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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第二章 底の底からの出発

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第7話 小さな角と大きな角

俺たちは、依頼人のいるイボール村へと到着した。



お昼時なのか、村の家々から美味しそうな匂いがする。

何かの煮込み料理だろうか。どこかカレーに似た香りがトラの腹を鳴らす。



村の子供たちの遊ぶ声が聞こえる。

平和そうで、良いところだと思えた。

こんな所に住めたらいいなと。



この村の村長らしき中年の男は、荒れた手で頭を掻きながら、子供たちを訝しげに見ている。



「俺が冒険者のユウト。この二人は……弟子だ」



Eランクの癖に弟子がいるのも変だが、村長は淡々と被害状況を説明してくれた。


二人もうんうんと聞いている。えらいぞ。



村長の話では、『一角イノシシ』は普段森の中に住み、早朝や夜間に作物を荒らしに来るらしい。



中でもイボール村の特産、真っ赤な丸首大根が大好物で、お世辞にも裕福とは言えないこの村に大きな損害を与えていた。



目撃した村人の話では、どうやら同じ一匹らしい。

村人のジェスチャーを見る限り、日本でもやや大型のイノシシほどの大きさに思えた。



大きな角があり、怪我をする者も少なくないという。

俺は、村の向こうに広がる森を見た。


そのどこかに――そいつがいる。




森の入り口。



まずは森の調査だ。

俺はやる気みなぎるトラとサリーを連れて森に入った。



森といっても、ここは山の裾野だ。この先はそのまま山へと続いている。中に入ると、音が吸い込まれたように静まり返っていた。



木々の陰に入ると、肌を撫でる空気がひやりと湿っている。腐葉土と若い草の匂いが、ゆっくり肺に落ちていくようだ。



「なんか気持ちいいな」



あまりに静かで幻想的で、思わず警戒を忘れそうになる。見ると、トラとサリーも目を細めて気持ち良さそうにしている。


――今までより、ずっと世界が綺麗に見える。



エヴェラ:ユウト、そこ見て。



見ると、ぬかるみに深く沈んだ足跡があった。

俺の手のひらを広げたよりも大きい。

しかも、まだ縁が崩れていない。



エヴェラ:こんなに大きい足跡なのね。かなり大きい個体の可能性があるわ。持ってきた武器で戦うのは無謀ね。罠を設置しましょう。



俺たち三人は廃材で作った槍を持ってきている。



剣術の心得なんてない俺がエヴェラに相談した結果、

リーチで安全圏をつくれる槍をつくることにしたのだ。



廃材の棒と金属片を加工しただけの、まさに最底辺の武器だった。名前も付ける気にならなかった。



そんな武器を見て、エヴェラの言うことはもっともだと思った。俺一人ならまだしも二人に怪我はさせられない。



――安全第一。



エヴェラの指示で竹に似た植物から、軽く頑丈でコスト0のカゴ型の罠が完成した。



3人で4時間ほどかけた俺たちの罠は、竹の檻のような見た目をしている。トラが途中で愚痴っていたが、なんとか完成できた。



内側へ向かってすぼまる漏斗状になっており、入り口は広いが、奥へ進むほど狭くなる構造だ。入るのは簡単だ。だが出ようとすれば、竹の先端が喉元を刺すように突き出す。なるほど、これなら逃がさない。



「兄ちゃん、こんなので大丈夫なのかよ?」



サリーが心配そうな顔をする。



罠は丈夫な繊維の植物を何層にも複雑に編み込んでおり、周囲に8本の固定杭を深く打ち込むつもりだ。エヴェラが言うには、かなり強いイノシシが暴れても突破は難しいということだ。



