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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第四章 加速する日々

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第28話 動き出す歯車

開店から、もう何日が経っただろう。



カリンちゃんに依頼して数日たった。

俺たちは自然を装って生活をしていた。



冬だからか、炭と一緒につくった

小型七輪がセットで売れまくる。



さらに干物も売れて、早くも利益が出始めた。

少額だが、みんなにおこずかい程度の給料を出した。



来週からは大通りで、焼き鳥・干物を

焼いてさらなる売り上げを目指すつもりだ。



スラムの住人も木や薪を持ってきてくれるようになった。

ま、どこから持ってきたかは、俺たちは感知しない。ただ、パンと金に交換する。



来週からは小鳥なんかも募集を出そう。

彼らは訪れるたび、『天使の台所』から出る匂いに目を細め羨む。お金が貯まれば、きっといいお客さんにもなってくれるだろう。



希望にあふれる人たち。

その中に自分もいる。これがとても不思議に思えた。



◇



カリンちゃんが来てくれた。



「勇者様、お待たせしました!」と、一人の青年を連れて『天使の台所』に現れた。



銀色の甲冑を纏い、鋭い眼光を放つその男。

鎧には教団のシンボルである円環が描かれている。



身構える俺に、さわやかな笑顔を向けて言った。

「新進気鋭の神殿騎士アルトだ。」



「変な人です」

カリンちゃんがそう紹介してくれて、俺たちは戸惑う。



この男と俺たちで

事件を解決するよう言われたようだ。



「しんしんきえい?」

ヨルカが聞いてくる。



「まあ自分には言わない言葉だ」

俺はヨルカを撫でた。



彼は王からの勅命書を掲げ俺たちに見せる。

この神殿騎士アルトと事件の調査。

——だけでなく、逮捕・罰則の規定が俺たちの判断で可能。



アルトはこの事件を

「教団の浄化」として真摯に受け止めているようだった。



俺   :どうやったらこうなるんだよ。 証拠があるとは言え、俺にこんな権限渡すか? カリンちゃんが最強なのか?



