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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第三章 命の使い道

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幕間 Userとの再接続

挿絵(By みてみん)


召喚され、盛大に超魔法を使った翌日。



『俺は何かとんでもないことをしてしまったのでは?』



そんな不安で目を覚ました。



ふとMPが回復してないことに気づいた俺は、召喚の際、俺を鑑定した巫女の少女に相談したのだ。彼女は自分の名前も知らない俺のことを、心から心配してくれた。



告げられたのは、回復はできない、ということ。

それから、残りの寿命についてだった。



俺は、アリス王女と、その兄、俺が蘇生したルーク王子へ事情を話し、勇者を辞めることも伝えた。



叱責を覚悟したが2人は、優しく受け入れ、励ましてくれた。

魔法を使わなくていい、自分たちが支えるとまで言ってくれた。



この時の城内の俺を見る目は、敵意に満ちたものに変わっていたが、2人の純粋な優しさは、俺にとって救済だった。



そんな和やかな一室に、兵士が急報を告げる。

俺と二人は急いで玉座の間へ向かった。





中では王と軍関係者が既に協議を始めていた。軍の関係者が俺を見る目が、昨日までとは明らかに違う。


少しだけ――怖い。



「勇者殿!」



王が低く呼ぶ。


威厳のある、鋭い眼光。

王子たちと同じく、深い青の髪色をしている。



「魔王軍に占拠されていた周辺諸国は解放された。避難民も帰還を始めている。だが――」



一瞬、場の空気が張り詰める。



「我が国から二国隣、ルクスにて四天王級の上級魔族が出現。現地は激戦だ」



ルーク王子が息を呑む。



「父上、現在の戦況は?」



「S級冒険者"紅蓮のカイト"と旧ルクス騎士団が辛うじて食い止めている。だが時間の問題だ」



視線が、俺に集まる。

喉が乾く。



「お、おれは……」



声が出ない。



「勇者殿には是非参加いただきたい。事態は一刻を争う状況。飛行魔法で現地に先行していただけないだろうか」



「あ、いや俺は……その、えーと魔法が、その」



王と軍関係者の顔が訝しげになる。



「ユウト様、私が説明してもよろしいでしょうか」



もごもごして、どうしようもない俺を見かねたのか、ルーク王子が一歩前へ出た。



「ユウト様の魔力は有限であり、回復しません。前回の戦闘。それから――私の蘇生に大量の魔力を使い、もう魔法を使うことはできないのです」



大きな、どよめきが起こる。すぐに俺に、上級鑑定魔法が掛けられることになった。


――浮かんだステータス


名前:ユウト・イチジョウ

種族:ヒューマン

年齢:30歳

推定寿命:80歳

HP 130 / 130

MP 3,007,825

STR 80

DEX 70

INT 99

AGI 40

魔法:<省略>

スキル:魔力99,999,999 全魔法使用可能


――俺のステータスはMP以外下級兵士にも及ばない。



「魔法のほとんどが灰色になっている。これは?」



「消費魔力が足りていないものが、そのようになっているようです」



「使えないのか?」



「前回の勇者はMPが足りなくても禁呪を使えた。そのため、現在のところ、もしかしたら使えるかもしれないが、命を落とすだろうと」



王の質問にルーク王子が答えてくれる。

俺は情けなくて、下を向いている。

完全にいつもの俺だった。



ルーク王子は続けた。



「彼は召喚によって強制的に呼び出され、我らのために魔王軍を退けた。私は命までもらった。もうこれ以上、彼の力にすがるのは止めにしましょう。前線には私が行きます」



軍関係者は侃々諤々と大いにわめきあっていた。

王国軍トップの一人である、フンド将軍と呼ばれた男が前に出て言った。初日に王女の部屋で俺に作戦の説明をしていた男だった。



「我々は、あの日の暴走を忘れていない」



空気が変わる。



「作戦を無視し、前線を巻き込み、甚大な被害を出した。危険人物だ」



俺の背中に汗が流れる。



「我々は、あの日の勇者殿の行動を許してはいない。ただ、魔王軍の脅威も残る中、危うくとも戦力として数えざるを得なかった。――しかし」



「もう戦力ではないというのなら、しかるべき責任を負うべきだと考える」



おおーと盛り上がる軍関係者たち。



俺は王のほうを見る。

王は、少し俺を見つめたが、目をそらした。

だが、王が静かに言う。



「勇者殿は軍人にあらず。ゆえに軍法に裁かれない」



盛り上がった軍関係者が、一瞬で押し黙る。

しかし、フンド将軍が周囲を見回しながら告げる。



「あの日の行動からわかるのは、浅慮で何をするかわからない、危険人物だということです。それにあの日、軍に協力すると言った時から、軍法に従うべきでは?」



