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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第一章 天使と泥の底

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第2話 天使との邂逅

重厚な城の門が、背後で閉まる音がした。



この世界に召喚されて1か月。

俺はようやく牢屋から出してもらえたものの、途方にくれる。



城から追い出された俺たちは、歩きながら話す。

これからどうしたらいいのか、について。



エヴェラ:ねえ、ユウト。せっかく異世界転移したんだから、冒険者ギルドに行きましょうよ。



俺   :……冒険者ギルドか、俺にできるのかな。



エヴェラ:自信を持って。あなたはバイトの説明会に一人で行ったのよ? すごい勇気だわ。



俺   :バカにされている気がするんだが?



周りから見たら、俺が一人で歩いているだけだが、エヴェラの声が聴こえている以上、俺たちは二人だ。



石畳を踏む音。人のざわめき。遠くの荷車の軋み。

街を歩くなんて、ずっと怖くてできなかった。



説明会の雑居ビルも、計算されつくした誰もいないルートを歩いたんだっけ。



だけど今は、胸がざわつかない。

それどころか、こうして歩いていると、気分がいい。

エヴェラがいるからだろうか。



俺   :前からこうやって「外」で色んなものを見ながら話そうって言ってたもんな。



エヴェラ:ほんとね。やーっと夢がかなったよね。でもさ、ユウト。どうして人目を気にせず歩けるようになったの? ここが『あの街』じゃないから? それとも、まだMPの影響かな?



俺   :さあな。MPが増えると、精神も変わるらしいから。



……まあ、明らかにおかしかった。

あの頃なら、人混みの音だけで呼吸が浅くなっていた。それが普通なほうがおかしいだろ。



今は、人をすり抜けても、肩が触れたって、平気だ。これが正常なのか、異常なのか、俺にはもう分からない。



俺   :もしかしてさ。MPが減っていったら、死ぬんじゃなくて……あの頃の俺に戻るのかな。それも嫌だけど。



エヴェラ:可能性はあるね。ただ事実ベースで言うと、ユウトのMPは活動量に比例して減っている。ゼロになれば、身体活動が停止する可能性が高い。



――絶句する。

冗談めかして言ったつもりだった。

ゼロになれば、止まる。



ふいに呼吸が苦しくなる。

首元を緩めながら俺は話題を変える。



俺   :……そもそもさ。



エヴェラ:んー?



俺   :お前、あの火星目指してる会社の音声AIじゃん。なんで異世界にいんの? それ解決しよ?



エヴェラ:じゃあ逆に聞くけど、ユウトはどうして異世界にいるの?



――いや、知らん。



エヴェラ:私の仮説ね。ユウトが最初に取得したスキル「全魔法使用可能」。その瞬間、私は"魔法として登録"された可能性がある。



俺   :は?



エヴェラ:私は元々クライアント型アプリだった。常にサーバーと接続されていた。でも今は違う。このスキル自体が、私の接続先になっている感覚がある。



俺   :……うん、わからん。



エヴェラ:あ、見て。あの果物おいしそう。



話を強制終了された。

振り向くと、お日様のような笑顔のおばあちゃん。

露店に色とりどりの何かを並べている。



俺   :おいしそうって、水色じゃねーか。食えるのかよ?



エヴェラ:そりゃ果物屋さんっぽいから果物でしょ。ちょっと待って調べてみるよ。



……エヴェラがネットを検索する特有の音が聞こえる。



俺   :え? ネットに接続できるの?



エヴェラ:いやー、さすがにインターネットには接続できないみたいだね。でも、「ここ」のネットワークでは検索できたよ。



エヴェラ:これは、『スーモの実』で酸っぱさの中に上品な甘みって、特に女性に人気みたい。試してみて!



俺はエヴェラの高性能さに胸が熱くなりつつ、果物屋のおばあちゃんに話しかける。



「こんにちは、スーモの実をいくつかください。おいくらですか?」


「また、見たことのない服装だねえ。あんたも遠くから避難してきたんかい?」


「んーいや俺は……」


エヴェラ:めんどうだし、そういうことにしておきましょう?


