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『犬神物語』〜転生少女と不思議な絆〜 《改稿版》  作者: 犬神 匠
第四章 闇を裂く絆

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第12話『白い影を追いかけて――茜色の記憶』

学校を終えて帰宅すると、玄関でゲンキがしっぽをぶんぶん振って待ってた!


「ただいま、ゲンキ~っ!」


「ワン!」


ゲンキは元気いっぱいにぴょんっと飛び跳ねて、私の足元にぴとってまとわりついてきた。

もう、ただいまの大歓迎っぷりが毎日かわいすぎるっ!

私はしゃがみこんで、彼のふわふわの頭をなでなで♪


「今日もいい子にしてた?」


ゲンキはうれしそうに「ふんっ」て鼻を鳴らして、私の手にすりすり。

その甘えん坊な仕草に、思わずにっこりしちゃった。


「ほんとに甘えん坊なんだから〜」


なでなでしていた、そのとき。


(……あれ?)


喉の奥がむずっとして、

一瞬だけ「ワン」って声が出そうになる。


あ、危なっ!?


とっさに口を押さえて、自分でもびっくりした。


(ま、また……?)


最近、ときどきある。

ゲンキと一緒にいると、なんだか自分まで犬みたいな気分になる瞬間。


しっぽとかあったら、絶対ぶんぶん振ってたと思う。


「……あれ、私なに考えてるの?」


思わずゲンキのおでこに、自分のおでこをこつんとくっつける。


「ほんと、不思議な気分……」


ゲンキはきょとん顔。でもすぐにうれしそうに鼻を私の頬にくすくすっと押し付けてきて、もう〜っ、かわいすぎっ。


耳をやさしく揉んであげながら、私もほわ〜っとした気持ちになってた。

ゲンキは目を細めて、すっごく気持ちよさそうなお顔。


「さ、着替えてこよっと〜」


名残惜しいけど、ゲンキにちょっと待っててもらって、自室へ直行!


制服をぬいで、部屋着に着替えようとしてクローゼットを開けたとき——

ふと視線が止まったのは、机の上の棚に飾ってある透明なケース。 


中には、ちょっと古びたテニスボールがひとつ。


そっと取り出して、じーっと見つめる。


このボール、小さい頃に迷子になった私に、誰かがくれたもの。

……たぶん、そうだったと思う。


でも、誰だったのか、なんでくれたのか……記憶がぼんやりしてて、思い出せないんだよね。


『……大丈夫。これ、あげるわ。きっとお守りになるからね』


優しくて、ほっとする声。


泣きそうになってた私に、そっとこのテニスボールを差し出してくれたその人の手。

あったかくて、やさしくて……そのぬくもりだけは、なぜかはっきり覚えてるの。


それ以来、ずっと大事にしてるこのボール。

気づけば、このボールを追いかけるみたいにテニスに夢中になってたんだよね。


このボールを手にして遊んでるうちに、自然とラケットを握って、公園で夢中になってボールを打ってたっけ。


テニスボールをそっと握って、静かに目を閉じると、浮かんできたのは中学生の頃の記憶。


——ちーちゃん。


——みっちゃん。


お互いあだ名で呼び合ってた、あのころの私たち。


「また会いに行くからね、みっちゃん……」


ぽつんと、小さくつぶやく。


ボールをそっとケースに戻して、しばらくじーっと見つめた。

中学の頃、大切だった友達との思い出が胸の奥でふわっとあったかくなる。


静かに立ち上がって窓の外を見ると、夕陽が地平線にしずみかけてて、空がすっごくキレイな茜色に染まってた。


「そろそろ行こうか、ゲンキ〜♪」


足元でまるくなってたゲンキが、ゆっくり起き上がってしっぽをふりふり。


バッグを肩にかけて、大きくひとつ深呼吸。


「ゲンキ、お散歩行くよ〜っ!」


ピコーンと反応したゲンキが、うれしそうに足元でくるくる回る。


私はストレッチするみたいに軽く伸びて、リードを持って玄関へ。


夕暮れの空の下、神社へ続く道へと、ゲンキと一緒に歩き出した。


街灯がまだ灯っていない、薄暗い夕暮れ道。


ゲンキと並んで歩いているのに、

さっきまで聞こえていた住宅街の生活音が、いつの間にか遠くなっていた。


風が吹く。


木々がざわりと揺れて、

住宅街の脇に伸びる細い道の奥だけが、妙に暗く見えた。


静かな住宅街を抜けて、

鳥居へ続く道に差しかかった、そのとき——


ぞわっ、と。


背中に、誰かの視線が触れた気がした。


(……まただ。)


思わず足が止まる。


ゆっくり振り返る。


……誰もいない。


ただ、風に揺れる木々の影だけが、

地面の上でゆらゆらと伸びていた。


「……気のせい……?」


そう呟いた瞬間。


カサッ——。


すぐ後ろの茂みで、小さな音が鳴った。


「……っ!」


心臓が跳ねる。


ゲンキもピクッと反応して、耳をぴんっと立てたまま、低く唸るように喉を鳴らしていた。

鼻先をひくつかせながら、じっと暗がりを見つめている。


この前も、同じだった。


まるで、

“誰か”がずっとこっちを見ているみたいな、

あのぞわっとする気配。


風が吹くたび、鳥居の向こうの闇だけが、

じっと息を潜めているように見えた。


「……行こう、ゲンキ」


私は小さく息を吐いて、

ぎゅっとリードを握り直す。


怖くない——わけじゃない。


でも。


ここまで来たのに、

引き返すほうが、もっと怖い気がした。


私は、ゆっくり前を向く。


犬神神社へ——。

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