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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第三章 命の使い道

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第14話 俺たちの食堂を作ろう

初級冒険者講習も終わり、俺たちは冒険者として活動を本格的に始めた。



と言っても、危険な仕事は極力避け、主に採取や害獣駆除のような仕事を選んでいた。



「なあ兄ちゃん、もうちょっとマシな依頼ないの? 採取ばっかじゃん」



トラが依頼書をひらひらさせながら言う。



「マシなって、例えば?」



「Cランクの魔物退治とか! 盗賊団の討伐とか!」



「ランクが全然足りないだろ」



「サリーだって言ってたぜ。そろそろ飽きたって」



サリーが奥から顔を出す。



「飽きたとは言ってない。……物足りないとは言った」



二人とも確かに強くなっている。

だが、現在の目標は、『安全に』・『魔法を使わず』・『金を貯める』だ。



食堂が軌道にのるまでは、挑戦的な仕事は避けるということで決まった。



トラは今も個人的にアレンさんの指導を受けている。

だが、片腕のアレンさんは、もはやトラに土をつけられることも少なくない。



彼の成長のため、どんなことをしてあげられるのかな。



俺   :エヴェラ、トラはもっと強いパーティに入れてもらうとかしたほうがいいのかな。安全を選ぶのはいいけど、アイツの成長を止めているよな?


エヴェラ:それも一つの手だけど、ユウトの手で守れなくなるよ? それであの子が帰ってこなかったら、あなた耐えられる?


俺   :無理だ。でも、俺がアイツの重りになりたくない。


エヴェラ:それはトラが決めることよ。アレンがダメなら、他の強い人に師事させるなんてどうかな。先生を探すの。


俺   :そうだな。でも、俺が知っている強者…… ルーク王子。王子が孤児の指導なんかしないよな。ギルド長がしてくれるとは思えないし。ちょっと探してみるか。



俺は、トラが「クリムの実」と呼ぶ赤くて甘酸っぱい実を口に放り込む。

目の前にはこれまでに稼いだ金が散らばっている。テーブルの上に並んだ銀貨と銅貨を、数えているのだ。



飲食店の登録にはまとまった金額が必要だ。

王からもらった褒章の金は、これに当てさせてもらう。



あとは運転資金。少なくとも3か月くらいは客が来なくてもなんとかなる、というところまで溜まっていた。冒険者も並行すれば問題ないだろう。



「そろそろ始めるか」



「おにーちゃん、これで何するの?」



アマンがテーブルの上の銀貨を積み上げて遊んでいる。

俺は不敵な笑みを浮かべて子供たちを見渡した。



レナ、トラ、サリー、アマン、ヨルカ。五人全員が俺を見ている。



「食堂、始めるか」



一瞬、静かになった。



「……マジで?」



トラが目を丸くする。



「マジだ。金は貯まった。場所も目星がついてる」



「やったー!」



アマンが積み上げた銀貨をぶちまけながら飛び跳ねる。

サリーが慌てて拾い始めた。



「こら! お金ばらまくな!」



「ごめーん!」



レナが口元を押さえて笑っている。

目が潤んでいるように見えたのは、気のせいだろうか。



「レナ、お前が責任者な。名義もレナにする」



「……え? わたし?」



「お前が一番しっかりしてるだろ。俺より向いてる」



レナは少し困った顔をしてから、小さく頷いた。



「……うん。がんばる」



トラが「俺は何やるの!」と身を乗り出す。



「お前は肉体労働全般。あと客が暴れたら止めろ」



「よっしゃ!」



「サリーは会計と接客な」



「任せて。トラよりはマシでしょ」



「俺だってできるし!」



「できないでしょ」



ヨルカが俺の膝に乗ってきた。

小さな手で俺の服を掴み、見上げてくる。



「ぼく……なに?」



「ヨルカは看板娘だ。可愛い顔で客を呼び込め」



ヨルカは意味がわかったのかわからないのか、にこりと笑った。



「アマンは料理長」



「りょうりちょう!?」



アマンが両手を広げて目を輝かせる。

自分が一番偉いと思ったらしい。



「偉くはないけどな。お前が食べたいものを、俺が作る」



「じゃあハンバーグ!」



「……知ってた」





場所はすぐに決まった。俺たちの拠点の出口にある廃倉庫だ。

これで、コソコソ出入りする必要がなくなる。



場所は、市場から川に沿って少し歩いた先。食堂のターゲットは貧困層とできれば富裕層だ。この立地は、その2つの居住区のちょうど真ん中にある寂れた場所だ。



どちらからも少し遠いが、どちらからも来れる。なかなかいい場所だと俺たちは思った。



窓板が外れかけていて、雨漏りもひどい。さすがにこのままでは使えない。俺たちは廃倉庫の前で地べたに座り込んで、しばらく眺めていた。



「リフォームが必要だな」



「ボロボロだね……。でも、大きさはちょうどいい」



レナが壁を触りながら言う。



「壁ぶちぬいていい?」



トラが既に拳を握っている。



「まだ買ってないだろ」



エヴェラ:立地は悪くないわよ。川沿いで通気もある。建物の構造もしっかりしてる。補強すれば十分使えるわ。


俺   :持ち主は?


