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隠遁勇者の命の使い道 ~呼吸すらMPが必要な世界で、魔力が回復しない俺は残りの命をキミにささげる~  作者: @HIKAGE
第三章 命の使い道

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18話 剣と魔法と

朝、エヴェラに起こされて目を覚ます。


目覚まし時計もなく、朝の陽ざしも届かない俺たちの家では、エヴェラに起こしてもらうしかない。MPが少なくなった影響なのか、最近、壁の細かな凹凸や、天井のひび割れまで目に入る。


10畳ほどのこの部屋は、子供たちだけとは言え、かなり手狭だ。天井も壁も、この世界特有の見たこともない素材でできており、触れるとわずかに柔らかい。


ここは、どこなんだろう。

今更ながらに思う、俺は何も知らない。

自分がこの国の名前さえ知らないことに。

――今更。


エヴェラ:今までは、まさに周りが見えていなかったのかもね。やっと余裕が出てきたってことだよ。ちなみに、ここはルクサーン王国の旧市街地の地下に広がる遺跡の一つだね。マップはかなり広いよ。


ルクサーン王国か。思い返してみると何度か聞いた気もする。拠点から先にある崩壊した通路の向こうに、広大な遺跡があるかもしれない。


目をこすりながら起き上がると、起きているのはレナだけだ。いつも一番早く起きて、暖炉に火を入れてくれている。


「……コホコホ」

レナが咳をしているのが聞こえる。


「おはよー、レナ。どうした、風邪ひいたか? 治療するよ」


俺に聞かれたのがまずいと思ったのか、レナは口に手を当てた。


「ううん。少しむせただけだから、大丈夫だよ。おはよう、お兄ちゃん」


彼女はにっこりと笑う。


エヴェラ:ユウト、なんでも魔法で治していたら、身体の免疫系だって成長しないのよ?


そういうものか。風邪を克服することで免疫系が成長していく――たしかにどこかで読んだな。


まだ小さいヨルカとアマンはよく眠る。トラとサリーは中学生くらいのはずだが、日々の訓練でクタクタになり、泥のように眠っているようだ。


だけど今日も朝から訓練に行かねばならない。気持ちよさそうに眠る二人には悪いが、今日も起こさせてもらうぜ。俺ははげしくユサユサする。


「ま、まだ寝るー」


サリーがよだれを垂らしながら、毛布に潜り込む。トラは微動だにしない。そうこうしているうちにヨルカとアマンが起きる。


「よし、二人ともジャンプだ」


二人は慣れたもので、眠りこける二人にジャンプ攻撃をしかける。ここに住み始めて3か月と少し、俺たちはこんな日常を過ごしていた。



冒険者ギルドの訓練場は、朝の光に包まれていた。

訓練場といっても、テニスコートくらいの広さの空き地で、隅に魔法や弓矢の的がある程度の施設だ。


「――まず覚えろ。冒険は"力比べ"じゃない。"生存競争"だ」


片腕で器用に腕を組んだB級冒険者アレンが、低い声で言う。ハードレザー製の軽鎧を身に着け、細身の剣を腰に差している。


「お前たちはパーティとしてやっていくんだろ? 今日は、連携について教える」


アレンが俺たちを見まわす。


「一人じゃ生き残れなくても、助け合えばその可能性はぐっと上がる」


並んで立っていた俺、トラ、サリーはうんうんと聞いている。


「当然、連携がうまくいかなければその逆だ」


なぜか俺のほうを見てそう続けた。

アレンはトラにとってはやや大きめのラウンドシールドを渡す。


「トラ。お前は盾を持て」

「え、俺が?」

「そうだ、前に出るんじゃねえ。"立つ"んだ。逃げるな。仲間のために壁になれ」


トラは一瞬迷ったが、やがて大きくうなずいた。


「まあ、体格的に本来はユウトがやるべきなんだが……」


アレンは俺を見て頭を振る。俺じゃダメらしい。


「サリー。お前は遊撃だ。正面から斬るな。横を取れ。足を狙え。敵の視線を奪え」


サリーはナイフを少し長くしたような小剣を二本使うことになった。彼女は異様にすばしっこく、訓練で何度かやらされた鬼ごっこでは誰にも捕まえられなかった。


「速さは武器だ」


そして、アレンは俺を見る。


「ユウトは――魔法使えるか?」

「使えは……する。が、事情があって使えない」


アレンは頭を抱える。


「なんだそりゃ。はぁ、わかった。今日から弓を持て」


エヴェラ:なるほどね。運動神経0のユウトを前衛に立たせず、弓を持たせる。アレンは本当にあなたたちのこと見ているわ♡


俺:なんか戦力外通告にも聞こえるんだが?