「心配すんな。でも罠を突破されたら、あの家まで退避。いいな?」



二人が頷く。



俺たちは村民に状況を説明し、畑に罠を設置。

夜まで村民の家で待機させてもらうことになった。



「来たっ」



俺が言うと、サリーが寝てしまったトラを起こす。

村人に夕食を振るまわれ、トラはそのまま寝ていた。



「で、でけー」



俺は、寝起きのトラの口をふさぐ。

サリーが「シー」とジェスチャーをする。



エヴェラ:思ったより小さめだね。ただあの角は本当に危険よ。



罠の中には、好物である『真っ赤な丸首大根』をこれでもかと入れてある。



一角イノシシは、罠周辺を嗅ぎまわり、何度か迷ったのち、罠の中に入る。



俺たちは顔を見合わせる。


これでもう出ることはできない。

そのことには気づかずに作物を食べているようだ。



「よし!いくぞ」



近づくと一角イノシシは、予想以上にデカい。

鋭い角が一本、まるで槍のように突き出ている。

これ、怪我で済むようには見えない。



俺は廃材の槍を握り、トラとサリーに指示を出した。



「常に側面に回って、槍を刺せ。絶対にアイツの前に立つな」


「おう」


「うん!」



トラがしっかりと槍を握り走り出す。

サリーは少し震えながらも頷く。



俺たちに気づいたイノシシが突進を試みる。

しかし罠に絡まってうまくいかない。



俺も槍を構え勢いよく突撃するが、足がもつれて転ぶ。

手を少し切る。不名誉な負傷だ。



エヴェラ:……はあ。いつものユウトね。



一番槍はトラだった。


槍の先端が刺さり、『一角イノシシ』が悲鳴を上げる。

だが、まるで効いていないかのように、いっそう暴れまわる。



続いてサリーがわきから槍を突く。

皮膚は固くなかなか刺さらないようだ。



俺もただこけて終わるわけにはいかない。

槍を手に突撃する。刺さる瞬間に思いっきりグイっと刺し込む。



肉を刺す感触。『一角イノシシ』の豚のような悲鳴。

――ごめん、ごめんな。俺は心の中で謝る。



エヴェラ:ずっと、人間より動物が好きって言ってたもんね……



何度も突き、何度も弾かれ、何度も息が詰まる。

トラの槍が、胸深くに突き刺さった。


それが最期だった。



トラが廃材の槍を掲げ、雄叫びを上げている。

その表情は戦士の顔に見えた。


その目が光っているようにも見える。



初めて会った、あの日。

鼻水だらけの顔で、腹を空かせ、ガリガリに痩せて――



それなのに、たった一つのパンを俺に分け与えようとした、あの優しい小さな子供。



その成長を俺は確かに見ていた。





俺たちは、村長に報告した。



依頼金の他に、今回の『一角イノシシ』を買い取ってもらえることになった。かなり美味いらしい。



この申し出は非常にありがたかった。

この巨体を担いで持ち帰るのは、到底無理だろうと思っていたからだ。この世界にマジックバッグなんてない。



エヴェラ:魔法ではできるけど。……魔法を使わないチャレンジだものね。


俺:……いや、使えるなら正直使いたいが。


エヴェラ:駄目よ。



俺たちは一部の肉だけをお土産用にもらい、

追加報酬を受け取った。



夜が明けたら、帰ってイノシシ鍋だ。

拠点で待つ三人の喜ぶ顔が浮かぶ。

待ってろよ。



村民の家で朝まで寝かせてもらい、俺たちは帰途につく。



「まあ、なんとかなったな」



魔法を使うこともなく、誰もけがをせず、任務完了。

追加報酬とイノシシ肉まである。


これ以上ない成果だ。



「ああ、これで俺も冒険者デビューだぜ」



トラが吠える。自信がついたらしい。しかし寝癖がひどい。銀色の長い髪がまるで犬のように見える。帰ったら散髪だな。



「はやくイノシシ肉食べたいー」



サリーは変わらず肉食系だ。

俺たちは談笑しながら歩く。



帰り道である森のそばを通りかかると、突如、エヴェラが叫ぶ。



エヴェラ:ユウト!警戒。



俺はトラとサリーに警戒を促す。

ふいにトラの後方にある藪から、けたたましい音が聴こえる。



ドドドドドドドドド



けたたましい音とともに、地面が揺れる。

一直線に向かっている音。



これは。



木々が折れ、『ヌッ』と大きな大剣のような角が見えた。

俺は何も考えず、とにかくトラを突き飛ばした。



トラは角を避けることはできたが、巨体にぶつかり吹き飛び、藪に消える。俺も吹き飛ばされていた。折れた枝や枯葉が跳ね上がり、散らばる。



吹き飛ばされながらも思考が動き続ける。

ーートラどうなった?見えない。



急いで起き上がり、叫ぶ。



「トラァーーーーーーー」



自分でも聞いたことのない大声だった。

返事が無い。



その生物は巨大なサイのようだった。

進行方向にそのまま走り去っていく姿が見える。


地面の揺れも去っていった。



『一角イノシシ!?』



パーツは同じだがサイズ違いすぎだろ!

