表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

8話 ー選択と代償ー

王子の居室


王子の居室は、俺の部屋よりさらに格式高い豪華な造りだった。


朝の陽ざしが差し込むテーブルには、ルーク王子とアリス王女が紅茶のようなものを飲んでいる。


「ユウト様!」


ルーク王子は立ち上がり、こちらに歩み寄った。

蘇生直後と違い、血の気が通う、すっかり元気な顔だ。

完全に超絶イケメンである。


昨日の朝、鏡を見たときは俺も同じくらいかっこよかったのに、今日見ると不安げなデブが映っていた。あれは誰だ。


「勇者様のおかげで、兄もこのとおり、すっかり元に戻りました。本当に夢のようです。」

アリス王女もうるんだ瞳で、幸せそうに微笑む。


美女が笑うだけで胸が熱くなるのは、どうしてだろう。


「あ、あやや、当然のことです。ホントニヨカッタデス」

心臓は高鳴り、身体も正常に動かない。いや、俺にとってはこれがある意味“正常”なのだが。


2人は顔を見合わせる。


「私は傷つき倒れ、それでも痛みの中、仲間たちが次々と殺されていくのを見ていました。その時のことは忘れられません。何もできず、私が死に、国や人々はどうなってしまうのかと――もっと力があれば、と苦悶と後悔のまま死にました」


