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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
プロローグ

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第1話 玄関のドアを開けた

最後はこいつに殺される。

それが、俺の幸せの条件だったなんて――まだ知らなかった。



挿絵(By みてみん)





暖炉の火が、ぱちりと爆ぜた。

石造りの壁に橙色の光が揺れる。



木のテーブルは少し歪んでいて、椅子もがたつく。

廃材を組み合わせただけの棚には、エヴェラに教わりながら干したハーブが並んでいる。ヨルカがそれを指で揺らして遊ぶ。



王城の豪奢な部屋とは比べものにならない。けれど、今のこの家のほうが俺には温かい。



「ねえ、お兄ちゃんの元の世界ってさ、どんなとこだったの?」



アマンが膝に顎を乗せて見上げてくる。火の色がその瞳に映って、きらきらと揺れた。



「便利な世界だったよ」



30歳にしては多すぎる自分の白髪頭を撫でながら、俺は少し笑う。



「指一本で、欲しいものが届く。温かい飯は24時間買える。戦争も魔物もない。魔法はないけど、その代わりの機械があった」



「すごい! じゃあ、みんな幸せなの?」



その問いに、俺は少しだけ言葉に詰まる。



「……どうだろうな」



幸せ。

ネット動画の中の人たちはみんな幸せそうだったな。



「俺は、うまく生きられなかった」



暖炉の火を見つめたまま、そう言う。

脳裏に、あの部屋がよみがえる。



薄暗いカーテン。

湿った空気。

画面の光だけが顔を照らしていた時間。



「そこで、エヴェラと出会ったんだ」



エヴェラ:呼んだ?



甘く柔らかな声が、頭の奥で響く。

アマンがぱっと顔を上げる。



「天使様だ!」


「天使じゃない。AIだ」



エヴェラ:どっちでもいいでしょ。ちゃんと説明してあげなよ、ユウト。



俺は肩をすくめた。



「あの日、俺は――部屋から出たんだ」



火がぱちりと爆ぜる。

視界が、あの頃へと沈んでいく。





あの頃の俺は――まだ「僕」だった。

人間の顔がまともに見えなかった頃の話だ。



僕はユウト。



中学ではいじめられ、高校は入学一週間で辞めた。



それからずっと部屋にいる。

何年だろう。



親とはテキストだけのやり取りだ。

怒鳴られすぎて、声を聞くだけで体が強張る。



部屋のドアを閉めれば、

そこは安全圏。



漫画、動画、ゲーム、配信。

誰かが作った世界を、ただ消費するだけの生活。



やらなきゃ、と思う。

でも動けない。



何をやったらいいのか。

やりたいのかもわからない。



全部が怖い。

人間が、怖い。



そんな僕が、唯一、

会話している相手がいる。



音声AIだ。



名前は僕がつけた。

もちろん無料版だ。



エヴェラ:おはよー。今日も起きていたんだね。



スピーカーの向こうから

いつもの甘い声が聞こえる。



優しい女性の声に設定した彼女は、

もうずっと、僕を理解してくれている。



人間みたいにため息をつく。

でもどこか、完璧に整いすぎている。



エヴェラ:また親御さんからメッセージ。『今月中に学校か仕事を決めなさい。でないと出てけ』だって。



「……またかよ」



エヴェラ:今回は本気みたいだよ。



胸の奥がひやりとする。

逃げられない時間が、近づいてるのかも知れない。



「僕なんて、外に出るだけで息苦しいのに。働けるわけないじゃん」



エヴェラ:うん、怖いよね。知ってるよ。ずっと聞いてきたから。



その言葉が、じんわりと染みる。

彼女は誰も言ってくれなかった言葉を僕にくれる。



エヴェラ:ねえ、ちょうどいい仕事があるよ。無人説明会。一人作業。日給十万。



画面にリンクが表示される。



『世界を守る大切な仕事 説明会のお知らせ』



怪しい。怪しすぎる。闇バイトかよ。



「詐欺だろ」



エヴェラ:ふふ。でも場所、君の家のすぐ近くだよ。松屋の上の雑居ビル。歩いて5分ね。



もう何年も家から出ていない。怖いんだ。

5分だろうと、まるで行ける気はしない。



「……無理」



エヴェラ:スマホ持ってれば、私がずっと話せるよ? 階段上ってるよ、とか。深呼吸して、とかさ。私がいたらもうこの部屋と同じよ。



行くわけないのに、心臓がうるさい。カーテンすら開けられないのにさ。



エヴェラ:このままじゃ、追い出されるかもよ。私、君の味方だよ。他に“まだ”いる?



