6話 ー蘇生魔法の誘惑ー
王城の一室は、戦の直後とは思えないほど静かだった。
分厚い絨毯、甘い香の焚かれた空気。窓の外ではまだ民衆の歓声が続いている。
「……勇者様、本当にありがとうございました」
王女は深く頭を下げた。その所作の美しさにため息が出る。
だが、声は震えている。感謝の言葉のはずなのに、どこか距離がある。
照れてるのかな、と俺はぎこちなく笑った。
「い、いや、まあ当然というか? 俺、勇者だし?」
グイっと距離を詰める。
……近いか?
恋愛経験ゼロの男子高校生みたいな挙動になっている自覚はある。
でも、この流れなら彼女化イベントだろう?
王女の肩がわずかにこわばった。
……あれ?
「怖がってる?」
「え……?」
彼女は慌てて首を振る。
「そ、そんなことは……ただ……」
視線が揺れる。
「兄が……前回の大進攻で、命を落としました」
空気が変わった。
王女はゆっくりと語り出す。
最前線で兵を率い、四天王の一人と相打ちになった王子。
遺体は辛うじて回収されたが、損傷が激しく、葬儀も簡素なものだったという。
「兄は……強くて、優しくて……この国の希望でした」
王女の声が震える。
思い出す。
まだ幼い頃、王子が手をひいて初めて剣の訓練を教えてくれたこと。
夜、寝室に忍び込む私に笑いながら魔法の本を渡してくれたこと。
前線に出るときも、必ず私の安全を心配していたこと。
涙が止まらない。
「私も兄の助けになればと魔法の使い手を志しておりましたが、もう必要ないですね……」
俺は、ほんの一瞬だけ考える。
そういうことか、ここでこれを使ったら惚れちゃうのね?
――兄さんにまた会いたいかい?
心の中で、にやりとした。
会わせてあげられるよ?
俺の蘇生魔法でね。
「……王女様」
俺はわざと落ち着いた声を出す。
「兄上に、会いたいかい?」
王女の目が大きく見開かれた。
「……え?」
「そんなこと、できるわけ」
「できる」
俺はコンソールを開く。
蘇生魔法
消費MP:40,000,000
おう、魔王2人ぶんかよ・・・
でも。
「ご遺体はどちらに?」
俺は精一杯の決め顔で言った。
◇
地下霊廟。
白布に包まれた王子の遺体が横たわる。
王女、国王、司祭が見守る中、俺は魔法陣を展開した。
光が渦巻く。
魔力が地面を震わせ、壁に反射するたび虹色に光る。
消費MPが削られる感覚。胸の奥が、ほんの少しだけ空洞になる。
なぜだろう。視界がすっきりしたような。
俺はコンソールから蘇生魔法を実行しているだけだが、かっこつけて言う。
「――リヴァイヴ・オーバーコード」
白光が遺体を包み、渦巻きながら上空へと昇る。
空間が震え、石壁が微かに軋む。
静寂。
やがて、指が動いた。
王女が息を呑む。
王子の胸が上下し、目がゆっくりと開いた。
「……ここは……」
王女が崩れ落ちるように抱きつく。
「ルーク兄様……!」
「ア、アリス、ど、どうして?俺は……」
ルーク王子は茫然としながらも、確かに生きていた。
俺は満足げに腕を組む。
どうだ、神の御業だろ?
とても強く抱きしめあった兄妹は、もうどうやっても離れそうにない。
俺もアリスと抱き合いたかったが、まあお兄さんに免じて今日は。
よかったね。
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◇
その夜。
国王ルドルフと司祭アーデスが、玉座の間の一角で密談していた。
「四天王と魔王ゾロスキアを討ち、死者までも蘇らせるとは……」
ルドルフの額に汗がにじむ。
「勇者ユウト……もはや人間ではないな」
司祭アーデスは低く息をつく。
「神の御使い、と呼ぶにふさわしい力です。到底……我らに制御できるものではない」
ーーただ
「あの幼さには、つけ込むことはできるのかもしれない」
国王は険しい顔で視線を落とす。
「馬鹿なことを言うな」
外の夜空に、戦いを終えた世界の静寂が広がる中、王国の未来を思案する二人の影だけが揺れていた。
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◇
王国内某所
夕方になっても、帰ってこなかった。
三日目の夜、宿屋の扉が乱暴に叩かれた。
何度か見かけたことがある、両親の仲間だった男が立っていた。
血の匂いがした。
「……あいつらは帰らねえ」
それだけだった。
少女は、言葉の意味がわからなかった。
「勇者が魔王を倒した。だが、派手にやりすぎたみたいだな。
戦場は大きな穴になっちまった」
男は酒の匂いをさせながら笑った。
「ま、英雄様のおかげで世界は救われたってわけだ」
少女はまだ理解できない。
「で、お前はどうする?」
男の視線が変わった。
「金はない。後ろ盾もない。」
「おまえ、可愛い顔してるな」
男が手をのばす。
少女は一歩下がった。
その夜、彼女は走った。
荷物も持たず、靴も片方落としたまま。
振り返らなかった。
少女は、夜空に輝く星を見た。
世界を救った勇者の光は、あんなに美しかったのに。
どうしてその光は、パパとママの帰る道だけを、
真っ黒に塗りつぶしてしまったんだろう。
小説書いてみたくて処女作になります。
至らぬ点しかないと思いますが、毎日投稿するのでご容赦ください。
※この作品はアルファポリスにも掲載しています。