エヴェラ:まかせて、弓なら矢じりに細工だってできるから、ユウトだってそれなりの戦力にしてみせる。まあ、まっすぐ飛べばだけど。


俺:おいおい、俺をなめていられるのも今のうちだぜ。


その日の訓練は徹底していた。

トラはひたすら盾を構え、押され、踏ん張る。

サリーは周囲を走り、死角に回り込む。


俺は隅っこで弓の練習をするが全然当たらないため、的から2メートルの距離で練習することになった。アレンには、ほぼ放置されていたが、エヴェラがフォームを指導してくれたおかげか、夕方にはそれなりに飛ぶようになっていた。


連携。

三人で戦う。

俺たちはパーティだ。



数週間後、実戦訓練としてアレンが森での討伐依頼を指示した。俺たちの連携を確認して、問題なければ卒業ということらしい。


討伐対象は、異世界では定番のゴブリン。

Eランクの依頼だ。


俺たちの目の前には、身長130センチほどの半裸姿のゴブリンが4体。口が裂け、童話に出てくる悪魔のような顔をしている。


ちょっと怖い。そして臭い。こいつらの体臭なのか、アンモニア臭が、すでに俺たちの鼻腔にダメージを与えている。


ボロボロの錆びたナイフやお手製のこん棒を手に、ギーッギーと鳴き声なのか何かを喚いては唾を飛ばす。


「トラ、前!」

「任せろ!」


盾がぶつかる。

衝撃音。


ゴブリンのこん棒が叩きつけられるが、トラは動かない。なんでトラはこんなに力があるんだ。

――そして、なぜ俺にはないのか。


「サリー!」


「いくよ!」


横から斬撃。

ほんの数瞬でゴブリン2体の足をサリーの小剣が撫でる。

ゴブリンが短く悲鳴を上げ、怯んだ。

赤い血が土ににじむ。


「今だ!」


トラとサリーが後方に飛び下がる。

俺は準備していた矢をつがえ、胸を大きく開いて弦を絞る。指先が、わずかに震えているのがわかる。


「シッ」

口で言った。


並んだ2体のゴブリンの右側の個体。緑色に光る腹を狙ったその矢は――ゴブリンたちの足元に突き刺さる。


エヴェラがため息をつくのが聴こえる。


しかし。

ダダン!

爆ぜる。


突き刺さった矢は小規模な爆発を起こした。


土埃の中、2体のゴブリンの足はへしゃげ、倒れ込んでいる。一気に距離を詰めたトラとサリーがとどめを刺す。


残る2体は逃げ出し、アレンの声が飛ぶ。


「落ち着け! 焦るな!」


サリーが小剣を、投げナイフのように1体に放つ。

それが肩甲骨に突き刺さり、倒れ込んだゴブリンに追いついたトラが首筋に剣を突き刺した。


俺は毒矢をつがえる。


エヴェラ:ユウト、また外すと思うからちょっと手伝うね。感覚を私に合わせて?


俺は言葉ではなく、彼女がイメージで示すフォームをなぞるように体を動かす。身体が、指先がイメージと一致する。


エヴェラ:今!


――撃つ。


それなりの距離があったが、逃げるゴブリンが振り向いた瞬間、矢はその額にストンと刺さった。


なんの毒だかよくわからないが、エヴェラの指示で作ったこの矢に射たれたゴブリンは、みるみる顔色を変え、泡を吐きながら倒れる。怖すぎる。


戦闘は終わった。


「……できた!」


トラが息を吐く。


「なんか、冒険者っぽい!」


サリーは走り回りながら笑う。

アレンはわずかに口元を緩めた。


「形になってきたな、合格だ」


帰り道。夕暮れの街道。

トラが盾を何度も叩き、サリーが鼻歌を歌っている。

まだ、興奮が冷め切らないようだ。


アレンに最後の射撃について褒められる。

初めて褒められてうれしいが、エヴェラの力だったのでやや複雑だ。


それでも俺たちは、「冒険者としてやっていける」という大きな自信を得たのは間違いない。


俺は大満足の顔で、帰路を歩む。



市街地に入る少し前、竜を象った門から、大きな男が出てくるのが見えた。


背中には巨大な金棒、神殿騎士が身に着ける、教会の紋章が入った銀色の鎧を身にまとっている。


男が気づき、静かにこちらを見る。


「……神殿騎士のテオとかいうやつだ」


背筋が冷える。


エヴェラ:ユウト、警戒して。場合によっては逃げるよ。


知り合いなのか、アレンが軽く声をかける。


「あ、テオさん。久しぶりっすね。見廻りですか?」


テオは黙ったまま、ゆっくり歩み寄る。

鋭い目。

揺るがぬ姿勢。


「……勇者」


低い声。空気が、変わる。

アレンが不思議そうにしている。


さっきまでの温度が消えた。

俺の胸が、わずかに軋む。


夕暮れの光が、やけに赤く見えた。

俺たちの冒険の色が、静かに剥がれ落ちていった。

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