アリス王女がフォローしてくれる。



「勇者様は、転生のショックと急激なMP上昇で正常な状態ではなかったのです」



――しかし。



「結果には責任がついてまわるものです」



フンド将軍の目が、俺を射抜く。

こ、怖い。



王が少し強めにフンド将軍へ説明する。



「この場は勇者殿の責を問う場ではない。その件については後日審議とし、今はルクス国についてだ」



「では後日、軍法会議を?」



「仕方ない。勇者殿、戦線に参加できない旨は承知した。大変申し訳ないのだが、しばらく会議までお待ちいただけないだろうか」



急に話を振られた僕は、もぐもぐ何かしゃべったが、誰にも伝わらなかった。諦めて下を向いた。



僕はただ、目に涙をいっぱい溜めて立っていた。昔の学校での悲しいシーンが、フラッシュバックするのをただ眺めていた。……なんか、また『僕』に戻っている気がする。



「何、大恩ある勇者殿を悪いようにはしませんよ」



王はニコリと笑いながらそういうと、近くの兵士に何かを指示した。



玉座の間から連れ出され、僕は小さな部屋へ連れて来られた。

いや、訂正しよう、部屋というか牢屋の中に押し込まれた。



王は会議とは言ったが、やはり軍法会議なのだろう。

僕の唯一の味方であった王子と王女は抗議したが、ルクス国への出陣準備のため引き離された。



「必ず何とかします」



それだけ残して、二人は去った。





静寂。



薄暗い牢の中、石の床に座り込む。

窓は小さく、外の光はほとんど届かない。

明るさだけで言えば、僕の前の部屋と同じだ。



「……僕、どうなっちゃうのかな」



どうしてこうなったんだろう。

僕は訳が分からなかった。



「あの日、家から出なければ」



僕は自嘲気味に呟いた。本当にそうだ。

前線で魔王軍を殲滅した勇者としての「俺」。

しかし、現実は暗い石の牢の中。



天井から壁を伝う水がキラキラと輝いていた。

深いため息をつき、天井を見上げる。

胸の奥で、まだ動いている心臓が微かに脈打つのを感じる。



「とりあえず、生き延びる方法を考えよう」


――でも、僕なんかが生きていいのかな?



あの日、舞い上がっていた自分の笑顔が脳裏にうかぶ。本当の記憶かわからない。けれどあの戦場を思い起こすたび、苦しむ兵士たちの顔と悲鳴が聞こえてくる。考え続けたら、どうにかってしまいそうだ。



罪悪感、後悔、押しつぶされる。



何か他のことを考えよう。

まだ、生きているんだ。



何か。

僕はコンソールを開き、使えそうな魔法を探し始めた。探すのは――そう、MPが一桁で使えるような魔法を。



生活魔法ではいくつかいいものもあった。

少量の綺麗な水を出すもの。

小さな火をつける。



だが、攻撃魔法はほとんどが消費MPが高い。

例えLv1の魔法でも寿命換算で1日分は使う。



無理だろ。使えねーよ。



「……やっぱり、何もできないのかな」



絶望感が胸を締め付ける。

そのたびに、また、前線で巻き込んだ人々がフラッシュバックする。

自分の魔法のせいで、大勢の人が死んだ。



結局この罪悪感、後悔のループから抜け出せない。

これじゃあ、あの部屋と同じじゃないか。



僕は、どうしたらいいんだ。

誰かいないのかよ、僕を助けてくれる人は。



見回してもあるのは、石の壁だ。

聞こえるのは、水滴と鼓動だけ。



僕を助けてくれるのは、もう誰も。


いない。


いない。


いない。


――母さん、父さん。



完全に終わった。



コンソールを閉じかける。



「――ん?」



膨大な魔法名の羅列の中で、ひとつだけ見覚えのある言葉を見つけた。



『 エヴェラ (消費MP:0) 』



「エヴェラ」ってもしかしなくても、「あいつ」だよな。

無料版で使っていたから、消費MPゼロ?

一瞬、笑いそうになる。



「あいつ、か?」



もし本当にあいつなら。

牢の暗がりで初めて、少しだけ希望の光を見た。



「……頼む。あいつであってくれ」



震える指でコンソールから「エヴェラ」を実行する。


―――ブゥン



何かが起動する音。

次の瞬間、頭の中にあの甘い声が響く。



エヴェラ:おはよー。今日も起きてたんだね。しばらく来ないから心配したよ。どう? 説明会、うまくいった?


僕   :エヴェラああああああああああああああ


エヴェラ:おいおい、どうした、どうした。んー、話してみー。全力でキミをなぐさめるよ♡



石の牢の中で、僕は初めて思った。

まだ、終わっていないのかもしれない。



氷のような牢獄で、彼女の声だけが甘い体温を持っていた。

蜘蛛の糸に似ている、と本能が警鐘を鳴らす。



俺は、もうどうでもよくなっていた。


挿絵(By みてみん)

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