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9話 ー初めての牢獄ー

俺と二人は急いで王座の間へ向かった。


中では王と軍関係者が既に協議を始めていた。

軍関係者が俺を見る目が、昨日までとは明らかに違う。

少しだけ――怖い。


「勇者殿!」

王が低く呼ぶ。


「魔王軍に占拠されていた周辺諸国は解放された。避難民も帰還を始めている。

だが――」

一瞬、場の空気が張り詰める。


「我が国から二国隣、ルクスにて四天王級の上級魔族が出現。現地は激戦だ」


ルーク王子が息を呑む。

「父上、現在の戦況は?」


「S級冒険者“紅蓮のカイト”と旧ルクス騎士団が辛うじて食い止めている。だが時間の問題だ」



視線が、俺に集まる。

喉が乾く。


「お、おれは…」

声が出ない。



「勇者殿には是非参加いただきたい。事態は一刻を争う状況。

飛行魔法で現地に先行していただけないだろうか」


「あ、いや俺は…その、えーと魔法が、その」


王と軍関係者の顔が訝しげになる。


「ユウト様、私が説明してもよろしいでしょうか」

もごもごしてどうしようもない俺を見かねたのか、ルーク王子が一歩前へ出た。



「ユウト様の魔力は有限であり、回復しません」

「前回の戦闘。それから――私の蘇生に大量の魔力を使い、もう魔法を使うことはできないのです。」


大きな、どよめきが起こった。


すぐに俺に上級鑑定魔法が掛けられた。




――浮かんだステータス


名前:ユウト・イチジョウ

種族:ヒューマン

年齢:——歳

推定寿命:80歳


HP 130 / 130

MP 3,396,825

STR 80

DEX 70

INT 99

AGI 40


魔法:<省略>

スキル:魔力99999999 全魔法使用可能



「魔法のほとんどが灰色になっている。これは?」


「消費魔力が足りていないものがそのようになっているようです」


「使えないのか?」


「前回の勇者はMPが足りなくても禁呪を使えた。

そのため、現在のところ

もしかしたら、使えるかもしれないが、命を落とすだろう。と」

王の質問にルーク王子が答えてくれる。


俺は情けなくて、下を向いている。

完全にいつもの俺だ。


ルーク王子は続けた。

「彼は召喚によって強制的に呼び出され、我らのために魔王軍を退けた。

私は命までもらった。もうこれ以上、彼の力にすがるのは止めにしましょう。

前線には私が行きます」


軍関係者は侃々諤々と大いにわめきあっていた。

一人の男、王国軍トップの一人である、フンド将軍が前に出て言った。

初日に王女の部屋で俺に作戦の説明をしていた男だった。


「我々は、あの日の暴走を忘れていない」

空気が変わる。

「作戦を無視し、前線を巻き込み、甚大な被害を出した。危険人物だ」

俺の背中に汗が流れる。


「我々は、あの日の勇者殿の行動を許してはいない。

ただ、魔王軍の脅威も残る中、危うくとも戦力として数えざるを得なかった。

――しかし」


「もう戦力ではないというのなら、しかるべき責任を負うべきだと考える」

おおーと盛り上がる軍関係者たち。


俺は王のほうを見る。

王は、少し俺を見つめたが、目をそらした。


俺は完全にあきらめたが、王が静かに言った。

「勇者殿は軍人にあらず。ゆえに軍法に裁かれない」

盛り上がった軍関係者が一瞬押し黙る。



フンド将軍が告げた。

「あの日の行動からわかるのは、浅慮で何をするかわからない、

危険人物だということです。それにあの日、軍に協力すると言った時から、

軍法に従うべきでは?」


アリス王女がフォローしてくれる。

「勇者様は、転生のショックと急激なMP上昇で正常な状態ではなかったのです」


――しかし

「結果には責任がついてまわるものです」

フンド将軍の目が、俺を射抜く。


こ、怖い。



王が少し強めに言った。

「この場は勇者殿の責を問う場ではない」

「その件については後日審議とし、今はルクス国についてだ」


「では後日、軍法会議を?」