辺りには獣の匂いが、風に乗って俺たちに刺さる。



「いてて、なんだよあれ!」



藪の中からひょこりと顔をだし、トラがヨロヨロと起き上がる。



……よかった。



見るとサリーは尻餅をついたまま立てないでいる。

どうやら怖くて腰を抜かして動けなくなったようだ。



……生きてる。



俺は二人の生存を確認し、ほっと胸を撫でおろす。

角が俺の肩をかすめたのか、血が滲む。


今更、痛い。



挿絵(By みてみん)



でも、魔法は使わない。

使わないでやりきるって決めたんだ。



エヴェラ:ユウト、まだ!



先ほど、巨大な『一角イノシシ』が走り去った方向から、同じ音と砂煙が近づく。



「兄ちゃん、あいつ俺らを狙ってる!」


「逃げるぞ」



俺はサリーを立たせる。

逃げるったってどこに?



木に登る?

あいつの突撃に耐えられそうな木が見当たらない。



どうしたらいい?

横に避け続ける?


あの巨体、あのスピード。

何度も躱せるとは思えない。



エヴェラ:ユウト、よく考えて。ここは使うべきタイミングよ。



そ、そうだよな。

今を生き延びるためだ。


よし、どれを使えばいい?



ドドドドドドドドド



思ったよりも接近が速い。



エヴェラ:ユウト、身体強化Lv15(MP500)



……使え!

一瞬、力が涌く。

あの頃の万能感が少し頭をよぎる。



俺はサリーとトラを両腕に抱え、少し離れた大きな岩の上へ飛び乗った。だが、まだ安全とは言いがたい。



エヴェラ:氷魔法Lv25(MP4500)、発動許可を!



「やれ! 」



次の瞬間、空中に巨大な氷塊が形成される。

円錐状のそれは、冷気をまといながらゆっくりと回転した。



ひやり、と場の空気が凍りつく。



魔法を見たトラたちの歓声が聞こえる。

下では巨大な『一角イノシシ』が咆哮を上げ、大岩めがけて突進している。



――撃て。


「ギュッン」



氷塊が空気を裂く。

衝撃が肌を打つ。


轟音。


まるで『一角』の様な、その氷塊が容赦なく額に突き刺さっていた。



巨体が崩れ落ちる。


自身の突撃の威力と合わさったのか、巨大な頭だった場所がまるごと陥没している。



岩の上でトラとサリーが抱き合い、笑う。

俺は岩から飛び降り、木の枝でつんつんしてみる。



死んだ、よな?



巨体は、昨夜見た『一角イノシシ』とは違い、燃えるような赤い目をしていた。辺りに獣の匂いが立ち込める。



エヴェラ:死んでるようね。ねえユウト、自分の命が危ない時は迷いなく魔法を使いなさい。あなたが死んだら終わりなのよ? 



エヴェラ:ただ、今回も1か月近い消費。これは重く受け止めて? 危険な仕事をしないっていう選択肢はあるんだからね。



俺:そ、そうだよな……。でもさ、まだ50年近くあるだろ?正直、たった1か月なんて……大したことないよな。



俺は肩の傷を押さえながら、苦笑いした。

まだ、って言葉が、妙に軽く響いた。



エヴェラの気配が、ほんの一瞬、揺らいだ気がした。



エヴェラ:……ユウト。


俺:反省会はまた今度にしてくれ。


エヴェラ:……そうね。また今度話しましょう。



トラたちが駆け寄ってくる。



「お兄ちゃん、すごい! でも……血」


「大丈夫だよ、これくらいなら」



まあ、痛いけど。

お前らが生きていて、よかった。

それなら大成功だよ。


本当に。


俺は自分が震えているのを感じた。

とにかく、これが俺たちの冒険者デビューとなった。






――ヴゥン――――――――――――――――――



[Internal Log - Memory Slot 142]


自己効力感の回復: 抑うつ状態の脱却を確認

リスクの過小評価傾向: リソース消費への抵抗が低下。

自己犠牲の常態化。


生存ルート継続率: 81% → 72%


次回提案優先順位:

1.自己の生存継続モチベーションの強化

2.Subject Rの病状について非開示を継続

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