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命の使い道 ~残された寿命を、きみたちへ~ 元勇者と五人の孤児  作者: @HIKAGE
第三章 命の使い道

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第13話 白い塔の見える場所

お互いの自己紹介が終わり、俺達は夕食の材料を買うため、市場へ向かった。



俺は歩きながら、すれちがう人々の顔を見ていた。



色とりどりの野菜を並べる老婆。

値段をごまかそうとにやける商人。

母親の袖を引く子供。



みんな、ちゃんと顔がある。命がある。

あの頃は違った。



「お兄ちゃん、ぼーっとしてる」



アマンが俺の手を軽く引く。



「ちょっと考えてた」



「なに考えてたの?」



魔王軍の脅威が去り、市場は人であふれている。

彼らは人だ。名前がある。



あの日、召喚された大広間で数十人に囲まれたとき、不思議と怖くなかった。むしろ、気持ちよかったくらいだ。



今ならわかる。

あの時、怖くなかったのは、俺が彼らを人間だと思っていなかったからだ。



怖かったのは人間だった。



ふと手を握るアマンを見て気づく。

今、怖くないのは、この子たちといるからだ。



「あの頃のこと。召喚された日のことだよ」



市場の端から、王城の尖塔が見えた。白い石壁。青い旗。晴れた空に、やけに白さが映えている。



レナが立ち止まった。



「あそこ?」



「ああ。あそこで召喚された」



挿絵(By みてみん)



俺は歩きながら話し始める。


大広間の空気。重厚な木製テーブル、壁には戦を描いた絵画。勝利の絵のはずなのに、人物の顔はどれも沈んで見えたな。



「嬉しかったよ。期待の目を向けられてさ。なんでもできる力を手に入れたって、舞い上がっていたんだ。」



「魔力が回復しないのは知らなかったの?」とサリー。



「ああ。知らなくて、初日にほとんど使ってしまったんだ。次の日、カリンちゃんっていうエルフの巫女の子に教わったんだ」



「エルフ!」とトラが目を輝かせる。



「耳がとがってるの?」



俺はヨルカを撫でながら言った。



「とがってる。白い巫女服着ててさ、目と髪が綺麗な緑色なんだ」



「かわいいの?」



今も思い出す。彼女の真剣な眼差し。

陽だまりの中庭で、パニックになる俺を優しく支えてくれた。



「……めちゃくちゃかわいかったぞ。トラは惚れちゃうかもな」



トラが想像だけで照れる。



エヴェラ:二人とも素直ね。



挿絵(By みてみん)