ルーク王子は険しい表情を見せたが、すぐに和らげる。

「目が覚めた時、私には光の中に神が見えたと思った。それがユウト様でした」

「そして、われわれ連合軍では到底勝てなかったあの戦いを終わらせてくれた。改めて礼を言わせてください。本当にありがとう」


二人は頭を下げた。


俺は、やってよかったのか、喜んでいいのか分からなくなる。


「俺のせいで、沢山の人が死にました」


「それは…」


「国を守るため、仲間を守るために戦っていた人たち。彼らは死ぬ覚悟があったかもしれません。でも死にたい人はいなかった。俺は、顧みずに殺しました」


二人は互いにうなずく。


アリス王女が優しく切り出す。

「カリンから聞きました。おそらく勇者様は急激な魔力上昇で、精神的に暴走状態だったのではないか、と」


「それにユウト様はまだお若い。急に別世界に呼ばれ、混乱されても不思議ではありません」


ルーク王子もフォローしつつ、表情は申し訳なさそうに変わる。

「ただし、軍関係者や冒険者ギルドでは、合同で今回の戦闘の事後調査を始めています。あの日、アリスの部屋で作戦立案前に飛び出した件は広く知られてしまいました」

「当然、私たちは反対していますが、軍法会議にかけるよう主張する派閥も存在するようです」

「また、冒険者の中にも敵意を持つ者が出るかもしれません。ユウト様のお力を見て直接何かする者はいないと思いますが、どうかご注意ください」


「俺が、悪いです」


俯いた俺を見て、アリス王女がそっと口を開く。

「あの、勇者様……失礼ながらお聞きしたいのですが、勇者様は、彼らを蘇生させることはできますか?」


ああ、そうか。

みんなが生き返れば解決する。許してもらえるかもしれない。


初日、まだ蘇生魔法が使えると思っていた頃、俺はブックマークして確認していた。

だが今、コンソールで自分のMP以上の魔法を見ると、ほとんどがグレーアウト。

何か色が薄くなってるんだよね。

――使えないのか、それとも使ったら死ぬのか。


どちらにせよ、使えない。


俺はアリス王女に尋ねた。

「カリンから聞いたのは、俺の精神状態だけですか?」


アリス王女は首をかしげる。

「それ以外は特に。ただ、とても心配している様子でした」


「俺のステータスを見てくれ」

王子が目くばせすると、アリス王女が中級鑑定魔法を使った。


――浮かんだステータス


名前:ユウト・イチジョウ

種族:ヒューマン

年齢:——歳

推定寿命:80歳


HP 130 / 130

MP 3,396,825

STR 80

DEX 70

INT 99

AGI 40


魔法:<省略>

スキル:魔力99999999 全魔法使用可能


「これは…?」

「魔法の半分ほどが色薄になっていますね。MPも減っています。回復薬はお試しになりましたか?」


「ああ、カリンちゃんが食事に入れてくれたそうですが、効果なし」

アリス王女は目を伏せる。


ルーク王子が続ける。

「このMP表記、おかしくありませんか?」


俺は頭をひねる。


「私のステータスをご覧ください」

アリス王女が魔法を発動する。


名前:ルーク・ストラウデス

種族:ヒューマン

年齢:24歳

推定寿命:95歳


HP 2420 / 2430

MP 670 / 1400

STR 620

DEX 270

INT 199

AGI 340


魔法:神聖魔法Lv35

スキル:呉羽流剣術Lv45 呉羽流盾術Lv30


――王子、ばか強い。


「いや、す、すごい強いですね」

俺はにやけながら言った。強者には卑屈になるのが俺の性だ。


「ユウト様、MPをご覧ください」


MP 670 / 1400…

「減ってますね」

「はい、妹にはまだ早いと叱られましたが、朝から鍛錬しました」

「いや、それではなく、通常のステータス表示では最大値が表示されます。

だから鍛錬で減ったことが分かる」


――なるほど。


HP 130 / 130

MP 3,396,825


なるほど、俺の「魔力99999999」スキル――これって、魔力が最大値固定になるだけのクソスキルか?

嘘だろ。こんなことある?罠スキルじゃねーか。


俺は膝から崩れ落ちる。

人間は本当に膝から崩れ落ちるのだな、と感心した。


考えたくない。

あの日、俺は本当にスキル選定眼を試されていたのだ。


大失敗だ。

今までの選択はすべて間違いだった。

魔法も魔力も全部使えてすごい、と褒められていたが、実は何も正しくなかった。

そりゃそうだ。あんな数分考えただけで、完璧な選択だーって。


結局、俺はここでも同じだ。

画面の向こうで最強のコマンドを選んだつもりで、そのボタンの重さすら分かっていなかった。

減っていくMPは、俺が奪った命の数であり、俺が死に向かうカウントダウンそのものだったんだ。


何かが心の中で崩れ、俺は大泣きした。

二人は慌てて俺を支えてくれる。

美男美女に介抱される、ただの太った生き物――俺。


情緒不安定なのが、正常な俺なのだ。すまん。


王子が差し出した、高価そうなハンカチを

涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしてから、

なんでか落ち着いた俺は、元の世界の最後の日を思い出す。

――これも、まだ大量にあるMPの影響かもしれないが。


あの部屋で腐っていくのは辞めたんだ。

俺は、バイトの説明会に一人で行く勇気を持つ男だ。

まあ、あの時はエヴェラもいたな。


俺を支える根拠は、今はこれしかない。

生き抜いてやる。



「落ち着きましたか」

俺の醜態を黙って見ていたアリス王女は

先ほどまでとは違い、まるで聖母のような微笑で俺を覗き込む。

――ああ、情緒不安定なガキだとバレてるな、恥ずかしい。


「はい。ご心配おかけしました」

俺はなんとか笑う。


「もう蘇生魔法の話どころではありませんね」

「はい。回復しないなら現在のMPでは足りません。命を懸ければ可能かもしれませんが」

「そのようなこと……」


「ユウト様、心配はいりません。魔王は討たれました。

魔法を使わず、平和に暮らしていけばいいのです。

そのためのサポートはどうか私たちに任せてください」


ルーク王子――内面まで完璧にイケメンだ。

嫁いでもいいかもしれない、と思うほど、俺の心は落ち着きを取り戻していた。


その時、下級兵士がドアを叩く音が聞こえた。


「皆様、陛下から緊急招集です。王座の間に急ぎお集まりください!」


俺たちは顔を見合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