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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第29話 絡み合う波紋

薄曇りの空の下、サリーは布に包んだ料理を胸に抱えて立っていた。



見慣れたはずの建物なのに、足が一歩だけ重い。



「……いこ」



小さく呟いて、寮の扉を叩く。

出てきたのはエルナだった。



「……サリー?」



一瞬の沈黙。

次の瞬間、エルナは目を見開いた。



「サリー!!」



勢いよく抱きつかれて、サリーは少しよろける。



「ごめん、急に……これ、持ってきたの。うちの料理」



「あ……うん、ありがと……って、ほんとにサリーだよね……?」



「うん。エルナ会いたかったよ。……メリー、いる?」



その名前に、エルナの表情が少しだけ揺れた。



「いるよ。呼んでくる」



中に通される。

懐かしい匂い。でも、どこか少し違う。



「カレン先輩は……?」



「……先輩は、もういない。脱走、したんだって」



短い沈黙が落ちる。

やがて、奥から足音がした。



「……サリー?」



振り向いた先に、メリーが立っていた。

少し痩せて、でも、ちゃんと同じ顔で。



「メリー……!」



気づいたら、走っていた。

ぶつかるみたいに抱きつく。



「ほんとに……サリー……」



「うん……うん……」



しばらく、言葉が出なかった。

やっと離れて、顔を見る。



「……あれから、どうだった?」



サリーの問いに、メリーは少しだけ笑った。



「まあ……いろいろ。何回か、ちょっとね」



軽く言ったけど、その目は笑っていなかった。「もう、泣かなくなったよ」とつけ足した。



「でもさ」



メリーは

続ける。



「アイツら捕まったって聞いたとき、ちょっとスッとした」



「……そっか」



サリーはうなずく。



「ごめん」



思わず、言葉がこぼれた。



「私、一人で逃げて……」



メリーは首を振った。



「私も、ごめん」



「え?」



「一人で残った。……約束。やぶった。」



メリーの声が部屋の空気に消えていく。



「何度も、行けばよかったって思った」



「何度も、残ればよかったって思った」



ふたりは同じような言葉を同時に吐き出す。

三人で少し笑った。



「残らないほうが、きっと良かったよ……」



メリーのつぶやきでお互いに、少しだけ視線を落とす。



エルナが間に入るように笑った。



「ねえサリー、戻ってくる?」



その一言に、空気が静かに変わる。



サリーは「ここも好きだけど」そう言いながら、ポケットからカードを取り出した。



「これ、見て」



差し出したのは、冒険者ギルドのカード。



裏側には、子供みたいな字で『天使の台所』。小さな家とランタンの絵が添えられていた。



「冒険者と……ここで、働いてるの」



サリーは少しだけ照れくさそうに笑った。



「帰る場所、できたから」



メリーはそのカードを見つめて、ふっと息を吐いた。



「……そっか」



エルナも、静かにうなずく。



「いいね、それ」



サリーはカードを胸に戻した。



「でも、また来るよ。料理、もっと持ってくる」



今度は、ちゃんと笑えた気がした。





救いと災いは、同じ糸を紡ぎあう。



王城に設置されたルクサーン王国軍作戦本部。

軍は現在、近隣のタウラス国への進攻作戦を展開している。



戦況は圧倒的に有利だが、それでも抵抗はある。

損耗を最小限にすべく、日夜作戦が作られ上位機関が決定を下す。



「あの馬鹿め、性犯罪などと、恥さらしが……」



犯罪奴隷となった教師の一人の父親――軍部中枢の重鎮、ルチアーノ中将は、憎しみに満ちた目で資料を睨んでいた。



「我が一族の恥を晒し、息子を奴隷にしたあの『元勇者』……」



彼は正当に作戦立案を行った。

稟議され、評価されていく。



我らも人間だ。恨みも抱く。

あの勇者は初日、我らが4か月かけた作戦を丸ごと焼き払った男だ。

——————必ず通る。





「奴を使い捨ての槍にすべきです。戦果を上げれば良し、死ねばそれまで」



「暴発のリスクは? 奴は禁呪まで使えるはずだぞ」



「監視報告では軟弱な、お人よしらしい。子供を一人攫えば首を振るだろう」



男たちは、作戦を吟味していく。

フンド将軍は、ルチアーノ侯爵の案がいたく気に入ったらしい。



「王都内で暴発させるより、かの国で終わらせた方が安全だ。温和に誘導すれば問題ない」



司祭アーデスが優雅にお茶を啜り、微笑んだ。



「進めましょう」



その日、

ユウトを死地へと誘う命令書が発行された。





俺はアルトから届けられた書類を確認している。

乗り掛かった舟とは言え、孤児院の運営について口を出さなければいけない。