エヴェラ:エルリーナさんよ。例の食材屋のおばあさん。



例の、というのは俺たちがいつも使っている食材屋だ。

彼女は市場の隅でレタスに似た野菜を束ねていた。俺が「あの廃倉庫を買いたい」と言うと、彼女は手を止めて俺をまじまじと見た。



「随分立派な男になったなあ」



ストレートに褒められてたじろぐ。



「子供たちに食わせるための食堂を作りたくてさ」



老婆は少し黙っていた。

横にいた巨漢のジョーが、微かにうなずいたのが見えた。



「まあ、そこは使ってないからね。……だけど」



エルリーナは目をギラリと光らせ、ニタリと笑う。



「もちろん食材はうちで仕入れるんだろうね?」



「も、もちろんだ。これからもドウゾヨロシク」



「あと、ジョーの飯を月に一度、タダで食わせな。こいつ最近、食いもんにうるさくてね」



ジョーが無言のまま、ゆっくりうなずく。

その巨体が揺れるたびに、背後の肉がびしゃびしゃ鳴っていた。



「……いいよ。ジョーさん、好き嫌いある?」



ジョーは少し考えてから、低い声で一言だけ言った。



「……甘いの」



俺とエルリーナが同時に彼を見た。

意外すぎる。



「デザートも出す予定だから、任せてくれ」



彼女は目を細めてから「半額でいいよ」と言った。俺はどうにか顔が崩れるのをこらえた。



彼女に支払いを終え、登録も済んだ。

鍵を受け取り、名実ともに、この場所は俺たちのものになった。





数日後、購入した廃倉庫のリフォームのため、子供たちみんなを廃倉庫に集めた。注文した資材も届いているようだ。



「うわー! 秘密基地だー!」とアマンが叫び、ヨルカもそれにならう。そうだな、自分たちの基地ができたら楽しいよな。俺は『家』を作り始めた日の高揚感を思い出す。サリーが「基地じゃなくてお店でしょ」と嬉しそうに笑った。



「よし、今日からみんなで、このボロ小屋をお店に改造します」



子供たちが歓声をあげる。



「何からしたらいいの?」



レナが手を挙げて質問する。



俺   :エヴェラ、頼む。


エヴェラ:了解。全員にピンメッセージを送るわよ。



子供たちの目が一瞬ぱちりとした。エヴェラが設計図を画像で送ったのだ。



「あっ、こういう形になるんだね!かわいい」とレナが空中に手をかざした。たぶん頭の中で図を回転させているのだろう。


「文字も来た……」とトラが困り顔で言う。「かべのほきよう?」


「壁の…補強、ね」サリーが先生風に補足する。



この国の文字が読めるのは、レナとサリーしかいない。2人は俺たちの先生をしてくれている。俺とトラはやっとすべての文字を覚えたが、単語や文法はまだまだこれからだった。



「メッセージが文字だったら、みんな読めるようになるだろ」そういう単純な考えだった。もちろん音声もセットで送っているため、ヨルカの言語能力向上にもいい効果のはずだ。



トラは文字に苦戦して頭を抱えている。俺と同じだ。



「それで、どの壁からやるのー?」



サリーが俺の中のエヴェラに話しかける。俺の目を覗き込んでも、エヴェラの顔は見えないぞ?



エヴェラ:サリーは北側の壁ね。画像の矢印のところ。みんなそれぞれ割り当ててあるから確認して?



