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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第二章 底の底からの出発

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第5話 再出発のギルド

朝。



俺はエヴェラのナビに従い、冒険者ギルドへ向かっている。もう行けない、と思っていたのに、こんなに早く行く事になるなんて。



『食堂の運転資金を堂々と冒険者ギルドで稼ぐ』


エヴェラの提案だ。



そもそも俺はなんの犯罪も犯していないという。どんな理由があろうが、殺そうとしてきたあいつらが犯罪者だと。



だから、こそこそ隠れる必要なんてないと。俺は罪悪感と恐怖から反対したが、論破されてしまった。



それで、もう一度行くことにしたのだった。エヴェラがあの担当者に何かしないか、少し心配だけど。



目的は一つ。

冒険者として正式な身分を得て、仕事をすること。



地下で息を潜めるしかないあの子たちに、「もう大丈夫だ」と胸を張って言える立場になるためだ。



門を蹴り破って乗り込みたいところだが、そんな度胸もなく。今の俺は裏口から入ろうと、扉付近でくるくる回ったり、もじもじしていた。



「あ、あのー……」



22歳くらいの女性職員が心配そうにこちらを見ていた。



エヴェラ:コ、コイツはっぁあああああああああああああ。



うるさい。頭の中で叫ぶな。



エヴェラ:ユウト、苦痛魔法Lv15 MP150 早く!



うるさいエヴェラ、ステイ。



「あの時の受付の人ですよね?」



俺はフードを外した。



「ひっ」



彼女は驚愕し、尻餅をついた。



「ごめんなさい、ごめんなさいー」



彼女は泣いている。泣いている女を責めるなんて俺にはできない。



エヴェラ:ユウト、今よ!



ちょっと静かにして……全然、今じゃないだろ。



俺は彼女に言う。



「びっくりするとそうやって大声出しちゃうんだね?」



彼女は両手を口にあてて大きく頷く。



「く、癖なんですー」


「おれは、殺されかけたんだ。まさか、ごめんで済むなんて思ってないよな?」



責める気はない。だが言うことは言う。



「お前のその癖のせいで。な」



彼女の顔が青ざめる。



よし、このまま、彼女にギルドの仕事をこっそり回してもらうよう依頼する。これが俺たちの作戦だ。



『堂々と仕事する』と言えるかはさておき。



ふいに俺たちの周りが影で覆われる。


エヴェラ:ユウト、後ろ。一人、男。



俺は戦闘態勢をとる。

エヴェラと話していた。



もし、また俺を殺そうとする人間が現れたら、今度は徹底的に叩こうと。そうすれば手を出す奴が減るからって。



この街で俺たちは堂々と生きられるようになりたいんだ。たとえMPを消費したとしても、それは必要なコストだ。



レナたちがいなければ、こんなことは考えなかったのだが。もちろん、俺を恨む人と戦うなんて嫌だから、こうして、こそこそ来たってのに。



――それさえも許されないなら。


俺は後ろの大男を睨む。



が、その男は大きく頭を下げていた。

現れたのは、熊のような体格の老人だった。



「勇者殿。我々の職員がおこなったこと。これは到底許されることではない。どうか。どうか命だけは許していただけないだろうか!」



大男が土下座体勢に移行する。

その大きく丸まった姿は、なぜか熊さんに見える。



「ギ、ギルド長~」



俺は混乱しつつも、なんとかギルド長と呼ばれた男を立たせ言った。



「あーうん。許した! もう、全然怒ってない」



挿絵(By みてみん)



俺たちは裏口からギルドに入り、ギルド長室に通される。この熊のような老人が使うのか、どでかい大剣が飾られている。



「勇者ユウト殿、大変お見苦しいところをお見せした。私はこのギルドを任されているドーデスと申すものです」



また、大きな体で頭をさげる。

謝られる経験など、ほとんどない俺は恐縮してしまう。



「改めて、謝罪します。本来ステータスは冒険者にとって重要な個人情報です」



そうなの? 俺は、王城で、ポンポン、ステータス表示させられていたような気がするけど……



「彼女にはそれなりの罰を与えますので、どうかご容赦を」



彼は俺が暴れるとでも思っているのか、まだ警戒を解かない。



「俺は、文句を言いに来たわけでも、報復しようと来たわけでもないですよ」


「では、彼女、マチルダをクビにする必要は無い、と?」


「ああ」



廊下からキャーッと聞こえる。

マチルダさん、盗み聞きバレてるぞ。



「ただ、冒険者として仕事をさせてくれないか。仕事がしたいんだ」



ドーデスさんは俺を見る。やがて短く溜息をついた。



「ええ、あの日。あのようになってはしまいましたが、冒険者として登録はできております」



彼は封筒から1枚のギルドカードを取り出す。渡されたのは、最低ランクから一つ上のランクが刻印された薄汚れた銅のプレートだった。



「このとおり、Eランクでのご登録となります」



エヴェラ:ステータスで初期値決めるって言ってたけど、ずいぶん低いわね。MP以外がそうとう低いのかもね。



「それで、どうやって仕事を選べばいいのかな? また表から入れば大混乱するよね?」



俺はそう思ったが、意外にも違った。



「もちろん表から入っていただいて問題ございません。本来冒険者同士のいざこざにギルドは介入しません。ですが、そもそもが我らの落ち度。もし、また暴れる者がでたら、その時は私が対処しましょう」