孤児院は現状のまま、運営してもらうことになった。

職員には一人ひとり面接をした。これが疲れた。



俺はエヴェラに言われたとおりに話すだけ、

エヴェラが勝手にプロファイリングしていた。



何人か怪しそうな人間は解雇し、スラムから何人か雇った。



家がなくヘンスの家に泊まっていた4人は

この孤児院に入れることにした。



彼らは孤児院で生活するため、

俺たちの食堂からは離れてしまう。



いつでも来ていいことを伝えた。

彼らは卒業後働かせてほしいとせがむ。



俺が許可する前にヘンスがOKをだしている。

ガレンさんも大きく〇をだした。まあ俺も賛成だけど。



しかし、孤児院はこれでいっぱいだという。

没収された院長の資産は、建物の増築や運営に回されることになった。



あの3人の男の資産は、わかる範囲で、被害者に届けることになった。当然、サリーにも。



書類仕事が一段落したころ、窓の外でトラの笑い声がした。

ヘンスと何かを言い合いながら、窯の煙を浴びていた。



何も知らない。あいつは、何も知らないままで笑っている。

俺はそれをしばらく眺めていた。





「私はいらない」



サリーが言った。



「自分はただ、逃げただけ、だから」と続けた。



エヴェラがメッセージでサリーに伝える。



————あの時、あなたは、石を投げた。

子どものままで、戦っていたのよ。忘れないで。



「そうだな。サリーは逃げて来たんじゃない。戦ってここまで来たんだよ」



俺は、数日前より、ずっと軽い表情になった彼女に言った。



「孤児院の運営のために使って」



サリーはそれだけ言うと席を立った。

迷っているような、笑っているような顔だった。





食堂に平穏が続いたある日。



ダンジョンから戻ったトラとサリーが話している。

彼らは今、ダンジョン内にできた横穴の調査依頼を受けている。



思ったより横穴が深く、何よりレポートと地図を作成が求められる。

それが一番の問題らしい。エヴェラにやらせてもいいが、ここは勉強だろう。



「だからさー。犯罪奴隷ってなんだよ? まずドレイって何」



サリーは面倒そうな顔で、シチューにパンを付けている。

レポート作成に飽きて、あの孤児院の職員たちの行く末を話していたらしい。



トラが言う

「父ちゃんが言ってたんだよ。うちの村もドレイだったって……」



俺とサリーが顔を見合わせる。

笑っていたヘンスたちが黙る。ヨルカはトラを覗き込む。





翌朝から、俺たちは調べることにした。

トラの村を探すことは、彼の最初の目的だった。



昔ドレイだった村。

意味がわからないが、大きなヒントかと思われた。



常連客にライカンスロープについて聞いてみる。



「こわい」「やさしい」「連環の光教団」

「昔、奴隷扱いだった」「強い」



俺たちは情報を集めるたび、

何か根が深い、闇を感じていた。



どうして教団の名前がでてくるのか。

俺たちは不思議に思い相談を重ねる。



カリンとレナを通じて

教団の古い記録を調べたエヴェラは、ある奇妙な歴史を掴む。



―—ライカンスロープを含む獣人の蔑視・奴隷化。

これがいつ始まったのか不明とされる。



だが、約300年前。前回の勇者が召喚され、

ライカンスロープであった仲間と共に、当時の魔王を打ち破った。



この瞬間から、長年、獣人を敵視をしていた『連環の光教団』は方針を一転。

全てのライカンスロープへの謝罪と保護の方針を打ちだした。



——こんな記録も見つけた。



エヴェラ: 1年前、ある神父がライカンスロープの村を『救世』を掲げて率い、最前線に送り込んでいる。



俺   : 結果は? 1年前ならトラと符合するけど。



エヴェラ: その神父を含め、部隊は全滅。生存者は……記録上はいない。



俺   :村の名前や情報はあるか?



エヴェラ:情報はこれだけみたい。村の場所や名前なんかは消されているのか、初めから無いのか。



トラの村の場所、そして彼がなぜ一人でいたのか。

その真相は、厚い教団の機密の壁に隠されていた。





――ヴゥン――――――――――――――――――



[Internal Log - Memory Slot 631]


対象事象:Subject Sへの介入フェーズ完遂。

     Userおよびファミリーユニットによる受容を確認。

診断  :ファミリーユニット内の心理的安全圏の深化を認める。

     認知再構成、認知・行動変容を確認。経過観察へ移行。

新規log :Subject Tにより新たなサブルーチンが発生。


User生存ルート継続率:93% → 95%(Stable)


次期提案優先度:

・監視ユニットが8→1に激減。警戒を提案。

・Subject Tタスクの安全な進行管理。

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