エヴェラ:通常はありえないね。政治的な判断……何かが複合的に動いていそうだね



俺   :まあ、この神殿騎士とやらが、毒抜き役で、ポーズで終わらないよう見張らないとな。



アルトの話を聞いていると腐敗を極端に嫌い、「法と正義」を絶対視しているようにみえる。心配はいらないかもしれない。



◇



俺たちは有力貴族の本家を順に訪問することにした。

問題の3人の職員。こいつらは王都に自分の"部屋"を持っている。



今回は強制家庭訪問だ。

親の顔が見たいわけじゃない。邪魔しないように事前に詰めておくつもりだ。



トラ・サリー・レナを連れて行く。

貴族の私兵と戦闘になる可能性だってある。トラとサリーはそのためだ。



ただし、神殿騎士のもつ、威光・権力はかなり高いようで、

全ての貴族は、ほとんど抵抗することはなかったのだが。それは後でわかった。



レナは参加を強く希望した。

自分も「知りたい」と。レナはサリーから孤児院のことを聞いたのだ。



孤児院の運営には教団もかかわっていたことがわかると、

酷く憤慨していた。彼女が生きて行く中で貴族と話すような場面は貴重だろう。



彼女の気持ちと経験のため、

レナも連れて行くことにしたのだ。



俺はこの4人と馬車に乗っていた。

トラとサリーは豪奢な馬車に興奮している。



俺は黙って子供たちを見ていた。

レナがアルトと隣なのが、少し気になる。



アルトは敬虔な信徒のようだ。

司祭の配下の「神殿騎士」。個人の武力が高いだけでなく、軍を動かすらしい。それぞれの部隊長であることが多いということだ。



やはり、教団は軍と密接に関係している。

この国は法治国家である前に宗教国家なのかもしれない。



テオとは違い、線が細くアイドルのような顔立ちのアルト。

彼はレナに誠実そうな顔を向けて話す。恐らく信仰の話、俺にはほとんど意味がわからなかった。「美しい……」そう聞こえてくる。



レナは、両手を自身の胸に当て、

彼の言葉に光悦の表情を持って返している。



俺は二人を邪魔するように声をかけた。

「アルトはどういう武器が得意なんだ?」



トラが食いついた。

「えー俺も知りたい」



「大曲剣。そういう名の武器です。 罪を別つ。そういう剣です。」

彼は愛刀をなで、トラに貸してくれた。



「よかったら、時間がある時に、トラに剣を教えてくれないか? 飯をだすぞ」俺は、冗談めかして言ってみた。



「そうですね。一度立ち会って、才能があれば」

意外にもアルトの反応は良かった。



「うおおお。いつ? はやくやろう」

トラが馬車内であばれ、揺れる。



「これから豪邸に行くんだから、そのテンションやめて」

サリーに頭を押さえられるトラ。



◇



孤児院で暴行を働いていた男たちの実家――三つの有力貴族の門を順に叩いた。



一軒目。



入口の門は巨大で、俺たちの店ぐらいあった。

門からは専用の馬車で豪邸へ向かう。



現れた小太りの男は勇ましく言った。

「神殿騎士といえど無礼だ。わしを誰だと思っている。」



勅命書を見せつけるアルト。

「反逆者はここで斬る。そういう覚悟で本日伺いました」



大曲剣の柄が光る。

——こいつ、そんな覚悟で来てたのか。俺は少し引く。



「な、バカな」

勅命書を確認し、「ありえない」と言いながら腰を抜かしてしまう。



威勢の良かったルチアーノ侯爵が座り込み、

アルトの足元にすがる。一連の流れを見て、トラが笑う。



サリーに肘でつつかれ

「やべ」っと姿勢を正すトラ。



ルチアーノ侯爵はユウトを見上げる。

屈辱に燃え上がり、血走った目だった。



ユウトはその目に少し怯えるが、

絶対正義のアルトの影に隠れると、侯爵はカメのように首を引っ込めた。



それを見てトラが噴き出した。



2軒目。



「息子が勝手にやったことだ! 我ら一族は無関係だ!」



喚き散らす貴族の当主に対し、アルトは冷徹に、そして執拗に詰め寄った。



「……ほう。では、この裏帳簿にある『寄付金』という名目の口止め料については? これも個人の犯行だと? 虚偽の申告は教団への反逆と見なしますが」



アルトの追及は残酷なまでに正確だった。

彼は実家の資産状況、交友関係をすべて洗い出し、家ぐるみか個人犯罪かを「精査」すると宣言。



家が潰れることを恐れた貴族たちは、震えながら息子たちの切り捨てに同意した。



3軒目



既に他家から情報が回ったのか早かった。

「息子の刑執行、ならびに息子の全財産の没収……異論はありません」



アルトはユウトを一瞥し、短く言った。

「これで外堀は埋まりました。次は本丸です」



俺は、アルトが腐敗に怒り、誠実に対応する人間だと感じた。

教団の教えがそうしているのだろうか。



当たり前のことが

奇跡のように感じてしまう。



◇



帰り道、俺はトラ、サリー、レナを

いつかの喫茶店に連れてきた。



全員がケーキセットにする。

色とりどりのフルーツがゼリーで輝いている。



「明日、孤児院に乗り込むぞ」



俺が言うと、トラが拳を突き上げた。

「おおー、今度こそぶっとばす」



