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7話 ー今までの人生で魔力が回復したことありますか?ー

翌朝。


俺は目を覚ました。昨日は超魔法を連発したせいか、身体が重い。けれど、思考は妙にクリアだった。


この部屋、この国、この世界――なんとなく、俺に馴染んできたのかもしれない。


なんとなくステータスを開く。


MP:3,396,825


……ん?


回復してない。


昨日はたしかに結構使ったはずだ。自然回復は? 0なのか?


それとも量が多すぎて回復に時間がかかるのか。

寝る前のMPどのくらいだったかな……。

王女との、あのラブラブ生活妄想をしていたら、寝落ちしていた気もする。



回復量ゼロ。


俺は巫女ちゃんに相談することにした。中庭で、何やら難しい顔をして座っている。


「おーい、巫女ちゃん」


小柄なエルフの少女は、不安げな目でこちらを見上げ、指先で巫女服の袖をぎゅっと握った。


「あの……勇者様」


声は小さいが、まっすぐ。


そういえば、この娘、名前は――?


「……巫女ちゃん。また魔力について教えてほしいんだ」


「言われた通り、魔力多めのごはん沢山食べて、いっぱい寝たのに、MPが回復してないんだ」


彼女は「――見せてください」と上級鑑定を展開する。


「……確かに自然回復が確認できません」

「そんなことあるのか?」

「極めて稀ですが……病や種族特性で、魔力が回復しない現象は存在します。

勇者様は今までMPは自然回復していましたか?」


今までの人生では――無い。そりゃそうだ。


こっちに来てからは,,,,


「いや、見てなかった。わからないんだ」

 ーーばか?


視線を落とす彼女。


「実は昨日の朝、勇者様の魔力量が……ほんのわずかですが、減ったままでした」

「心配になって、勇者様のお食事に魔力回復薬を混ぜてもらいました」

「それでも、数値は……戻りませんでした」


背筋が冷える。手のひらに力が入らない気がした。

エヴェラ.....


「あと……」

「なんだ?」

「生きているだけで、魔力は消費されます」

「……は?」

「呼吸、代謝、思考。微量ですが常に減少しています」


「もちろん微々たるもので、普通に生活していたらMPを150ポイントくらいです。ものすごく激しく動いても300くらい。もちろん魔法を使えばもっともっと消費します」


「普通は1日で全部回復します。だからMPが低くても問題ないのです。でも勇者様は」


「だから……えと、えと、安静にしてください!」


俺は笑った。


「はは、じゃあ俺、あと何年生きられるか計算しないとな」

頭の中で割り算しようとしたがやめた。


昨日は∞だった。

推定寿命を確認する。


推定寿命:80歳


……は? 昨日、∞じゃなかったか?


「……巫女ちゃん」

「はい」

「今後、俺が魔法を使わないで、安静にしてれば80歳くらいまで生きられるってこと?」

「そうなりますね」


80歳。んーまあ、普通か。

日本人の平均値くらいか。


まーいい。俺は英雄として王女と生きていけばいいしな。

主夫として生きる!

部屋を守ることは、自宅警備員として得意分野だからな。



巫女ちゃんが、何か言いたそうにもじもじしている。


「巫女ちゃん、名前なんてーの?」

「それです!」

少し頬を膨らませる姿は完全に可愛い。


「魔力は生命活動に直結しています。そして大量の魔力は精神に影響します」


「魔力が増える前の自分から、何か変わっていませんか?」


「私たちも落ち込んだり元気だったりしますが、MP量が影響しています」


「もし急激にMPが増えた場合、全能感に支配され、他者を役割としてしか認識しなくなることがあります。これは典型的な症状です」


――え? 名前聞いたら教えてくれないどころか、未熟だと罵倒される。びっくりだ。


精神的に何か違ったのか? MPが減ったから落ち着いたのか?

いや、昨日も俺は俺だったはずだ。


確かに昨日より頭はすっきりしているし、10歳のくせに賢い巫女ちゃんの長話もちゃんと聞ける。


俺は、――思い出す。


ちょっと前までは、人が怖くて、たとえ10歳でも敬語で話していたかもしれない。


ずっと引きこもって、誰にも会えず、怖くて、だけどここに来たら怖くなくて。

――全部、膨大なMPがそうさせていたのか。



歩きながら思考が加速する。

昨日の戦場、王女の兄――ルーク王子。最前線で倒れた兄を思い出す。


あの時の王女の表情。

涙を堪えながらも、強く生きようとする瞳。

肩を震わせる小さな手、悲しみに暮れる横顔。

目に見えない涙が頬を伝い、彼女は精一杯笑おうとしていた。


俺は、スケベ心で

「どうだ、助けてやったぞ」と気持ちよくなってしまう。

ーー最低だ。クズすぎる。


胸の奥に、安堵と罪悪感が交差する。


蘇生魔法リヴァイヴ・オーバーコード

あの日の俺の決断で、王子は今も生きている。

王女の涙は止まり、兄妹の再会に満ち溢れた安堵の表情――

その光景を思い出すたび、胸がじんとする。


……でも、俺は一瞬、また自分の醜い思考に気づき、顔を背けた。


よかった。あれはよかったはずだ。

絶対。



――そして、言わなきゃな。「勇者は辞めます」って。


まだ歩みを進められない自分も、

MPが回復しない現実も、

すべて含めて、俺の人生だ。


生き抜いてやる。


俺はゆっくりと、王子の部屋へ向かう――足取りは重いけれど

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