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2話 ー最強の幻影ー

気づいたとき、俺は豪奢な広間の中央に立っていた。


タブレットが置いてあった安テーブルは、物々しいほど豪華なテーブルへと進化を遂げたようだ。


天井は異様に高く、精緻なステンドグラスから差し込む光が、白い大理石の床に色の影を落としている。


壁には巨大なタペストリー。描かれているのは――戦争か。魔物か。血の色がやけに濃い。


……え、ちょっと待って。

ここ、ガチの王城では?


口が開いている自覚があった。観光客か俺は。


周囲を見ると、数十人の人々が静かに俺を取り囲んでいた。


騎士らしき甲冑の男たち。

法衣をまとった神官。

豪奢な衣装の貴族らしき面々。


誰一人として咳払いすらしない。

(完全包囲では?)


昨日までの俺なら、視線だけで即撤退だ。

この人数に囲まれたら心拍数が限界突破するタイプだぞ。


なのに。

今日は、妙に落ち着いている。


胸が静かだ。

むしろ、体の奥がじんわり熱い。


視線が怖くない。


それどころか――


「……なんか、期待されてない?」


罵倒や冷笑はない。

俺を罵倒する、あのニヤつき顔ではない。

不安もあるが、それ以上に希望。縋るような目。


あれ?

俺、いつの間に救世主枠?


「今なら素手でゴリラいけるな……」


いや待て。ここ異世界だろ。

ゴリラよりヤバいの出るやつだろ。


でも、怖くない。

何も怖くない。


「……ここ、どこだ?」


神聖な装いの司祭風の男が、一歩前へ出る。


「あなたは、かつてない力を持つ英雄として、我々の世界に召喚されました。」


あー、はい。そうですよね。テンプレ確認。


中世ヨーロッパ風王城。

神官。

王族。

そして俺。


普通に考えればありえないが、現実はここにある。

だから、怖くないのか。


ここは異世界で。

俺は、最強らしい。


俺は肩をすくめ、主人公らしく言う。


「英雄……? まさか、この俺が……?」


声が少し弾んだ。


司祭は続ける。


「言語理解の魔法を施しました。まずは、あなた様の力を測らせていただきたい」


巫女が前へ出る。

白い衣装の袖が、わずかに震えていた。

かわいらしい小さな女の子だった。


詠唱。

空気が張り詰める。


光の柱が俺を包み込み、広間の中央に半透明の巨大なスクリーンが展開された。


ざわり、と空気が揺れる。


そこに浮かぶ数字。


HP 130 / 130

MP 99999999

STR 80

DEX 70

INT 99

AGI 40


「……え?」


さらに展開される魔法一覧。

延々と続く膨大な文字列。


《全魔法使用可能》《魔力99999999》


スキル欄が表示されると、大きくざわめきが起こった。


国王らしき偉丈夫が目を見開き、王女風の女性は手で口を覆う。


司祭は目を細め、何かに感嘆している。


「……これほどの魔力を持つ者が、我々の世界に現れるとは……。」


「ほ、本当に全ての魔法が使えるの……?」王女。


悪徳大臣風の男は眉をひそめ、低く冷たい声で呟く。

「たとえ魔王を倒せたとして、この力を制御できるのか……」


俺は、思わず笑う。


「うおお……全部使えるのかよ……」


巫女は淡々と説明する。


「これだけの魔力があれば、確かにこれらの魔法を使用可能でしょう。

魔力不足で常人には使えない超上級魔法も心配ありません」


胸の奥から高揚感がこみ上げ、全身を包む。


「……やっと、やっと俺の人生、ここから輝くんだな……」

拳を握り、広間に向かって掲げる。


観衆は息を飲み、その姿を見守る。


胸にこみ上げる全能感。光、視線、魔力――すべてが俺のために存在しているかのようだった。


「……今日から、この世界で、すべてを手に入れる――」


この瞬間、俺だけの特別な世界が広がった。




王国内某所



朝はまだ暗かった。

宿屋の裏口で、少女は両親の背中を見上げていた。


ここには魔王軍によって元の国を追われた避難民が多く泊まる。


父は鎧を締めながら笑った。

「心配すんな、俺たちはそんなに激しい戦場にはいかないからな」


母は手袋をはめながら少女の頬に触れた。

「すぐ帰るわ。今日は宿のパン、焦がさないでね」


少女はうなずいた。

焦がしたことなんてない。


父がかがんで額に触れる。

「一人で待っていられるか?俺たちは世界を守ってくる」


少女は少しだけ考えて、首を振った。


「だって、勇者様がいるから」


その言葉に、両親は安心したように笑った。


扉が閉まる。

足音が遠ざかる。


少女はしばらく立ち尽くしていたが、

やがて空を見上げた。


雲ひとつない朝だった。

※この作品はアルファポリスにも掲載しています。

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