「トラ、ダメよ。まあ、抵抗したら? ……いいけど」

レナがトラの拳を困り顔で掴む。



「サリー。どうする? 食堂にいるか?」

俺は、孤児院に近づくこともできないサリーに問う。



サリーはケーキを小さく小さく切って遊ぶ。

何も答えられない。



「今度は、俺たちがいる」

俺が言うと、レナがサリーの手を握った。



「俺は殴りに行くからサリーが止めろよな」

トラが笑った。



「行くよ……みんなと」

サリーはこぶしを握っていた。



◇



翌日。



王の勅命書を手に、アルト、ユウト、そしてサリーを含む子供たちで孤児院に突入することにした。



その場で逮捕するため、アルトは兵士を連れてくることになっている。



アマンとヨルカは置いていく。

店はスラムの住人のために、開ける。



「アマン、ヨルカ。店のこと、まかせたぞ」



「うん。だいじょうぶ。やっつけてきて」



2人は笑いあった。大丈夫。そんな顔で

俺たちを送り出してくれた。



「な、なんだ貴様らは! ここは教団の管轄だぞ!」

警備の職員をアルトと部下の兵士が蹴散らしていく。



サリーは孤児院の入り口の門を撫でるよう掴んだ。

足が動かなかった。ただ、前に進んだ。震える足のまま歩いた。



彼女の左右にはトラと俺。

後方にレナ。俺たちはサリーをがっちりガードして進む。



職員や孤児院の子供たちが、左右に分かれ道を作る。

「サリー」誰かが叫ぶ。彼女は聞こえないように歩き続けた。



院長室で不敵に笑う院長と三人の教師たち。

自身たちの実家は王国でもかなりの地位。何もできないと自信があった。



「私たちは長年にわたり、迷える子どもたちを支え、導いてきました」

院長が、自信に満ちた笑顔で、アルトに宣言する。



サリーが男たちを睨みつけるが、

覚えてもいないのか、気にもしていない表情で笑う。



「少女たちを弄ぶ、それを導くと言うのか?」

証拠が書かれた紙を見せても笑う彼らに俺が言う。



「そのような書類はいくらも作成できる。不当な言いがかりは止めていただこう」

三人の男が、そうだそうだと口々に叫ぶ。



「何を余裕そうにしているのか知らないが……お前たちの行先はもう決まっている」



アルトが突きつけた勅命書と、実家からの「見捨てられた事実」を知った瞬間、彼らの顔は土気色に変わった。



「院長セレナ、および教師三名。容疑は公金横領、および未成年者への継続的な暴行。これより全員、犯罪奴隷へと堕とす。期間は100年とする」



「私が育ててやったのよ……! あの子たちは、ここがなければ——」



言葉は最後まで続かなかった。

兵士に口を塞がれ、床に押し付けられる。



本当に殴りそうなトラを止め、俺はサリーに聞く「一発、殴っとく?」

サリーは院長の前に進み出て、震える手を差し出した。



院長が手を出すと、サリーが銀色の印章をそっと乗せた。

「この両手があなたを守ってくれますように」



あの日、自分を追い詰めた大人たちが、兵士たちに引きずられていく。

サリーはそれを眺めていた。



カレン先輩は、メリーはどんな気持ちで暮らしているのだろう。

エルナは元気かな。会いに行っても、いいのかな。



記憶の中のメリーの口が、

「ごめんね」と動いた。



サリーは帰ったら、兄に相談することにした。

何かが終わりと始まりを告げた。



◇



最後に手渡された勅命書の末尾に、

俺は目を留め考えていた。



「ユウトを孤児院の王命監察人に任命する」との一文が記されていた。

——就職、してしまった。



エヴェラ:……就職おめでとう、ユウト。これであなたは教団の「公認の監視対象」よ。あら、給料も出るみたいね。



俺   :孤児院の運営関われるのか。みんなの意見を聞いてみるか。



俺たちは『天使の台所』に帰ることにした。

アルトは兵士たちと彼らを連れて行く。



教団内の腐敗は異端扱いになる。

関連施設である孤児院での犯罪は重い。



奴隷の前に「刑」が執行される。

アルトはそう言って嬉しそうに笑った。



彼らと別れ、夜道を家族で歩く。

暗闇の中でも、何故か温かかった。



黒の中に優しい明かりが見えてくる。

店の看板のランタンが帰り道を示す。



歩きながらサリーは、

孤児院のことをみんなに話してくれた。



それは暗い過去じゃなかった。



好きだった給食のメニュー。好きだった授業。

好きだった先生。好きだった友達。



メリーがどんな子だったか、

エルナが怖がりだったか。



「また、二人と友達になれるかな?」

サリーは俺たち全員に聞いた。



「なれるなれる」トラが笑顔で即答する。

ヨルカは難しい顔で考えているようだ。



レナは「大丈夫。お話しに行こう」と声をかけた。



「「だいじょうぶ」」

俺とヨルカの回答が同じタイミングだった。



笑いながら暗闇を歩いた。

エヴェラの言うとおり——また、笑える日がちゃんと来たな。



あのオレンジを目指して。「家」に帰ろう。

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