彼は目をギラリと光らせる。迫力が凄い。

よし、何かあればすぐに相談しよう。



「それに当然恨みを持つ者だけではありませんよ。ユウト殿に感謝している者だって沢山いる。私だってその一人だ。もちろんユウト殿が戦場でどのように戦ったかを知った上で、です」



彼は大きく優しい瞳を向けてくれる。

城で優しくしてくれた王子と王女を思い出す。



「あなたを攻撃した者たちは、攻撃した理由はあるかもしれません。ですがそれは個人的なものです。もしお望みになるのなら、あの神殿騎士も含め、暴行の罪で訴えることもできます。私たちが証言しましょう」



エヴェラ:よし、徹底的に追い込みましょう、ユウト!


俺は、エヴェラを遮るように言った。



「その必要はありません。彼らの怒りは当たり前のものです。ただ……」



俺は彼の目をまっすぐ見つめる。



「まだ、俺は死ぬわけにはいきません。次は、抵抗します」



俺は本気だ。

子供たちの寝顔が、ふと脳裏をよぎる。



「それがいいでしょう、いつだって無抵抗な者は打たれます」



その言葉は、すっと俺の中に入っていく。



「ちなみにEランクではどんな仕事ができるんですか?」


「Fランクとは違い、採取依頼だけでなく、一部の魔物の討伐依頼も受けられます。D、Cと上がっていけば、警護などの仕事も可能となります」



コンコンっ。



タイミングを見計らっていたのか、マチルダさんが依頼書を持って入室してきた。妙に鼻息の荒い彼女から、任務の詳細、報酬の受け取り方法などを聞く。



机の上に、数枚の依頼書が綺麗に並べられた。



「現在ご紹介できるのは、Fランク向けの採取依頼が三件。Eランク相当の討伐が二件です」



俺は目を走らせる。

・森狼三匹の討伐

・廃坑のスライム駆除

・一角イノシシの討伐

・ベーネ草の採取

・オウギワシの卵の収集



エヴェラ:森狼は群れるわよ。魔法なしなら囲まれたら終わり。本当に3匹ですむのかしら? しかも場所が森。初心者が受ける依頼じゃないね。



エヴェラがさっそく分析を始めた。



エヴェラ:廃坑は視界が悪い。罠もあるかも。おすすめしない。オウギワシはかなりの高所に登らないとだね。



俺は「一角イノシシ」の依頼書を手に取る。

これは、作物の被害がある村の農民からの依頼だ。



「単独行動。縄張り意識が強い。突進に注意、か」



エヴェラ:突進系ね。正面から受けなければいい。罠でもなんとかなりそうだし、これがいいかもね。ユウトは逃げ足は速いでしょ?


……たぶん。



これと『ベーネ草の採取』を合わせれば、報酬は銀貨三枚。なかなかの収入だ。



「危険度は?」


「当ギルドでは過去に新人冒険者が一名、牙に貫かれ重傷を負っています。命は助かりましたが」



俺は小さく息を吐いた。

――魔法は使わない。

それでどこまでやれるか、試す。



「これでいく」



笑顔のマチルダさんが元気よく頷いた。



今回は「一角イノシシ」の討伐及び、ベーネ草と呼ばれる、回復ポーションの原料を採取する仕事をすることになった。俺は二人に頭をさげ、退室する。



「……よかった、生きてて」



部屋の向こうで、そんな声が聞こえた気がした。

俺たちは裏口から出て、なるべく人通りのない道をフードをかぶって歩く。



俺   :なんとかなったな。



エヴェラ:ここからが本番よ。ユウトの力、魔法なしでどこまで通用するか、見せてもらうからね?



俺の手の中には、冷たい銅のプレート。

明日からは、「一人の男」として、泥にまみれて金を稼ぐ。魔法を使わなくたって、何とかなるはずだ。



俺は一歩一歩、暗闇の中を進む。

下水道の隠れ家で待つ子供たち。



無邪気に笑うあの顔を、もう二度と怯えさせないために。



足取りは、もう逃亡者のものではなかった。

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