「南側って、どっち?」トラがキョロキョロと見回す。



エヴェラ:あなたから見て右の壁よ。矢印見て。



トラが目を細めて空中を凝視している。

それでも、ここ最近で子供たちの識字はだいぶ上達したようだ。



俺はエヴェラから送られてきた図面を頭の中で確認しながら、トラに木槌を渡した。俺も南側担当なのだ。



「じゃあトラは壁の下の部分を叩いて確認してくれ。俺がやると……まあ、あれだから。音が変わるとこが補強が必要な箇所だから」



「なんであれなの」とサリーが言った。


「体力の話だ。気にするな」


「任せろ!」



トラが勇ましく木槌を振り上げる。


ゴン、ゴン、ゴン…ズガアアアン。


南側の壁は全て崩壊し、枠組みだけが残った。

砂煙の中、トラの顔が固まっている。



エヴェラ:言ったでしょ。優しく、って。


「……ちょっとだけ力入れすぎた」



トラが木槌で頭をかく。

サリーが「ちょっとだけじゃないでしょ!」と肩を怒らせた。アマンは外の光が差し込むのを見て「おー、すごーい」と喜んでいる。



「ま、まあ、あの程度で壊れるなら、一からやった方がいいな。うん。」



そういうことにした。ヨルカはそっと俺の隣にやってきて、崩れた壁のあたりを見てから俺を見た。



「で き た」



ヨルカとアマンは、朝集めてきた粘土質の土を木製の型に詰めてもらっていた。見ると綺麗に型に詰められている。ただし、二人の顔と服も真っ黒で、俺はふきだした。



これらは1週間ほど干して魔法で焼いてレンガにする。それまでにヨルカに火魔法を習得してもらうつもりだ。ヨルカは難易度の高い魔法『ピンメッセージ』をたった数十分でマスターした天才児なので、余裕だろう。



もちろん安全に使えるように、火の扱いも指導するつもりだ。

エヴェラが。



「よし。全部入ったら、トントンってやる。やってみるか?」



俺が枠をそっと持ち上げると、レンガの形の塊がずらっと並ぶ。



「「おおー」」



アマンとヨルカが顔を見合わせる。早くやりたいのか夢中になって枠に詰め始めた。



ここ数日でヨルカの言葉は確実に増えている。一語か二語のことが多いが、意味をちゃんと選んで使っている。エヴェラが「言語習得の速度が異常に高い」と何度か言った。



エヴェラ:面白いのは、ヨルカが文字を見ると意味だけじゃなく形そのものを記憶しているのよ。音と絵と文字を同時に処理している。


俺   :すごいな。


エヴェラ:……まあ、ね。それが何を意味するかは、もう少し見てから話しましょう。



少し間があった。



俺   :何? 今「まあ、ね」ってなに。


エヴェラ:何でもないわよ。次、床板と壁板いくわよ。





エヴェラの設計は現実的だった。腐った床板と一部の壁板を交換し、藁と粘土を混ぜた断熱材を挟み、鉄棒を埋め込んで簡易鉄筋のように補強する。



さらに土壁にレンガを埋める予定だ。手に入る範囲で、かなりしっかりしたものになるらしい。



レナが板を運び、サリーが寸法を測り直し、トラが木材を切る。アマンが刷毛で漆喰を塗り、ヨルカが「ここ…トントン」と言いながら粘土のレンガを作っていく。



夕方になると廃倉庫は少しだけ廃倉庫じゃなくなった。壁の穴は塞がれ、屋根も直って窓からは橙色の光が入るようになった。



川辺で焚き火をしてみんなで飯を食った。サリーが持ってきた干し肉と野菜を放り込んだだけのものだったが、なぜか美味かった。



「はやくキッチン作らないとな。食堂なのに川辺で料理か」


「でも気持ちいいよ」と風に目を細めるレナ。


「そっか、川辺にテラス席…… 確かにありだな。」



アマンが「おにーちゃん、食堂できたらなに作るの?」と聞いた。


「そうだな、まずはアマンが食べたいもの。メニューは食いしん坊の料理長に任せたい」



アマンが目を輝かせた。あの顔はハンバーグを選ぶな……



彼が料理長になるかもしれない未来の食堂。

俺はそこに至るほんの少しの道筋を作るだけでいい。



川の音が聞こえた。俺はぼんやりと水面を眺めていた。



何年も部屋の中で画面だけを眺めていた時間。

あれはいったい何だったんだろう。



ここには、こんなにも、魅力的な時間が流れている。

これが、俺の命の使い道なのかもな。



エヴェラ:……ユウト。


俺   :なに。


エヴェラ:明日、認可の申請に行きなさい。店舗を開くには届け出が必要よ。


俺   :わかってる。レナもつれてくよ。あいつを責任者にする。……俺より向いてる。


エヴェラ:あと。今の独り言、子供たちに聞こえてたわよ。


俺   :え?



俺が振り向くと、五人全員がこちらを見ていた。

レナが「お兄ちゃん?」と小さく驚いた声をだす。



「……なんでもない。飯、おかわりするか?」


「「「する!!!」」」

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