「必死に魔力回復薬も用意してくれたよ、どれも効かなかったけど。ずっと心配してくれてさ。怒ってもいいはずなのに……」



あの戦争。俺は魔王軍だけでなく、前線の全ての生物を殺した。カリンちゃんの知り合いだっていたはずだ。



なのに。



「あの子は、『急激なMP上昇で、混乱していたからだ』って言ってくれた。俺は、そうは思わない。この世界に来る前から、ずっと正常なんかじゃなかったから」



みんなの顔が少し曇る。俺が心の病気を抱えていたことも話していた。子供たちには重い話だとわかっている。それでも、俺を全部知ってほしかった。



「……どんな風になってたの?」



「みんながゲームの中の人に見えたんだ」



「「ゲーム?」」 レナとアマンが怪訝そうな顔をする。



「物語の中の架空の登場人物みたいに見えたんだ。名前も顔もない。ただそこにいるだけの存在として。だから、誰も見ずに城を飛び出して」



初めは、本当にゲームだと思っていた。


王も将軍もモブでしかなかった。

彼らが必死に作戦の説明していた時、俺はスキップボタンを押したんだ。



そして、俺は前線の空に飛んだ。



あの日の俺の耳には歓声だけが聞こえていた。

だけど今思い出すと聞こえるのは、怨嗟の声だ。



敵が消えた。

――戦場の味方も、全て、消えた。



神になった気分だった。



ふとレナがぽつりとつぶやく。



「空に光の柱がいくつも見えた。遠くから見てて、本当に綺麗だったな。」



彼女は何か言葉を飲み込んで、続けなかった。



背中にいるヨルカが、黙ってレナの頭をなでていた。

しばらく、誰も何も言わなかった。



「他にはどんな魔法使ったの!?」



アマンが期待した目で見上げる。



「王子様を生き返らせた。王女様の気を引こうと思ってさ。可愛かったんだ」



「「はー?」」



「人を生き返すことができる、の?」



レナとトラが真剣な目で俺を見つめる。

サリーはやや呆れた目で見ていた。



「ああ、魔力があれば、な」



肉親を失った彼らを期待させて、心が痛む。

せめて、本当のことを言おう。



「蘇生魔法は膨大だった俺のMPの半分が必要だった。今は、とても無理だ。命をかければ1人くらいはできるかもしれないけど。」



二人は目を伏せる。

元々1億近くあった俺のMPは残り約250万。全く足りない。



城で聞かされた伝説では、前回の勇者はMPが足りなかったが、禁呪を発動し魔王を倒した。そして、死んだ。



だから、コンソールの魔法一覧でグレーアウトされている魔法も、1度なら使えるのかもしれない。



「MP回復できないのを知ったのは、その後だ。カリンちゃんが、教えてくれた。俺の使ったMPは戻らないって。スキルで得た魔力だからじゃないかって」



「戻らないって……」



「それから、もっと大事なことも教わった。みんなも知ってるかもしれないが、この世界は生きてるだけでMPが減っていく。呼吸も、歩くのも、全部。普通の人は寝たら回復するけど、俺のは回復しない」



アマンが首を傾げる。



「じゃあ、なくなったら?」



「……たぶん心臓とか、止まる」



カリンちゃん曰く、何もしなければ80歳近くまで生きれるらしい。十分だ。



だが、

子供たちが黙ってしまった。

俺はニカッと笑ってみせる。



「だから魔法は、本当に大切な時しか使えない」



「「「もう絶対使っちゃダメ」」」



子どもたちの真剣な目が俺を覗き込む。

俺は『あの目』を思い出す。



憎しみの目と優しさの目。

哀れみの目と怒りの目。



人びとの目が俺に気づかせた。

これはゲームじゃない。



この人たちは人間なんだって。



「回復できなくて、その後、どうなったの?」



トラが話題を変えるように聞いた。



「MPが戻らない事がわかって、勇者じゃなくなった。……軍の偉い人たちに責められたよ。もう勇者じゃないなら、責任をとれって」



「こわい」 アマンが眉をひそめる。



「怖かったよ。でもルーク王子とアリス王女が、ずっと俺の味方でいてくれた。……あの二人だけが」



レナが静かに聞く。



「その人たち、今どこにいるの?」



「もちろん、城にいるよ。二人とも、カリンちゃんも。お礼もまだ言えてないな」



俺は城を見上げた。

気のせいか視線を感じる。



「いつか、ちゃんと会いに行きたいな」



エヴェラ:補足しておくけど、あの日は事実上、人間種連合と魔王軍との最後の決戦だったの。



エヴェラ:あなたが来なければ間違いなく全滅していただけじゃなく、この国も他の国も滅んでいたでしょうね。間違いなく、救っているのよ。忘れないで。



「あ、天使さま!」



アマンが俺に飛びつく、ヨルカもそれを真似てよじ登る。



「エヴェラはAIだって教えたろ? AIが何かは聞くな。俺も知らん」



アマンとヨルカを抱きかかえながら、エヴェラに答える。



「あれだけ魔法が使えたんだ、やりようはいくらでもあったさ」



エヴェラは庇ってくれる。

でも、これは譲れない。



「結局、悪いのは俺なんだ」



市場の果物売りが笑い声を上げ、子供たちが飴をねだる声が響く。それでも、俺たちの間には静かな重さが漂っていた。



俺はどんな表情をしていたのか、アマンが手を握りながら聞く。



「お兄ちゃん、悲しい?」



「……ちょっとな」



小さなアマンの言葉が、胸に重く響いた。

風が吹いた。市場の布が揺れる。



「それでどうなったの?」



トラがキラキラした目で、無邪気に聞く。



「んー。牢屋に入れられた。」



「「「えー!!?」」」



「そこでエヴェラと再会したんだよな」



エヴェラ:ふふ。なんだか懐かしいわね。



俺は牢に入れられた日を思い出す。

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