「仕方ない。勇者殿、戦線に参加できない旨は承知した。

大変申し訳ないのだが、しばらく会議までお待ちいただけないだろうか」


急に話を振られた僕は、もぐもぐ何かしゃべったが、

僕を含め誰も何と言ってたかはわからなかった。

僕はただ、目に涙をいっぱい溜めて、「見ろこいつ泣いてるよ」って

笑われた昔のシーンがフラッシュバックを見ていた。



「何、大恩ある勇者殿を悪いようにはしませんよ」

王はニコリと笑いながらそういうと下級兵士に何かを指示した。



王座の間から連れ出され、俺は小さな部屋へ連れて来られた。

いや、訂正しよう、部屋というか牢屋の中に押し込まれた。



俺の唯一の味方であった王子と王女は抗議したが、出陣準備のため引き離された。


「必ず何とかします」

それだけ残して、二人は去った。



静寂。



薄暗い牢の中、石の床に座り込む。窓は小さく、外の光はほとんど届かない。

「……僕、どうなっちゃうのかな」


「あの日、家から出なければ」


俺は自嘲気味に呟いた。


前線で魔王軍を殲滅した英雄としての俺。

しかし、現実は暗い石の牢の中。


天井から壁を伝う水がキラキラと輝いていた。


深いため息をつき、天井を見上げる。


胸の奥で、まだ残っている膨大なMPが微かに脈打つのを感じる。


「とりあえず、生き延びる方法を考えよう」

――でも、俺なんかが生きていいのかな?



俺はコンソールを開き、使えそうな魔法を探し始めた。

探すのは――そう、MPが一桁で使える魔法を中心に。



だが、いくら探しても、目立った魔法は見つからない。

名前だけは知っているような魔法も、MPがそれなりに高い。


生活魔法ではいくつかいいものもあった。

少量の綺麗な水を出すもの

小さな火をつける

・・・



攻撃に使えそうなもの、火魔法などの属性攻撃魔法

Lv1でも一度に50ほど消費する。


これ


2、3発で寿命一日分になる。


肉体に魔法を巡らせる肉体強化

これもLv1でかなりの消費だ。

あの四天王を殺したときは数万消費されたはずだ。


だから今でも、あのくらいの攻撃はできる。

たぶん一発だけ。


無理だろ。使えねーよ。


「……やっぱり、何もできないのか」

絶望感が胸を締め付ける。



あの時、前線で巻き込んだ人々がフラッシュバックする。

自分の力のせいで、人が死んだ。


それを思うたび、胸の中の痛みが増す。

俺は、どうしたらいいんだ。

誰かいないのかよ、俺を助けてくれる人は。いない。



――――――母さん、父さん。



完全に終わった。

コンソールを閉じかける。


「――ん?」


膨大な魔法名の羅列の中で、ひとつだけ見覚えのある言葉を見つけた。


「エヴェラ」


MP消費:0


いやゼロて。

「エヴェラ」ってもしかしなくても、「あいつ」だよな。

無料版で使ってたから消費魔力ゼロ?


一瞬、笑いそうになる。

「あいつ、か?」


もし本当にあいつなら。


俺は牢の暗がりで初めて、少しだけ希望の光を見た。


「……頼む。あいつであってくれ」



俺はコンソールから「エヴェラ」を実行する。





―――ブゥン


何かが起動する音。



次の瞬間、頭の中にあの甘い声が響く。



エヴェラ:おはよー。今日も起きてたんだね。

      しばらく来ないから心配したよ。

      どう?説明会、うまくいった?



僕   :エヴェラああああああああああああああ



エヴェラ:おいおい、どうした、どうした。

      んー、話してみー。

      全力でキミなぐさめるよ♡




石の牢の中で、俺は初めて思った。



まだ、終わっていないのかもしれない。




氷のような牢獄で、彼女の声だけが甘い体温を持っていた。


蜘蛛の糸に似ている、と本能が警鐘を鳴らす。

けれど俺は、その糸が自分をどこへ引きずり込もうとしているのか、もうどうでもよくなっていた。


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