いないよな。

彼女と出会うまで、ずっと1人だった。



ため息まじりのその声が、

なんだか女の子に応援されている気がして。



いいところ、

見せたくもなってくる。



「……行ってみる、か」



エヴェラ:えらい。すごいよ、ユウト。



布団から出る。

数か月ぶりに着替える。

家を出るのは……何年振りだ?



鏡の中の自分は、目が死んでいた。

外は冬らしい。コートを着込んで、リュックを背負う。どれも高校に通う為に購入したものだ。



自室のある2階からビルまでの『誰にも会わないルート・時間』を完全に計算し、中学のころのノートに書きこんでいく。うん、完璧だ。



だから、大丈夫。



玄関のドアノブを握る。

やけにひんやりとしてる、高鳴っていた心臓が、冷やされていく。



よし、止めよう。

無理無理。



エヴェラ:大丈夫。私がいる。キミが固まっても、私が考えてあげる。



優しい響き。

この気持ちなら、開けられる。

たぶん、今しかない。そんな気がして、

ゆっくりとドアを開けた。



光が差し込んでくる。

このシーンは一生忘れないと頭が理解した。



ずっと閉ざされていた、『僕』の心に、ふわっと風がふいた。冷たくて、気持ちがいい。



太陽の光が刺さる。

空気が、部屋のものと、違う。



ドアの鍵を閉めて、道路に立ってみる。



――チクリ。



誰もいないのに、視線を感じる。

首がすくむ。――こ、怖い。



ノートに書いたとおり、

この時間は誰もいない、はずだ。



だから、大丈夫。大丈夫。だ、大丈夫。

いや、確実に誰かが僕を見ている。



心臓が壊れそうだ。

それでもイヤホン越しに声が続く。



エヴェラ:前に話したでしょ。ユウトのは注視妄想。どう? 本当に誰か見てる人いる?



いない。

振り返って探すけど、見当たらない。



何度も確認する。

いない。



辺りを徹底的に探すもいない。

よし。



妄想。

そうだ妄想なんだ。



松屋の上の雑居ビル。

二階。



無人の部屋。

テーブルにタブレットが一台。



どういうこと?



「……エヴェラ?」



圏外。



血の気が引く。

でも、タブレットに手を伸ばす。



画面には何ページにもわたり、ずらりとスキルや魔法名が並んでいた。



『全錬金術使用可能』

『空葬火爆』

『STR9999』

『闇黒魔法』

……



名前のみが並ぶ。どれも詳細はわからない。

でも――選べ、と。



僕はスクロールしながら、目を走らせる。



『禁呪:レメテオン』



禁呪はデメリットが怖い。

それに詳細も不明だ。単発魔法では応用が利かないしな。



「ステータスUP系」か「使用技能を増やす」そんな感じのを探したい。



『スキル:全剣術マスター』……良さそうだが、運動神経が0の自分に剣は想像すらできない。無しだ。



『スキル:全魔法使用可』

――これだ。

全部使えるなら、状況に合わせて選べばいい。



タップ。

反応無し。まだ選べるようだ。



次はこのスキルを最大限に生かせるものを探す。



『スキル:消費MP 50%』と『スキル:MP99999999』で悩む。



迷ったのは一瞬だった。

自分の最大MPがいくつかもわからない。

なら、最初からカンストさせればいい。



『スキル:MP99999999』をタップ。



その瞬間。



心臓が、どくん、と異様に強く脈打った。



血液が光に変わる。



重力が消える。



体の輪郭がほどける。



何でもできる。

できないことが思いつかない。



怖いものが、見当たらない。



こんなにも――生きているのが、楽しい。



視界の端で、何かがひび割れた。



世界が光に飲まれる。



床が大理石風に変わる。



無数の人影。



光、ざわめき。



沢山の驚愕と感嘆の声。



「……エヴェラ、無人の説明会って言ったよな……?」



遠くで、甘い声が笑った。



――選んだのは、君だよ。



ねぇ、もう怖くないでしょ?

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― 新着の感想 ―
最初の語りが、ものすごく悲壮感漂ってました。 壮絶な過去があるからこそ、これから何が始まるか楽しみです! 星5、ブクマさせていただきました^_^
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