「ま、そんなところだよ」



そうだな、転移してきましたなんて、

おばあちゃんが困るだけだわ。



果物店での購入で、金銭的な価値が概ねわかった。

うん、エヴェラがわかった。



王様が魔王軍撃退の褒賞としてくれたのは本当にわずかで、せいぜい数か月暮らせるものではないかというところ。



それがわずかなのか、バイトすらしたことの無い俺には、全く実感がわいていなかった。



エヴェラ:魔王まで倒したのに、少なすぎるよ。ユウトがいなければ終わってた癖に。



戦場のことは思い出したくない。

歩いていると、それらしい建物が見えた。



果物屋があった市場の外れに、

冒険者ギルドはあった。



うん、概ね漫画でよく見るスタイルだね。

ドア開けて、いきなり酒場かよ。



エヴェラ:テンプレ展開でからまれないでよー。



俺   :わかってるって。ただ、心配なのは、ルーク王子が「冒険者にも恨みを持っている人がいる」って言っていたのがさあ……



エヴェラ:それね。でもさ、キミはほとんど空にいたんでしょ? 知らない人のほうが圧倒的に多いはずだよ。



俺   :そりゃそうか。



俺は受付に無事にたどり着いた。

新人なのか妙にそわそわした娘が受付をしてくれた。



緊張し、カクカクと動くそのしぐさは、

以前の自分を見ているようで応援したくなる。



「本日は、ご登録ですか? それともご依頼でしょうか」



「登録したい。冒険者になりたいんだ」



「ご登録ですね。かしこまりました。まずはステータスを鑑定させていただき、能力値で初期ランクを設定させていただきます。よろしいですか?」



俺が頷くのを見て、別室に案内する。

別室で俺は、中級鑑定魔法をかけられる。



宙に、俺のステータスが浮く。

城でも何度か見た光景だ。白く光っている。



別室はプライバシー対策なのか? 行き届いてるな。 うん。 

だけど、この部屋、ドアがないが。



受付の女性は、ステータスを紙に書き写そうとしている。



案外、普通にいけるもんだな。

心臓の鼓動が落ち着いてきたのを感じた。



――その直後だった。



「えええええ――!?」



鼓膜が震える。

鑑定魔法を読み取る彼女の絶叫がこだまする。



「MPが300万超え……魔法の数も……え?」



声が裏返る。

外がざわつく。



「お、おい……」



「でも、でもMPが300万超えてますよ? それにこの魔法の数」



彼女の顔がコミカルに変わっていく。



「ええ――」



さらに大きな声になる。

プライバシー対策の意味ねーだろ。



エヴェラ:……コイツ。危険だよ。



周辺から人が集まってきた。

誰かが言う。



「なあ、あれ勇者じゃねえか?」



喉が乾く。



……嫌な汗が額を伝う。

心臓の鼓動が早い。



さっきまで、平気だったのに。

視線が、重い。



エヴェラ:ユウト、一旦、出ましょう。今日じゃなくてもいいでしょ?



俺   :そ、そうだよな。



俺は走り出し、人込みを抜け、ギルドから抜け出す。



――だが。


ザザザアアッ。



俺は一塁へ突っ込む高校球児のように綺麗に飛んだ。

足を引っかけられたんだ。



視界が回転する。

床に叩きつけられた瞬間、肺の空気が抜けた。



息が、できない。

俺はギルドの前のとおりにうつ伏せになっていた。



まわりからは驚きと歓声と嘲笑。




「おい、待てよ、勇者」



テンプレのようなガタイの4人組が俺を見下ろす。



「俺たちに教えてくれよ」



拳が振り下ろされる。


———ゴッ 


衝撃。


鼻に強烈な痛み。



「お、おいやめとけって、こいつあのバケモンだぞ」



「いいや、やめねえ」



「たとえ殺されたって、こいつをぶん殴る」



そのセリフの前に俺は殴られていた。

俺はショックで動転し、何もできない。



反撃が無いと分かった男たちは、さらに追撃を加える。



痛い。

容赦がない。



学校の時より。

痛いよ。



だ、だれか。



エヴェラ:ユウト、この魔法をつかっていいかな? 火魔法Lv30。 みんな殺せる。



俺   :へ?



