。


鋭い爪が閃いた。

しかし、白の幻狼も咄嗟に身をひねる。


「っ……!」


浅い――!

そう思った瞬間。

私は全力で地面を蹴り、そのまま幻狼へ体当たりした。


「私が押さえるっ!!」


どんっ!!衝撃が走る。

幻狼の身体がわずかによろめいた。


その一瞬を、ヒカリは見逃さない。

金色の瞳を真っ直ぐ見据えたまま、ヒカリが静かに踏み込む。

その動きは、まるで風が流れるみたいに滑らかだった。


「――月閃《げっせん》」


白銀の爪が、月光を裂く。


――その刹那。

揺らいでいた夢幻封界の景色が、一瞬だけ静止した。


大型の幻狼を前にしているはずなのに、

ヒカリの動きには、迷いも恐れもひとつもない。


白い毛並みをなびかせながら、

流れるように駆け抜けるその姿は――

夜空を横切る、一筋の月光みたいに綺麗で。


その光景が、

強く目に焼きついて離れなかった。


鋭い軌道が、真っ直ぐ幻狼の首元を捉える。

白銀の光が、境内いっぱいに弾けた。


二人の動きが、完全に重なった瞬間だった。

白の幻狼の姿が、霧みたいにゆらりと揺らぐ。


『――よかろう。

その魂、確かに見届けた』


やがて、その巨大な身体は白い光の粒となって、

静かに霧の中へ溶けていった。


静寂が戻る。


私はその場へへたり込みながら、荒い息を吐いた。


「はぁっ……はぁっ……か、勝ったの……?」


自分でもまだ信じられない。

でも身体の奥には、まだ確かな熱が残っている。

ふわりと尻尾が揺れる。


「……犬神の力って、ほんとにあったんだ……」


私は朱色の月を見上げた。

さっきまで震えていた脚に、少しずつ力が戻ってくる。


「……わたしたち、

ちゃんと乗り越えられたんだね……」


「ええ。

あなたは、ちゃんと前へ進めたわ」


ヒカリにそう言ってもらえると、

なんだか少しだけ胸を張れた気がした。


……そういえば。


「ヒカリ、さっき……

なんかカッコいい技名みたいなの、言ってなかった?」


思わず私は、ヒカリを二度見した。


ヒカリは一瞬きょとんとして――


「……え?」


ほんの少しだけ、視線を逸らす。


「…………気のせいよ」


「えぇ〜っ!?

絶対なんか言ってたってば〜!」


「気のせい」


その返しがなんだかおかしくて、

私はふふっと笑ってしまった。


「……まあいっか、ありがとっ!

ヒカリがいてくれたから、ちゃんと乗り越えられたんだよ〜!」


ヒカリは少しだけ目を細めた。


「……あなた、

初めてなのに思ったより無茶するのね」


そのあと、ほんの少しだけ声をやわらげる。


「……でも、

私一人じゃ、たぶん押し切れなかった」


その声は静かだったけど、どこか少しだけ柔らかかった。


直後――。


その穏やかな空気を裂くように、どこからともなく声が響いた。


《よくやったな、犬神の継承者よ》


――シロの声……!


《この夢幻封界は、精神がそのまま力となる場。

己が心の弱さに飲まれれば、幻に喰われるのみ。

だが、お前は恐れを知り、受け入れ、それでも前へ進んだ。それが、真の強さだ》


静かで、しかし確かな威厳を帯びた声が、

まるで魂の芯へ直接語りかけてくる。


《よく聞け、犬神千陽。

力とは、ただ振るうものではない。

何のために立ち向かい、誰のために手を伸ばすのか――。その意思こそが、力を導く》


シロの言葉が、静かに胸の奥へ沈んでいく。

気づけば、前足へ自然と力が入っていた。


「……怖かったけど、

ヒカリを守りたいって思ったの」


その瞬間。

白銀の首輪が、ふわりと淡い光を帯びた。


「……え?」


小さな光の粒が、まるで星みたいに首輪の周囲を漂い始める。

すると、四つの刻印のうちひとつが、静かに白く灯った。


《お前の心に宿る“守りたい”という願いが、

犬神の力を目覚めさせたのだ》


じんわりとした温かさが、全身へゆっくり広がっていく。


《お前は、まだ未熟だ。

だが、歩みを止めぬ限り、その魂は磨かれてゆく》


シロの声が、波みたいに穏やかに響く。


《忘れるな――。

夢幻を越える鍵は、常にお前の中にある》


その言葉と同時に、光の粒がゆっくり宙へ舞い上がった。


白銀の首輪が、静かに輝き始める。


「えぇぇっ!?

なんか始まったんだけど〜っ!?」


光はそのまま、刻印の中へ吸い込まれていった。

まるで、“はじまりの一歩”を祝福するみたいに。


内側から、ほんのり力が満ちてくる。


「……わぁ、あったかい……

なんか、安心する……」


今、確かに何かが変わった。

でも、それが何なのかは、まだうまく言葉にできない。


それでも――。

次へ進まなきゃいけない。


そんな予感だけが、静かに残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。