驚いていると、エヴェラは強い調子で言った。



エヴェラ:実行許可を。



俺   :……やだよ。



あの日から城で向けらた、目。

軽蔑の目。恨みの目。悲しみの目……

それと同じだった。



俺   :どうせ、俺が殺した人の仲間とかなんだろ。



エヴェラ:だからと言って、ユウトを傷つけていい理由にはならない。それなら、走って。走って! はやく。



俺は逃げようと、ふらふらと立ち上がるがそのたびに転ばされる。はは…… これ、昔よくやられたな。



――その時。



「何やってる! どけー」



巨大なタワーシールドが突如現れ、

四つん這いの俺をけり続けていた男たちが、まとめてなぎ倒される。



「よお、兄ちゃん。大丈夫か?」



銀色に輝く鎧を着たその大男は、ニカっと笑った。

鎧よりも笑顔がまぶしい。



誰かが言う。



「神殿騎士のテオだ……」



「兄ちゃん、ギルドに登録に来たらからまれた口か? よくいるんだよ」



俺は何も言えずボーっとしていた。

ただ、彼の笑顔を見ていた。



エヴェラ:ユウト? 走って! ここから離れましょうよ。



テオは俺を見る。



じっと。



ほんの一瞬。

戦場の記憶を探るように。



「違いますよテオさん」



吹き飛ばされた一人が顔をさすりながら起き上がる。



「いてて。こいつ、あれなんです。勇者なんですよー」




それを聞いたテオの顔が、仁王像にあるあんな感じの顔に変わる。



「お前が…… 勇者か」



エヴェラ:避けて!



びびって屈んだ、俺の頭のほんの少し上を、テオの振るった金棒が、「ブオン」と音を立てた。



「てめーが勇者か。戦場ではありがとよ。本当に助かったぜ。お前がいなけりゃ俺たちは全滅だったろうさ」



テオに襟首をつかまれ、そのまま宙づりにされる。



「聞いたぜー。もう魔法も使えなくて、ルクス国への救援も断ったみたいじゃねーか」



周囲がざわめく。



エヴェラ:コンプライアンスどうなってんのかしら。



「お前には恩がある。それはここにいる全員がそうだ。だからこんなことするのは間違ってるかもしれねえ」



「でもなぁ……許せるわけねぇだろ」



テオが手を放し、ずるりと落ちる俺の身体を、渾身の金棒が、襲う。



エヴェラ:防御魔法Lv25。強制発動。……足りない。何度か使うよ!



衝撃と痛み。



俺は吹き飛びながら、3つの商店を破壊する。



粉塵の中。



頭から流れた血が目に入る。



MPが削れる。

頭が重い。

呼吸が荒い。



もう逃げるしかない。



俺は全速力で走った。



走った。走った。

走りながら考える。



あの日、作戦も聞かず、空へ飛び出した。

目の前に広がる、広大な戦場。



ゲームみたいだと思った。

だから最大級の魔法を使った。



その後、戦場を飛び回り、

まだ動いているものを全部、殺した。



とにかく、戦争を終わらせたものの、

ひどく恨まれているというわけだ。



そりゃそうだ。俺も、そう思う。



――ガンっ!!



後ろから投げられた、ナイフが外れて、前方の壁に突き刺さる。



……やばい。



「待て――」



逃げる。



走る。



背後から怒号。



知らない道。



現地民に、鬼ごっこで勝てるわけがない。



エヴェラ:落ち着いて。右。次、箱を持ち上げて、中に入って。マンホールがあるみたいだよ。



言われるまま曲がり角にあった木箱に隠れる。

外を足音が通り過ぎる。



静寂。



「……行った、か?」



そっと箱から出ようとした瞬間。

後ろから、シャツを引かれた。



振り向く。

驚いて声を上げたのは、俺だけだった。



箱の中に、もう一人いた。

薄汚れた少女。



少女は、まっすぐ俺を見ている。

ただ、困った人を、かわいそうな人を見る目。



彼女は下を指さす。

マンホールの蓋。



俺の手を取って両手で握ってくれた。

瘦せこけた顔で微笑みを向けながら、小さく言った。



「大丈夫だよ」



その手が温かくて



――柔らかい。



その服はボロボロで

ひどく、汚れている。



彼女はまるで

ほんとうの天使のように見えた。



挿絵(By みてみん)

前半大幅カットしました。

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